要旨

  • マクロ指標を受けて、マルチ・アセット・ソリューションズ(以下「当チーム」)のメインシナリオである米経済の緩やかな減速とインフレ率の鈍化への確信が高まった。
  • 経済が潜在成長率並みに緩やかに減速し、インフレ率は鈍化する環境は、リスク資産にとって追い風になることから、株式やクレジット資産をオーバーウェイトとする。
  • FRB(連邦準備制度理事会)による利下げ幅が限定的であることが見込まれ、深刻な景気後退入りの確率は低い中で、デュレーション(国債等)をアンダーウェイトとする。
  • 主要国債の中では、欧州周縁国や英国を選好する一方、日本国債は相対的に魅力度が低いと考える。
  • 株式においては、引き続き米国を選好しており、景気敏感色が強い市場の中では日本の見通しを引き下げ、欧州を選好する。
  • キャッシュは、新たな投資機会のための資金源と捉えており、他資産への投資に充てることを選好する。
  • 株式と債券の順相関は徐々に低下すると見ているものの、一定期間継続する可能性があると考える。
  • 粘着質なインフレ率と経済活動の大幅な減速をメインシナリオにおける主なリスクとして捉えている。

2024年の年初以降、当チームでは「2024年を通じてインフレ率は鈍化し、米経済は潜在成長率並みまで緩やかに減速する」という見通しを維持している。多少のデータのばらつきや変動はあるものの、各種データの動向は概ね当チームの見通しに沿ったものと考える。とはいえ、市場では2024年の初めに利下げに関して過度に楽観的な見通しが広がった後、4月にはインフレ率の再加速への懸念が再燃している。

製造業指数や景況感の悪化が見られた場合に、市場では急速な景気減速を織り込む可能性がある。しかし、当チームでは経済の緩やかな減速を見込んでおり、FRBが利下げを開始できる水準までインフレ率は鈍化すると見ている。

このような環境下において、株式やクレジット資産のオーバーウェイトする一方、デュレーション(国債等)やキャッシュをアンダーウェイトとしている。

2024年第4四半期までに米国の経済成長は潜在成長率並みの2.0%付近まで低下すると見る。一方で、インフレ率は年初の想定よりも緩やかに低下すると見込んでいる。年末ごろまでに3%付近まで低下すると見ており、2025年中頃にFRBの物価目標である2%まで低下すると予想する。

米国以外では、欧州経済は再び回復傾向で、中国の経済活動は徐々に安定する見込みで、グローバルの消費活動は改善の兆しが見えている。米経済が徐々に減速する一方で、グローバル経済は各地域の回復に支えられ、広範に改善する可能性がある。

メインシナリオにおいては、粘着質なインフレ率と経済活動の大幅な減速を主要な2つのリスクとして見据えている。2024年第1四半期でインフレ率は緩やかに上昇傾向であったものの、直近の指標では鈍化の兆しが見えており、自動車保険などの一時的な上昇も落ち着きつつある。米経済は引き続き堅調な労働市場に支えられている。

緩やかな経済減速に伴って、米経済のソフトランディング(経済の軟着陸)や更なるインフレ率の鈍化は達成されると考えている。また、経済減速を示すデータが市場で過度に受け止められ、市場が急速に調整するリスクを警戒している。とはいえ、一時的に下落する局面はリスク資産への魅力的なエントリーポイントになり得るため、当チームでは下落時にリスク資産のポジションを拡大する余地を残している。

株式は、第1四半期の企業業績は概ね良好であった。業績の見通しには慎重な内容も含まれていたものの、企業業績自体は堅調で、株式の見通しを引き上げる判断材料となった。メインシナリオである潜在成長率並みの名目成長率が達成される環境下では、2024年の利益成長率は11%程度になると見込んでいる。とはいえ、一般的に景気サイクルの初期に見られるような投資家や企業の信頼感の大幅な上昇は想定していない。

当チームが米国における景気サイクルの判断材料としている各種マクロ指標は、概ね景気サイクルの中期と後期を指し示している。過去このような環境では、米国株式のトータルリターンは10%台前半であった。バリュエーションの拡大余地は限定的であるものの、業績成長がリターンを支えると考える。大型テクノロジー銘柄の企業業績は堅調で、グローバルで消費活動が改善する中で、在庫循環も一巡し、景気敏感銘柄の企業業績は上振れる可能性があると見ている。

一方で、欧州経済は景気サイクルの初期に位置している。ドイツをはじめとした主要国は軽度な景気後退入りしたものの回復傾向である。米国対比で、欧州の政策金利は速いペースで低下する見込みで、かつ中国の経済活動の回復に伴って貿易が拡大し、欧州経済の支援材料となると見ていることから、欧州は2024年後半にかけて緩やかに回復すると予想している。同地域の失業率は低位であるものの、労働時間は減少傾向にあり、労働市場の軟化を示唆している。

地域間の経済成長や金融政策の違いが生まれており、一部の消費活動において改善が見られることから、株式市場全体でレラティブ・バリューや株式の銘柄選択による収益機会が広がっていると考えている。地域別では、引き続き米国を選好しており、景気敏感色が強い市場の中では日本の見通しを引き下げ、欧州を選好している。また、オーストラリアや新興国市場は相対的に魅力度が低いと考える。しかし、中国の見通しが回復するにつれて、新興国市場の投資機会が徐々に拡大しつつあると見ている。セクター別では、コミュニケーション・サービスやテクノロジー、資本財、金融、さらにエネルギーを選好している一方で、生活必需品や素材は相対的に魅力度が低いと考えている。

名目成長率は緩やかに減速するもプラス圏で推移すると見ており、米国ハイ・イールド社債や投資適格社債の支援材料になると見込んでいる。今後18カ月において、借り換え需要が増大する可能性には留意しているものの、新規発行市場での需要は底堅く、レバレッジ比率等の財務面での安定性や流動性を示す指標は概ね健全であると見ている。従って、借り手側は借り換えが十分に可能であり、適度な経済成長は維持されると予想する。

マルチ・アセット・ソリューションズ:主要な洞察と「ビッグ・アイディア」

今回のストラテジー・サミットにて詳細に議論された主要な洞察と「ビッグ・アイディア」は以下の通りとなっている。これらは、マルチ・アセット・ソリューションズのポートフォリオ・マネジャーとリサーチ・チームのコアの見方を反映したものであり、また、議論の土台となる共通認識となり当チームのアセット・アロケーションの議論において定期的に再検証されるものである。当チームでは、これらの「ビッグ・アイディア」を活用して、ポートフォリオのバイアスを確認し、また、全てのポートフォリオにこのアイディアが反映されていることを確認している。

  • 米国は潜在成長率並みで、欧州、アジアは回復基調な中、グローバル経済は底堅い;景気サイクルは延伸され、景気後退リスクは限定的
  • インフレ率は徐々に鈍化し、2024年末までにFRBによる緩やかな利下げ開始が見込まれる
  • 金利は一定のレンジ内で変動する見込みであるものの、短期的に変動性を伴う可能性があるため、デュレーションには慎重
  • 景気後退リスクは低下し、クレジット資産に妙味あり;スプレッド縮小余地は限定的だが、キャリーの観点で魅力的
  • 収益成長に支えられ、中期的に株式は上昇余地あり
  • クオリティやキャッシュ創出力の観点で米国株式を選好、消費活動の改善で欧州株式が魅力的
  • 主なリスクとしては、インフレ率の上昇や賃金の再加速を背景としたタカ派的な政策、貿易摩擦、急速な労働市場の軟化、及び融資基準の急激な厳格化