アセット・アロケーションの見方|2024年第2四半期

要旨

  • 2024年は緩やかな経済の減速、インフレ鈍化、及び緩和的な金融政策を予想
  • ポートフォリオにおいてリスクを取る資産として、株式とクレジットのオーバーウェイトを維持
  • 金利はレンジ内で変動する可能性があると見て、デュレーションは中立とする
  • キャッシュは緩和的な政策を想定すると再投資リスクがあると見てアンダーウェイトとする
  • 株式市場はセクター及び地域の選択により、魅力的なアルファを提供すると考える
  • 株式は、米国の景気循環セクター、日本、及び新興国株式(除く中国)を選好する
  • 債券は、ショート・デュレーションの米国ハイ・イールド債券、非政府系モーゲージ証券、及び証券化商品を選好する
  • 株式は一時的な揺り戻しの可能性があると見ているが、リスク資産について概ね前向きな見方を持っている

昨年末は、FRB(連邦準備制度理事会)が2024年の利下げを示唆するなど、遂に緩和的な政策スタンスに舵を切ったとの見方が拡がり、3月の会合はその見方を更に強化するものとなった。市場では、政策金利が利上げサイクルのピークに達した可能性が高いことが明らかになると、リスク資産は上昇し、株式は過去最高値を更新したほか、クレジット・スプレッドはクレジットサイクルの最低水準近辺まで縮小した。

2024年の米国の実質GDP成長率については、潜在成長率を僅かに上回る、かつ、現在のペースに沿った水準である約2%程度になると見ている。米国のインフレ率は徐々に低下し、総合CPI(消費者物価指数)は年末までに2%台前半に達する可能性がある。このマクロ環境において、FRBは年内に2-3回の利下げを実施すると見ており、6月の会合から利下げを開始する可能性があると考える。グローバル全体では、欧州の経済活動が低水準から回復することで、米国の景気減速による若干のマイナスを相殺すると見ている。

マルチ・アセット・ソリューションズ(以下「当チーム」)では、このマクロ環境はポートフォリオ構築の際のリスクを取るにあたっての支援材料になると見ており、マルチ・アセットのポートフォリオにおいては、株式とクレジットのオーバーウェイトを維持する。一方、金利はレンジ内で変動する可能性が高いと見ているため、デュレーションを中立とし、利下げへの期待が金利の急激な上昇リスクを抑えると見ている。

また、今年は金利の低下が予想される環境のため、当チームではキャッシュをアンダーウェイトとする。但し、キャッシュ利回りより国債利回りの方が低い環境(ネガティブ・キャリー)が続く可能性もあり、キャリー補完のためクレジットや通貨への選別的な投資等も行う方針である。さらにグローバルな観点では、各国や地域において今後の金融政策のタイミングや経済成長率が異なることは、レラティブ・バリューの観点からより魅力的な投資機会を提供するだろう。各資産クラスのポートフォリオ・マネジャーが銘柄選択を通じてアルファを獲得できる余地が高まると見ている。

一方で、当チームでは、マクロ環境に関するこの良好なメイン・シナリオに対する重要なリスクとしてインフレ率を認識しており、インフレ率が現在の水準のまま「粘着性」を見せるのか、もしくはさらに悪いケースとして再加速するのかという点を注視している。このような状況は、FRBや他の中央銀行に利下げを遅らせる理由を与え、最悪の場合はよりタカ派的な政策スタンスに戻ることになるだろう。最近の米国のインフレ率は市場予想を上回る伸びとなった一方で、住宅価格などインフレ率の最も重要な項目は低下傾向にあると見ている。しかしながら、当チームでは、労働市場において、これまで抑制されている賃金インフレが今後加速する兆候がないか、引き続き注視する。

株式資産については、投資家がマクロ環境を再評価し、メイン・シナリオを景気後退からソフトランディングに移す中、S&P500指数は昨年10月以降で、1,000ポイント以上上昇した。一方で、景気サイクルの観点では、ある程度景気は底堅い状況が継続する余地はあると考えるものの、サイクルの初期段階にはないことを認識しておく必要はあるだろう。その結果、中期的には引き続き株式に対して前向きな見方を持っているが、より緩やかなペースでの利益成長とバリュエーションの拡大を予想する。

短期的には、テクニカル・モメンタムと利下げ実施ペースに対する過度に楽観的な見方を背景に、株価が急速かつ急激に押し上げられている可能性もあると考える。明確に言えることは、今後1-2年において、企業収益がプラス成長になる余地は十分にあると考えているものの、同時に、最近では株価のモメンタムが弱まる可能性を示唆する兆候も見られている。よって、当チームでは、株式のオーバーウェイト幅を小幅削減し、一時的な揺り戻しが起きた際に再度リスクを取りに行くことを視野に入れている。

加えて、当チームでは引き続き、株式市場全体に対して魅力的なレラティブ・バリューと銘柄選択による投資機会があると見ており、特にクオリティとキャッシュフロー創出能力が高い企業を選好する。

また、最近、株式市場の主役が、これまで超大型テクノロジーセクターに集中していた状況から他のセクターにも広がりを見せていることは重要な点で、これは長期的な株式市場のトレンドとアクティブ運用による超過収益獲得という双方の面で追い風になるであろう。国・地域別アロケーションの観点では、米国と日本を選好し、中国を除く新興国市場の見通しの改善にも注目している。欧州では個別銘柄レベルでは魅力的な銘柄選択の機会も見られる一方で、地域全体では他に比べて相対的な魅力度が低いと見ている。

