要旨
- シクリカル(景気敏感)資産を取り巻く環境は、各国中央銀行による政策金利の引き上げや、中東紛争の長期化に伴う原油高といった逆風があるものの、総じて底堅い状況が続いている。当チームのベースケースでは、今後1年にわたり名目成長は概ね底堅く推移し、景気後退リスクは低位にとどまる一方、インフレ率は供給ショックが後退するにつれて低下基調をたどる想定である。
- マクロリスクは、インフレ率・成長率ともに上振れ方向に偏っている。政策金利の見通しについては従来の当チームの見通しよりもタカ派寄りへ修正したものの、特に欧州において、市場が中央銀行の利上げパスを過度に織り込んでいると考えている。
- AI(人工知能)スーパーサイクル(AI投資拡大の長期トレンド)を背景に、当チームは企業業績について強気の見通しを維持しており、茲許の経済的な圧力に対して相対的に耐性が高いと見込む米国および日本の株式を選好している。また、キャリー獲得の観点から米国ハイ・イールド社債を選好している。
- 直近四半期において、金利が原油価格の上昇に対して株式以上に敏感に反応してきた面がある中で、バリュエーションは魅力的な水準となっており、欧州におけるデュレーション・ロングのポジションを選好している。
- J.P.モルガン・アセット・マネジメントのマルチ・アセット・ソリューションズ(以下、当チーム)は、マクロ見通しに対する主なリスクとして、①FRB(米連邦準備制度理事会)による想定以上に積極的な金融引き締め、②株式市場の大幅な急落、の2点を想定している。
足元の景気の行方は、相反する2つのマクロ経済要因の綱引きによって左右されている。一方では、テクノロジー分野の設備投資(CAPEX)ブーム、すなわちAI関連の設備投資の急速な拡大が、経済成長と企業利益の力強さを後押ししている。他方では、地政学的な緊張が経済活動を弱め、投資家の信認を揺るがしかねない。最終的に優勢となるのはどちらか。9月下旬に開催した当社の投資方針会議では、この問いを俎上に載せ、より大きなマクロ環境と市場環境を踏まえつつ議論を行った。結論として、現時点ではテクノロジー分野の設備投資ブームが主導権を握っているとの見方で一致した。一方で、勢力図が変化し得る点、また現在のマクロをめぐる綱引きの結果として想定され得る複数のシナリオを、各資産クラスがどのように織り込んでいるのかについても議論した。こうした織り込みの程度に幅が存在することにより、アクティブに投資を行う投資家にとって魅力的な市場環境となっている。
では、現局面でどこに投資機会を見出すべきか。底堅い経済成長が見込まれることから、株式に対する前向きな姿勢を維持しており、特に米国と日本を選好する。米国ハイ・イールド社債発行企業のファンダメンタルズに対して前向きに見ていることから同資産を選好しており、スプレッドがタイトな状況下でも魅力的なキャリー収益(インカム)の獲得を目指す。加えて、一部通貨でボラティリティが低位にとどまる環境は、高金利通貨を通じてインカムを積み上げる余地をもたらしている。さらに、直近四半期に債券が下落した結果、グローバル金利は数年ぶりの高水準にあり、投資妙味が高まっている。米国経済と欧州経済の相対的な強さを踏まえると、米国よりも欧州におけるデュレーション・ロングのポジションを選好する。
マクロ経済および政策見通し
各国中央銀行が従来に比べて金融緩和に慎重な姿勢を見せる中でも、グローバルなマクロ環境は、シクリカル(景気敏感)資産に対して総じて追い風となっている。当チームのベースケースでは、景気の底堅さと企業利益の力強さを想定しており、経済成長は堅調に推移する見通しである。
米国経済は、多くの面で市場の想定を上回って推移してきた。AI関連の設備投資サイクルは市場予想を上回る伸びを示しており、今後1年にわたりその状況が続くと当チームは見ている。労働市場は昨年よりも良好であることに加え、家計の株式資産の増加と低い貯蓄率を背景に、個人消費も継続して堅調である。総じて、米国経済は潜在成長率並みの成長ペースを維持すると見込むが、第3四半期の強さが持続する場合には、上振れのサプライズが生じる可能性もある。
コアインフレは直近数カ月で沈静化してきた。中東での紛争が激化すれば大きなリスクとなり得るものの、インフレ期待は引き続き安定している。関税およびAIが個人消費支出(PCE)インフレに与える影響も、すでにピークを越えたように見受けられる。こうした環境下では、足元で見られる株式と債券の順相関は、より0に近い水準へ正常化していくと当チームは考える。
