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要旨

  • 地政学リスクおよびエネルギー市場のショックを背景に、我々は景気拡大(「トレンドを上回る成長」と「トレンドを下回る成長」の合計)の発生確率を大幅に引き下げ、景気縮小(「景気後退」と「危機」の合計)の発生確率を引き上げた。トレンドを上回る成長の発生確率は40%から10%に引き下げ、トレンドを下回る成長は5%引き上げ50%とした。これにより、景気拡大シナリオの発生確率は60%となり、辛うじてメインシナリオに据え置いた。
  • ホルムズ海峡の実質的な封鎖がどのくらい続くのか—これが投資家にとっての最重要課題である。エネルギー価格の高止まりが長期化した場合、経済がそれを吸収できる余力は限られており、やがて消費者需要が破壊され、景気後退に至るリスクはある。景気後退の発生確率は前回の10%から25%に、危機の発生確率は前回の5%から15%にそれぞれ引き上げた。原油ショックに起因するスタグフレーションは、中央銀行にとって最も対応が難しいシナリオである。
  • 米連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利を据え置いている限り、米国10年国債利回りは3.75%~4.25%の範囲で推移すると予想する。リスク・リターンの観点では、イールドカーブのフロントエンド(短期ゾーン)により妙味があると見ている。また、スプレッド(国債に対する利回り差)が歴史的に見て依然としてタイトな水準にある中、信用格付けの高い債券への移行に好機があると考える。そのほか、証券化商品は引き続き最重要の注目分野である。 
  • 経済および市場のボラティリティが高まる環境下において、我々はアクティブ運用を志向し、足元の市場変動を収益機会として捉える姿勢を維持する。

J.P.モルガン・アセット・マネジメントのグローバル債券運用部門(以下、当チーム)の3月の四半期投資戦略会議 (Investment Quarterly:IQ)は、勃発から3週間を迎えた中東戦争、プライベートクレジットへの懸念、人工知能(AI)による雇用の代替への不安、そして関税政策をめぐる不透明感の中で開催された。現米政権のもとでは、穏やかな四半期を一度や二度過ごすことすら難しい状況である。債券市場の一部ではすでに一定程度の価格調整が進んでいたものの、多くは戦争の帰結と原油価格の動向次第であった。目を背けたくなる現実だが、市場は大きく異なり得る複数のシナリオの狭間で宙ぶらりんの状態にある。

今後数週間から数カ月の間に市場が最終的に落ち着く水準は、現在の市場価格の水準とは異なる可能性が高い。米政権が戦争の落としどころを見つけ、原油価格が70ドル近辺まで落ち着くことで市場が反発するか、あるいは事態がエスカレートし、原油価格が150ドルに向かって急騰することで、市場全体でより本格的なリスクオフが進むか、そのいずれかと見ている。

想定外の方向から生じた地政学的ショックがもたらす不確実性を前に、当チームは、こうしたショックが最終的に経済や市場にどのような影響を及ぼすかについてコンセンサスに達するのに苦慮した。一時的な混乱として片づけるか、システミック・リスクに向けてドミノが次々と倒れていく事態を懸念するかで、見方は二分された。最終的には、いつものように、足元のデータと過去の先例を精査することで、合理的な見通しと投資における今後の方針を導き出すことができた。

マクロ経済の動向

ブレント原油が現在の1バレルおよそ100~110ドルという水準にある中、原油およびエネルギー関連商品全般が企業と家計に対する事実上の増税として機能している。2021~2022年のインフレショック(ロシア・ウクライナ戦争に伴うエネルギー供給の混乱が追い打ちをかけたものの、本質的にはディマンドプル型のインフレであった)とは異なり、今回のショックは、世界経済が安定した軌道にあった中で、純粋に地政学的要因によって引き起こされたものである。企業は関税の影響を消化しつつ、エージェント型AIの台頭を受けて労働力のあり方を再構想している最中であった。

