本レポートのトピック
- 米国のインフレ加速は一時的?今後の物価見通しは?
- 今後はチップフレーションによる「コア財インフレの加速」に注意?
- FRB・ECB・日銀の「同時利上げ」はいつまで?どこまで?
米国のインフレ加速は一時的?今後の物価見通しは?
以下図表の【左】で2026年の米国消費者物価指数(CPI、前年比)の動向を見ると、年初の2%台前半から5月の4%台まで急上昇しましたが、その後は鈍化していることが確認できます。
2026年10月14日に発表された9月のCPIは、前年比で3.7%の上昇となり、8月(同3.4%)から伸びが一旦加速したものの、今後のエコノミストの予想集計値(四半期ベース、中央値)を確認すると、インフレ率は鈍化していくことが見込まれており、2027年の4-6月期には2%台前半まで急低下することが予想されています。
このように、2022年に経験したような6~9%台の大インフレの再来が起きないと考えられている背景としては、①2026年のインフレ加速の主因である【青色】のエネルギーインフレは、中東情勢の深刻な悪化がなければ、前年比で見た伸びが2027年から落ち着いていく、②【右上】と【右下】が示している通り、賃金や家賃の上昇率が加速する兆しがないことを踏まえれば、CPIへの寄与度が大きく粘着性も高いサービス価格(→【左】の【オレンジ色】と【灰色】)は安定的に推移する、③中長期のインフレ期待は落ち着いており、物価上昇の「深刻な二次的影響」が生じるサインも見当たらない、などの材料が挙げられるでしょう。
一部の投資家は、ここ数ヶ月で地政学情勢が再び悪化したことなどを受け、「2027年にかけてのインフレ見通しは切り上がっている」という印象を持っているかもしれませんが、【左】の【赤い点線】で示した2026年6月末時点の予想集計値と【黒いマーカー】の直近(2026年9月末時点)の予想集計値を見比べてみると、実際にはそのような変化は起きていないことが分かります。
今後はチップフレーションによる「コア財インフレの加速」に注意?
一部の投資家は、AI関連需要による半導体メモリーなどの価格上昇圧力(チップフレーション)を受け、【左】の【紫色】で示しているコア財の価格が急上昇するリスクを警戒しているようです。しかしコア財に関しては、AIブームによる押し上げ要因だけではなく、2025年に発動したトランプ関税の影響一巡などの鈍化要因も存在するほか、そもそもCPIに占めるウェイトも相対的に小さいため、少なくとも現時点では「チップフレーションがインフレ全体を“過度に”押し上げるリスク」は限定的と考えられます。
Guide to the Markets 2026年10-12月期版で解説『米国:インフレ率と先行指標』
FRB・ECB・日銀の「同時利上げ」はいつまで?どこまで?
以下の図表は、日米欧の政策金利とその見通しについて示しています。
下記はいずれも執筆時点(2026年10月15日時点)で取得可能な最新のデータに基づき記載したものであり、1回の利上げ・利下げ幅は0.25%を想定しています。
米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策
FRBが利上げに踏み切った2026年9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文では、「インフレ率は目標とする2%に対し依然として高い水準にある。今回の利上げはインフレ率を2%目標に素早く戻すための後押しとなるだろう」という認識が示されました。これを受けて金融市場では、「インフレが収まるまで利上げは続く」との見方が広がり、足元では2027年半ば過ぎまでに3回程度の追加利上げが織り込まれています。
上記で確認した、「米国のインフレ率は鈍化し、2027年半ば以降は2%程度で推移する」というエコノミストのコンセンサス予想を踏まえれば、「物価高が落ち着く来年半ばまで、適度なペースで利上げを続ける」という現在の政策金利の織り込みには一定の合理性があるように思えます。もっとも、こうした物価見通しのコンセンサスには、中東情勢の極端な悪化や賃金上昇率の加速といったリスクが十分反映されていない可能性がある点には注意が必要でしょう。
欧州中央銀行(ECB)の金融政策
ECBはFRBより一足先に利上げを開始していたため、2026年6月末時点で、市場の焦点は「利上げに踏み切るかどうか」ではなく、「いつまで&どこまで利上げを続けるか」に移っていました。当時の金融市場では、2027年春頃にかけて2%台半ばまで利上げを続けることが織り込まれていましたが、足元では、①利上げ終了時期は2027年春から2027年夏頃へ後ずれし、②ターミナルレート1も2%台半ばから3%強へ切り上がる、との見通しに変化しました。よりタカ派的な織り込みに変わった背景としては、原油・天然ガス価格の高止まりと、総合PMI2(購買担当者景気指数)の上昇に象徴されるような想定以上の景気改善が挙げられます。
なお、ユーロ圏のインフレ率は、エコノミストのコンセンサス予想では2027年夏頃に2%台前半まで鈍化することが見込まれています。この時期は、市場が利上げ終了を織り込むタイミングと重なっている点を踏まえると、投資家は「FRBと同様に、ECBもインフレ抑制に対する信認を重視し、物価が落ち着くまで利上げを続ける可能性が高い」と見ているのかもしれません。
今後の注目点はフランス国債を巡る混乱であり、その状況次第では金融引き締め策が想定より緩まる展開もあり得るでしょう。
日銀の金融政策
2024年3月の金融政策正常化開始以降、日銀の利上げ間隔は平均で半年程度でしたが、直近は2026年6月の利上げから3ヵ月後の9月に利上げを実施しました。この9月会合後の記者会見では、植田総裁が物価の上振れリスクを抑える方向に「政策の局面が変化した」と述べたこともあり、市場参加者の間では、今後の利上げ間隔が従来の6ヵ月程度から3ヵ月程度へ短くなるとの見方が強まっています。また、こうした見通しの変化に応じて、市場が織り込むターミナルレートの水準も、3ヵ月前の2%から2%台半ばまで大幅に切り上がっています。
もっとも、2%を超えて利上げを進められるかは不透明です。その理由としては、①既に不動産市場の一部では金融引き締めの影響が出始めている、②今後は住宅ローンを抱える現役世代や、利益に対する有利子負債比率が高い中小企業への負担も増していく、③日本の潜在成長率は低く、一時的な要因を除いたインフレ圧力もそこまで高くない可能性がある、などが挙げられます。