今夏にかけてインフレ指標は改善を示したものの、高止まりするエネルギー価格に加え、FRBがインフレ抑制に向けた信認回復を重視していることを踏まえ、当チームは9月に実施された利上げを含め、FRBによる利上げは合計で3回になると見込んでいる。ただし、景気は主に金利上昇の影響を受けにくい設備投資サイクルに支えられているため、こうした利上げによって景気が失速するとは考えていない。特に、通常は金利上昇の影響が最初に表れやすい住宅市場は、すでに低迷している。
さらに、米国の景気拡大が続く中で、この金利調整局面において金融環境が過度に引き締まることはないと当チームは見ている。クレジット・スプレッドは依然として非常にタイトであり、長期金利は想定するレンジ上限付近にあるものの、方向性としては下方向(金利低下)に圧力がかかっている。株式についても、上昇基調が続くと予想する。こうした状況下で、景気を本格的に減速させるより現実味のある経路は、株式主導の下落局面が発生し、それがAI関連設備投資を萎縮させ、家計が支出を抑えることで消費が抑制される、というシナリオである。
一方、欧州経済は引き続き出遅れているが、市場の多くが想定していたほど脆弱ではなく、相対的に底堅さも示している。足元の成長には、ユーロ圏周縁国(スペイン、イタリアなど)の強さに加え、エネルギーショックの影響を和らげる政府政策が寄与している。AI関連投資およびドイツの財政支出は、持続性のある構造的な下支えとなり得る。ただし、当チームはECB(欧州中央銀行)の引き締めが景気を抑制すると見込んでおり(年内にもう1回の利上げを想定)、経済活動の鈍化圧力は残る。加えて欧州は、エネルギー面で最も厳しいトレードオフに直面している。原油価格が高水準で推移すれば、政府がエネルギーコスト上昇の影響から家計を保護し続けることは難しくなるだろう。
アジアでは、日本企業の勢いが明確に増している。企業収益は力強く、設備投資計画も拡大方向にある。輸出、とりわけ半導体関連はAIサイクルの恩恵を受けている。同時に、基調的なインフレも上昇傾向にある。こうした状況を踏まえ、当チームは日銀が、最終的に概ね2%のターミナル・レートに向けて、追加的な引き締めを進めると見込む。加えて、さらなる引き締めを継続するリスクも相応にあると見ている。投資家にとっての不確実要因の一つは、高市政権によるハト派的スタンスと、ベッセント米財務長官の下でタカ派色を強める米財務省との綱引きが、どのような決着を迎えるかが不透明である点である。
これに対し、中国の成長率は4%台半ばで安定しているように見受けられる。輸出は強い一方、内需は弱含んでいる。成長が政府目標を下回るようであれば、より迅速な政策対応が打ち出される可能性がある。
中東紛争の推移と、それに伴うエネルギー価格への影響は、投資家のインフレリスクに対する認識を左右する重要な要素となる。これまでのところ、いくつかの要因が原油ショックの波及を抑え込んできた。具体的には、ホルムズ海峡を通る湾岸地域からの輸送が維持されていることに加え、同海峡を迂回するパイプラインの稼働、さらには中国の原油輸入の減速が挙げられる。加えて、エネルギー価格の上昇を抑えている要因としては、政府による戦略備蓄の取り崩しや、米国および他国における増産も挙げられる(加えて、紛争開始前には原油供給に余力があったことも原油価格の上昇を抑える一因となった)。当チームは、原油価格が高水準の「新常態(ニューノーマル)」の中で推移する状況下で、これらの要因の組み合わせがどの程度持続するのかを注視していく。
資産配分のポイント
当チームの資産配分見通しは、4つの主要テーマを基盤としている。すなわち、マクロ経済の安定、AI関連の設備投資サイクルの持続、日本における構造的なリフレーション、そして主要先進国地域における循環的なディスインフレである。
政府による市場介入がヘッドラインを賑わせた局面もあったが、この四半期を通じてみれば、株式、直近までの金利、および為替市場のボラティリティは驚くほど低水準にとどまった。マクロ経済の安定というテーマは、債券および通貨の幅広い領域における当チームのキャリー戦略を下支えするものであり、堅調なファンダメンタルズの下でインカムを獲得する環境が整っている。当チームでは、四半期を通じて利回りは上昇した一方、スプレッドは低水準を維持しており、信用力の大幅な悪化を示唆する動きも見られない米国ハイ・イールド社債のキャリーを選好する。
同様に当チームは、為替(FX)では、高金利通貨かつエネルギー輸出国通貨でもある米ドル、豪ドル、ノルウェークローネを、低金利かつエネルギー輸入国通貨でもあるスイスフラン、日本円に対してロングとするキャリー・バスケット(複数通貨を組み合わせたキャリー取引)を開始した。本取引では、足元の為替ボラティリティが低位にある環境を活用することを意図している。