当チームは、エネルギー価格の高止まりが長期化した場合、消費者需要が破壊され、企業収益がマイナスに転じて景気後退に至るまで、経済が持ち堪えられる期間は限られているとの認識で一致した。今後数週間のうちに関係当事者がエネルギー供給の逼迫を緩和する形で合意に達すれば、経済への打撃は限定的にとどまり、市場には安定が戻るというのがチームの見方である。

しかしながら、ホルムズ海峡の封鎖が数カ月にわたって続いた場合、それは史上最大のエネルギー供給途絶となる。原油価格は150ドル近辺まで高騰し、その水準では需要が崩壊する事態が見込まれる。その場合、市場は景気後退をメインシナリオとして織り込み始めると我々は予想する。

主要中央銀行の対応は一筋縄ではいかないものとなっている。FRBは、戦争が物価の安定と完全雇用に与える影響についてより多くの情報を得るまで、金融政策を据え置く方針を示している。直近の連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、パウエルFRB議長は、FOMC参加者の大多数が次の政策金利の変更として利上げを基本シナリオとは見ていない、と述べた。

対照的に、イングランド銀行(BoE)と欧州中央銀行(ECB)はいずれも物価安定というシングル・マンデートに焦点を当てており、早ければ来月にも政策金利を引き上げる可能性を示唆している。FRBは物価上昇が最終需要全体に及ぼす影響を懸念しているのに対し、BoEとECBは、緩和的な金融環境を維持することで意図せず物価上昇を加速させてしまうことを警戒している。

少なくとも現時点では、2008年や2011年に中央銀行の利上げが危機をかえって悪化させたという教訓よりも、2022年にインフレ上昇への対応が遅れハト派的な政策ミスを犯したという記憶への恐怖の方が優位となっているようだ。しかし、我々の考えは2008年の経験により近い。当チームは供給主導の原油ショックは最終的に最終需要を蝕み、景気後退を招くため、政策金利の引き下げが必要になると見ている。

フェデラルファンド金利(FF金利)が3.625%で据え置かれている中、米国10年国債利回りは3.75%~4.25%の範囲内で推移し続けると我々は予想する。より魅力的な投資機会が存在すると見ているのは、中央銀行による引き締め懸念から利回りが60~100ベーシスポイント(1ベーシスポイント=0.01%)上昇した国債市場のフロントエンド(短期ゾーン)である。また、イールドカーブの短期ゾーンは市場全体でリスク回避が広がった場合の有効なヘッジ手段としても機能する。

地政学リスク、AIによる雇用の代替、流動的な関税政策、中央銀行の独立性をめぐる懸念にもかかわらず、当チームは過度に弱気に傾かないよう留意した。企業・家計ともにバランスシートは依然として健全であり、「一つの大きく美しい法案(OBBBA:One Big Beautiful Bill Act)」による追い風、そしてテクノロジーおよび防衛関連の設備投資も現実のものとして存在している。複雑なマクロ経済環境ではあるが、中東戦争の合理的な解決を前提とすれば、悪くない環境である。

シナリオ見通し 

当チームは、景気拡大の発生確率を大幅に引き下げ、景気縮小の発生確率を引き上げるほかなかった。エネルギー価格上昇の波及経路としては、完成品・サービス価格や賃金要求への転嫁よりも、総需要の押し下げへの波及の方が現時点では大きい。トレンドを上回る成長の発生確率を40%から10%に引き下げ、トレンドを下回る成長を5%引き上げて50%とした。これにより、景気拡大シナリオの合計の発生確率は60%となり、辛うじて我々のメインシナリオにとどまっている。

また、ホワイトハウスの発言から、現米政権は事態の収束への道筋と「ガソリン価格高騰の痛み」の早期解消を最優先すべきだとの姿勢を示していると見ている。消費や企業収益への一定のダメージは避けられないものの、OBBBAの下支え効果に加え、テクノロジーおよび防衛分野の設備増強に伴う持続的な投資需要が相殺要因となり、米国は景気後退を回避できる可能性がある。

英国および欧州への打撃はより深刻になり得るが、BoE・ECBともに利下げによって影響を緩和する余地は残されている。ただしリスクは、BoEとECBが目先のインフレリスクにのみ注力した場合、金融政策面での支援が手遅れになりかねないという点である。

