要旨
- グローバルな景気拡大は、AI(人工知能)関連の設備投資や財政支出、中東情勢の緊張緩和に伴うエネルギー動向の改善などに下支えされる見通し。
- マクロリスクは、成長率とインフレ率ともに上振れ方向に偏っている。二次的なインフレリスクが再び金融引き締め局面を招き、株式と債券の順相関が維持されるリスクに注視している。
- リスク性資産については引き続き前向きな姿勢を維持し、米国や日本、新興国の株式、および米国ハイ・イールド社債を選好している。欧州株式については中立的な見通しを維持する一方、欧州の成長下振れリスクを踏まえ、欧州のデュレーションを選好している。
- J.P.モルガン・アセット・マネジメントのマルチ・アセット・ソリューションズ(以下、当チーム)は、米国および欧州の中央銀行の金融政策見通しについて、市場予想に比べてハト派的に見ている。ただし、米連邦準備制度理事会(FRB)の政策動向よりも、相対的に軟調な景気などを背景に、欧州中央銀行(ECB)やイングランド銀行(BoE)の政策動向に対してより高い確信を持っており、ハト派的な見解は欧州国債を中心にポジションへ反映する方針である。
2026年の前半は、世界的にリスク資産の底堅さが強く印象に残った。経済活動は繰り返し続く地政学ショックを概ね乗り越え、企業業績は市場予想を上回り続けた。米国とイランの紛争を巡るエネルギーショックは、多くの市場参加者が懸念したようなマクロレジームの転換を引き起こすには至っていないと言える。
こうした環境下で、マルチ・アセット・ソリューションズチーム(以下、当チーム)は2026年6月下旬に2日間の投資方針会議を開催した。議論を通じて、リスク資産に対する前向きな方針を再度確認した。
世界経済がトレンド並みで推移するという見通しは株式への穏当な強気なスタンスを支え、特に利益成長の増勢が強い米国および新興国が有望と考えられる。クレジットにおいても、米国ハイ・イールド社債が魅力的な最終利回りを示しており、デフォルト率も低い中で、ポートフォリオに組み込むべきリスク資産と考える。ただし、国・地域毎に景気動向は乖離する可能性があり、相対的に軟調と見込まれる欧州の株式は中立とし、国債はロングとする。一方、底堅い経済の中で米国債利回りはレンジ内で推移すると見込まれ、中立を維持する。
マクロ経済および政策の見通し
当チームのベースシナリオでは、今後12か月間の米国経済は年率2%程度の健全な成長を示すことを見込む。直近のグローバル購買担当者景気指数(PMI)の総合指数は、欧州がやや軟調であるものの、世界成長がトレンド近辺で推移していることを示している。
人工知能(AI)関連の設備投資サイクルが経済成長の大部分を牽引している。2026年前半に世界の設備投資は再加速し、世界(除く中国)の設備投資額は年率換算で10%超の伸びとなった。AIおよび半導体需要と直接結び付くアジアの一部地域で経済活動が回復している。これが世界の貿易サイクルの改善につながっているが、特に有利な立場にあるのはAIサプライチェーンの中核的役割を担うアジアである。
今後、設備投資がテクノロジー以外の領域へと広がり、労働需要が底堅く推移することで、景気拡大は継続すると見込んでいる。2025年は、通常は同じ方向に動きやすい米国の設備投資と雇用の間に乖離が生じたが、それも今後数か月間で労働市場が回復に向かうことで、再び連動して推移するようになると見ている。これまでの株式資産の増加による追い風に加え、雇用者数の増加が消費を下支えする見通しである。
エネルギーショックの中でも世界経済が底堅く推移してきた背景には、過去のショックほど金融環境が引き締まらなかったことが一因と考えられる。当チームは、イラン情勢の緊張緩和が継続し、ブレント原油価格が年末にかけて1バレル80ドル、ないしそれ以下へ向かうと見込んでいる。世界の原油市場は戦争前時点で供給過剰にあり、各国・地域の在庫再構築や中国の原油輸入の正常化が価格を一時押し上げる可能性があるものの、再び高騰にまで至るリスクは限られる。
米国コアインフレへの波及について、当チームは今回のエネルギーショックのみによる影響は限定的と見込む。ただし、物価を巡る上下のリスクは、下振れリスクに比べると上振れリスクの方が大きく、(二次的な影響として)消費者等のインフレ期待が上昇する兆候がないか、労働市場の需給のひっ迫やAI需要による財価格の上昇が構造的な物価上昇圧力とならないか、データをモニターしていく。
今後、主要中央銀行(除く日銀)はタカ派的なトーンを維持しつつも、利上げは見送る可能性が高いと考える。当チームでは、FRBは年内政策を据え置き、2027年後半に1回の利下げを実施すると予想し、BoEとECBも年内政策を据え置くと予想する。日銀については、緩やかな金融正常化を続け、2026年後半に追加利上げ、さらに2027年に1回の追加利上げを行うと予想する。
特に米国金利市場の織り込みは利上げ実施に傾いているように見えるが、その織り込みの確からしさを評価するには、ケビン・ウォーシュ議長の下でのFRBの政策運営方針を見極める必要がある。
以上を総合すると- 底堅い景気、エネルギーショックは減衰、インフレの上振れリスクは残る-、マクロシナリオの確率分布は、景気の冷え込みよりも過熱に傾いているとみられる。当社の定量モデルにおいても、リフレーション(景気拡大・物価安定)およびスタグフレーション(景気減速・物価上昇)の確率が上昇しており、この見立てを支持している。
このため、当チームのベースシナリオではないものの、FRBの利上げが株式市場に影響を及ぼすリスクシナリオも現時点では意識している。また、今後12か月間にわたって株式・債券の順相関が続くシナリオの影響等も勘案する必要がある。