クレジット・スプレッドは株式市場の上昇に伴い、縮小している。しかし株式市場はテクニカル面では投資家の持ち高は既に大きく膨らんでいる一方で、クレジット市場において重要なテクニカル要因である、新発債に対する投資家の投資意欲は依然として旺盛なことが支援材料となると考える。株式市場が調整する局面では、クレジット・スプレッドは若干拡大する可能性はあるが、クレジットの新発債には強い需要があり、投資家が支払う新発債のコンセッション(新発債プレミアム)は限定的となっている。これは当チームが想定する経済シナリオにおいて、クレジットに良好なリターンが期待されることを示唆すると考えている。

また、足元の市場環境において、クレジットからの主な収益源は、スプレッド縮小ではなく、キャリーから期待されるであろう。この収益源は月並みに聞こえるかもしれないが、ポートフォリオにおいてクレジットが重要な役割を果たせる点であると考える。ポートフォリオ・マネジャーはキャリーが魅力的なクレジットに投資することで、キャッシュのアンダーウェイトによってキャリーが低下するリスクに留意した運用が可能になると考える。クレジットにおいては、ショート・デュレーションの米国ハイ・イールド債券、非政府系モーゲージ証券、及び証券化商品を選好する。

今後の政策金利の低下に伴って、リスク・フリー・レートが低下する見込みであることは、クレジットを更に下支えすると考えるほか、デュレーションは主に長期ゾーンに投資することを意味する。FRBの利下げ開始前は、米国10年債利回りは3.75%-4.50%のレンジを予想する。最近の利回りはこのレンジの上限近くまで既に達しており、逆イールドの環境にある中で、米国10年債はキャッシュに対して年間0.17%ほどネガティブ・キャリーの状況にはあるが、これは小幅な利回り低下による値上がり益で相殺することができるため、デュレーションはアンダーウェイトとせずに中立とする。

米国債の利回りについては、米国経済の大幅な成長の鈍化がなければ、大きく低下する可能性は低いだろう。代わりに、国債のレラティブ・バリューについてはより多くの機会があり、金利のレンジ内での取引がより活発になると考えている。当チームでは、国債については、米国、ユーロ圏の中核国及び周辺地域、そしてオーストラリアを選好する。一方で、カナダと日本はアンダーウェイトとする。

また、政策金利は米国で5.5%、欧州では4%の水準にあるため、一部の投資家はキャッシュを引き続き保有することを検討するかもしれないが、これはリスクを伴わない取引とは言い難いと考える。確かに、キャッシュを保有することで市場リスクの一部を回避できるが、同時に、キャッシュ・ポジションには再投資リスク(当初投資した利回りと同じ利回りで再投資することが必ずしも出来ないリスク)を伴うであろう。当チームでは全ての主要な資産クラスにおいて、ベータとアルファの双方の面で良好な投資機会が多く存在するこの環境では、キャッシュは言うまでもなくアンダーウェイトになると考えている。一方で、キャッシュをアンダーウェイトすることによって足元のキャリーを獲得できないリスクに留意した運用が肝要であると考える。

政策金利が年半ば頃に低下し始めるにつれ、金利ボラティリティの更なる低下を予想する。他の資産のボラティリティについても、既に景気拡大期に見られた平均的な水準となっている。株式が調整した際にはボラティリティが一時的に上昇する可能性はあるが、今年は各資産クラスのボラティリティは全般的に抑制された水準に留まると考えている。

インフレ率の更なる低下に加え、このボラティリティが抑制されている環境は、資産間の相関関係が緩やかに低下する可能性を示唆している。株式と債券が負の相関関係に戻ることは予想していないものの、資産間の相関関係の低下により、マルチ・アセットのポートフォリオにおける分散投資の意義は益々高まると考えている。

総括すると、緩やかな経済成長とインフレ率の鈍化、政策金利の引き下げ、及び低ボラティリティの継続に特徴付けられる環境はポートフォリオのリスク選好の姿勢を支えると考える。投資家なら誰でも経験したことがあるように、市場は時として過度に拡大する可能性があり、短期的には株式市場でもこの傾向が見られる可能性がある。しかしながら、当チームは概ねリスク資産にとって追い風となる環境にあるとの見方を維持しており、一時的な揺り戻しが生じた際にはリスクを積み増すことも視野に入れている。

マルチ・アセット・ソリューションズ:主要な洞察と「ビッグ・アイディア」

今回のストラテジー・サミットにて詳細に議論された主要な洞察と「ビッグ・アイディア」は以下の通りとなっている。これらは、マルチ・アセット・ソリューションズのポートフォリオ・マネジャーとリサーチ・チームのコアの見方を反映したものであり、また、議論の土台となる共通認識となり当チームのアセット・アロケーションの議論において定期的に再検証されるものである。当チームでは、これらの「ビッグ・アイディア」を活用して、ポートフォリオのバイアスを確認し、また、全てのポートフォリオにこのアイディアが反映されていることを確認している。

  • 経済成長は底堅く、米国は減速するが、欧州、アジアにおいては改善。景気後退リスクは低下
  • インフレ率が鈍化する中で、年半ばにかけて利下げが開始される
  • 利回りのレンジ内推移を見込み、デュレーションは中立
  • 景気後退リスクの低下はクレジットの追い風に。スプレッドの縮小余地は限定的だが、キャリーは魅力的
  • 株式は、良好な業績見通しを背景に、中長期的に更なる上昇余地あり
  • 株式において、クオリティとキャッシュフロー創出力から米国を、バリュエーション拡大余地から日本を選好
  • 主なリスクとしては、インフレ率や賃金の再加速を背景としたタカ派的な政策、企業の警戒姿勢、及び融資基準の急激な厳格化