前述のとおり、当チームは名目成長が堅調で景気後退リスクが低い環境下において、株式に対して前向きなスタンスを取っている。重要なのは、当チームの見通しがバリュエーション(PER等)の拡大に賭けるものではなく、AI関連の設備投資に起因する利益サイクルの持続(業績面での伸び)を見込んでいる点である。
米国株式は引き続き当チームの中核となるオーバーウェイトであり、S&P500の12カ月先目標を8,600としている。米国市場は、AIの設備投資および導入サイクルに対して、最も広範かつ持続的なエクスポージャーを提供している。同時に、米国では業績モメンタムが一部のAIインフラ銘柄(NVIDIAなど)にとどまらず、ハイパースケーラーや周辺の恩恵銘柄へと広がり始めており、AIの設備投資にはなお十分な拡大余地があると考えている。こうしたAI設備投資サイクル全体に対する前向きな見通しの背景には、受注残(供給を上回る需要)、データセンター投資の高い採算性、そして投資家にとっての主要な懸念点である設備投資の収益化についての見通しが改善していることがある。さらに、仮にスプレッドが拡大したとしても、ハイパースケーラーには必要な規模の負債を調達し得る資金調達余力がある。
また、当チームはTOPIXのロングを通じて日本株式もオーバーウェイトとしている。日本のコーポレートガバナンス改革は持続的であると見ており、政策転換と経済のリフレーションはいずれも株式市場にとってプラスに働く見通しである。これらが相まって、企業の自己資本利益率(ROE)を一段と押し上げる可能性があり、図表4が示している通り、日本株式は想定される収益性に照らして魅力的なバリュエーション水準と見ている。
一方、欧州および新興国については中立としている。新興国企業はAIサイクルの恩恵を引き続き受けると考えるが、原油高、FRBの利上げ局面、そしてドル高が進行し得るリスクは、新興国にとって望ましくない組み合わせとなり得る。特に、上昇をけん引する銘柄が一部に限られ、多くの投資家が同じ方向のポジションを取っている局面では、こうした逆風の影響を受けやすい。
前四半期と比べると、株式市場の脆弱性を示す兆候は後退している。ただし、新興国株式では指数構成銘柄の50%超がモメンタム効果(過去に上昇した場合はしばらく上昇し、下落した場合は下落し続けるという傾向)の影響を受けやすい一方、米国株式ではその割合が低く、さらに低下傾向にある点に引き続き留意している。これも、現時点で当チームが新興国株式を中立としている理由の一つである。
過去四半期における最大の変化は、おそらく市場の金利織り込みの修正である。ディスインフレの進行を見込む当チームのような投資家にとって、茲許の金利上昇は先進国のデュレーション全般にわたり明確な投資妙味を生み出している。足元では、米10年国債利回りが5.1%に達し、当チームが想定するレンジ(4.50-5.20%)上限に近い水準まで上昇しており、米国デュレーションのエントリーポイントとして一定の投資妙味が生まれている一方で、当チームは他地域に相対的な投資機会を見出している。少なくとも当面は、米国の経済成長見通しの上振れ、AI投資資金をめぐる競合、中央銀行の政策パスに関する市場の織り込みがより妥当な水準へと近づいてきたこと、そして財政見通しの悪化といった複数の要因が、米国デュレーションのロングに対して逆風となる。そのため、当チームでは相対的に欧州国債を選好しており、ECB政策の市場織り込みは行き過ぎていると考えているほか、成長の下振れリスクも米国より大きいと見ている。
では、景気サイクルを通じて、ポートフォリオの頑健性(安定性)をどのように高められるか。当チームの投資方針会議では、同テーマについて、当チームにとって現実的なリスクの1つである「株式と債券が同一方向に動く」環境も含めて、さまざまな市場環境を想定しつつ幅広く議論した。伝統的なバランス型ポートフォリオを構成する株式、国債、クレジットは、実質金利が上昇し、インフレ率が3%を超える局面では、そろって下落しやすい傾向がある。こうした局面においては、グローバルのインフラ・輸送関連資産、トレンドフォロー型のCTA戦略、コモディティが、有用な分散手段となり得る。
今後1年の市場は、多様な要因によって形作られていくと見ている。テールリスクを認識しつつも、当チームはリスク資産に対して前向きな姿勢を継続する方針である。局所的な脆弱性はあるものの、グローバル経済およびリスク性資産は、今後起こりうる市場の変動要因に対して総じて底堅さを示すと見込んでいる。