資産配分のポイント
経済成長がトレンド近辺で推移する中で、企業利益の拡大が強き、デフォルト率も低位で推移すると見込まれるため、ポートフォリオではリスク選好的なポジションを取ることが適切と考えられる。ただし、一定程度こうしたシナリオを市場は織り込んでいるとみられ、規律を保ちながらポートフォリオを運営していく方針である。
株式について、引き続き穏当にオーバーウェイトしていく。多くの市場でバリュエーションの拡大は見込みにくいことから、企業利益の動向に着目して国・地域の選別を行っている。例えば、割高感は意識されるが、業績見通しが良好な米国をオーバーウェイトとしている。一方、欧州は相対的に割高かつ利益動向も軟調であり、選好度は劣る。
2021年以降で最も良好だった米国の決算シーズンを踏まえ、当チームは今後12か月でS&P500指数は8,400に達すると見ている。これは、株価収益率(PER)が概ね21倍で横ばいのまま、利益の伸びが上昇を牽引するという想定である。
また、非欧米地域では、割安なバリュエーションに加え、AI関連の設備投資が利益成長につながる可能性がある新興国を選好し、リフレーションとコーポレートガバナンス改革期待を背景に日本株も引き続き選好する。
クレジットについては、米国ハイイールド社債をオーバーウェイトしているが、スプレッドの縮小余地は限られており、ベース金利も含めたキャリー(インカム)目的の投資と位置付けている。新規発行は概ね良好に消化され、堅調な経済成長と構造的なクオリティ向上(相対的に高格付けな発行体の割合が拡大している)を追い風にファンダメンタルズは安定しているように見える。ただし、ソフトウェア企業およびプライベートクレジット市場を巡る懸念については、波及リスクがないか注意深くモニターしている。また、AI関連の投資適格社債およびハイイールド社債の供給を市場がどの程度吸収できるかについても継続的な注視が必要である。
国債・為替については、為替よりも国債の方がアクティブポジションを取りやすい環境にあると見ている。欧州国債については、イタリアを通じてアウトライトのロングを保有している。魅力的なバリュエーションやユーロ圏の景気が相対的に劣る見立て、市場がすでにECBの利上げを一定程度織り込んだこと等を評価している。総じて、今後12か月間の投資期間において魅力的なリスクリターンをもたらすと考える。
また、英国の景気見通しが軟調な中、BoEが政策据え置きを維持するとみられることから、米国債よりも英国債を選好している。米国債に対しては中立であり、10年債利回りは当チームの想定レンジ(4.20%~4.75%)の中で推移すると見込む。為替では、直近レンジ推移となっている米ドルをアンダーウェートから中立へ変更した。長期的には米ドル安の進展を引き続き見込むものの、短期的には「米国例外主義」のテーマの再燃や、FRBの利上げリスクが米ドル高圧力となる可能性がある。
AI、インフレ、モメンタムの動向についての議論
今後12か月間において、市場の動向を左右する材料は主に3点あると見ている。AIエコシステム、インフレ、そしてモメンタムファクターの動向である。
1点目のAIエコシステムについて、論点は、すでにAIが世界を変えるかどうかではなく、AIが生む経済的な価値がどこに帰属するかである。現時点では、関連のインフラ企業やアプリ開発企業などAIの提供側に経済的価値の多くが帰属しているとみられるが、それが、生産性の上昇などを通じてAIの受益側にいつ移っていくのか、重要な問いではあるものの確たる答えはない。
当チームは少なくとも今後12か月間では、引き続き旺盛な需要を背景に、AIインフラの拡大に向けた設備投資が力強いペースで増加すると見込んでいる。もっとも、設備投資のさらなる拡大を抑制する可能性がある制約(経済ファンダメンタルや資金調達環境、政治動向)には注視している。
2点目のインフレについては、今後12か月間のベースシナリオとして米国では物価の鈍化基調が進むと見ており、2026年末時点のコアインフレ率は2.8%と予測する。ただし、リスクは上振れ方向に傾いていると認識している。AI需要や労働市場の需給、その他インフレ指標、ウォーシュ議長の下で新設されたFRBのタスクフォースの動向について注目している。
3点目について、過去数年間の株式市場において最もパフォーマンスの良いファクターはモメンタム(過去に上昇した銘柄はしばらく上昇し、下落した銘柄は下落し続けるという傾向を反映するファクター)であった。2026年は特に顕著であり、市場が今後のAIの広がりを織り込みながら、さまざまな国・地域の株式市場で共通した動きがみられた。
もっとも、モメンタムファクターの中でも「勝ち組」銘柄は、株価の上昇を概ね正当化できる利益成長を示しているものの、同ファクター全体のボラティリティが2020年以来の水準にまで上昇している点には注意を払っている。こうしたボラティリティの急上昇は、過去、モメンタム相場が反転する際に見られた現象のためである。
当チームは、モメンタムファクターへの連関がみられるアクティブ運用戦略の動向、ならびにモメンタム相場の反転が市場全体に与える影響を注意深くモニタリングしていく方針である。
マルチ・アセット・ソリューションズ:資産クラス見通し
資産クラス見通しは、6~12か月を目処に適用されるものである。上方修正(▲)あるいは下方修正(▼)は、前回のストラテジー・サミットからの見通しの変更を示している。当チームの各資産クラスについての見通しは、方向性と確信度を示しているものであり、実際のポートフォリオ構築とは独立している。