景気後退の発生確率は前回の10%から25%に、危機の発生確率は前回の5%から15%にそれぞれ引き上げた。原油ショックに起因するスタグフレーションは、中央銀行にとって最も対応が困難なシナリオである。(1980年代のスタグフレーション下で成功した)ボルカーの手法1は次のようなものであった—需要が弱まっているにもかかわらず積極的に利上げを行い、エネルギー価格高騰の資金調達コストを耐えがたいものにするというものである。企業と家計がエネルギー価格上昇という事実上の増税を負担するにつれ、他の消費に回せる資金は先細りしていく。

メインシナリオではないものの、景気縮小の確率は合計40%に引き上げた。危機のシナリオでは、戦争の長期化と原油ショックの長期にわたる影響がより広範な経済へと波及し、とりわけレバレッジの高い低格付けの借り手への打撃となる。ノンバンク金融システムにおける与信の縮小は、信用環境の引き締まりと、より痛みを伴うデレバレッジ(債務圧縮)の局面をもたらしかねない。

リスク

最大のリスクは、経済が我々の想定以上に底堅く、原油ショックを容易に吸収してしまうケースである。あるいはそれに加えて、各国政府が消費者を支援しガソリン価格の上昇を相殺するために、さらに大幅な財政赤字を計上するという展開もあり得る。政策当局者が、経済そのものが持つ総需要の底力を見誤った場合、中央銀行はインフレ期待の上昇が完全に制御不能となることを防ぐべく、非常に積極的な利上げに踏み切ることになる。そうなれば、資産価格は大幅に下落し、景気縮小が我々のメインシナリオとなる。

債券投資戦略への示唆 

当チームは、大半の国債市場においてイールドカーブのフロントエンド(短期ゾーン)の調整が最善の機会であると判断した。現在市場の期待に織り込まれている利上げ回数は行き過ぎと思われ、投資家がイールドカーブのスティープニング・ポジションを解消する中で、デレバレッジング(レバレッジの巻き戻し)が発生しているように見受けられる。現在の高い水準から、短期ゾーンの国債利回りが低下しうるシナリオは二つある。一つはイランとの戦争が沈静化する場合、もう一つは戦争がさらに激化し、市場の関心がインフレの上振れリスクから成長の下振れリスクへと移行することで安全資産への需要が高まる場合である。

当チームはまた、歴史的に見てスプレッドが全般的にタイトな水準にとどまっている現状において、信用力の高い銘柄へシフトすることにも好機を見出した。これは特に、欧州銀行の資本構造全体にわたって顕著である。また、証券化クレジットは引き続き最も注目しているセクターである。証券化の仕組みに内在するクレジット・エンハンスメント(信用補完)と米国消費の底堅さは、市場がストレスにさらされる局面においても安心材料となる。

まとめ

我々は、米政権の現行政策がもたらす経済・市場のボラティリティの渦中にいる。こうした厳しい環境にあってもなお、市場のリプライシングが生み出す価値創出の機会を逃さず捉え、ポートフォリオに反映していくべきである。現時点では、政権は自らの政策課題の推進と経済・市場の安定確保との間でバランスを取ろうとしている。我々としては、リスクを全面的に落とすのではなく引き続きアクティブな運用姿勢を堅持し、足元の市場変動を収益機会として活かしていく方針である。

※本稿は2026年3月19日時点におけるJ.P.モルガン・アセット・マネジメントのグローバル債券運用グループの見解です。
1  高インフレ、経済成長の停滞、失業率の上昇が同時に進行するスタグフレーションに直面したボルカーは、フェデラルファンド金利を大幅に引き上げ、1981年6月には約20%のピークに達した。この戦略は、極めて積極的な金融引き締めによって意図的に深刻な景気後退を引き起こすことでインフレ期待を打ち砕くというものであったが、最終的にはインフレ率を二桁台から1980年代半ばまでに約3~4%へと引き下げることに成功した。
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