本レポートのトピック
- 足元はAI・ハイテクバブル?
- 巨大AI企業のIPOで相場が崩れる可能性は?
- ファンダメンタルズとバリュエーションからみた半導体株式の上値余地は?
- 過去のバブルの歴史から学ぶ、半導体株式の上値余地は?
- バブル相場の終わり方は?
足元はAI・ハイテクバブル?
以下図表の【左上】は、昨年初からの米国情報技術セクターの予想1株利益(EPS)とトータルリターン(配当を含む)の推移を見ています。
まずトータルリターンに注目すると、半導体関連株式の躍進もあり今年の4月から5月にかけて急上昇したため、6月以降は過熱感や割高感を気にする投資家が増加しました。しかし、この春の株価急騰後でさえ予想EPSの強い伸びに届いていないことを踏まえれば、これは「利益成長にキャッチアップする株高」と捉えることが可能であり、「不健全」とは必ずしも言えないでしょう。
また、以下図表の【左下】で示しているバリュエーションを見ると、「AIバブル」に対する警戒感もある程度落ちつくのではないでしょうか。なぜなら、【紫色】で示している米国情報技術セクターの予想株価収益率(PER)の推移を見ると、①かつてのITバブル期は50倍を超えていた一方、6月末時点では20倍台まで下がっていることに加え、②S&P 500の情報技術セクターとS&P 500全体の「予想PER格差(【オレンジ色】)」もITバブル期の25倍超に対して直近は3倍程度で推移しており、ハイテク株式の相対的な過熱感はさほど強くないためです。
巨大AI企業のIPOで相場が崩れる可能性は?
今年は6月にスペースX 1が史上最大の新規株式公開(IPO)を実施し、一部報道によれば年後半には巨大AI企業のアンソロピック 1もIPOを検討しているようです。これらの注目イベントを控え、投資家の間では「IPOによる換金売りが相場に悪影響を与えるのではないか」、「仮に巨大AI企業のIPOが失敗すると、AIブームが終わってしまうのではないか」といった不安が渦巻いているようですが、これらに対する過度な懸念は不要かもしれません。
まず換金売りに関しては、そもそも一時的な材料に過ぎないことに加え、株式投資などの「待機資金」とされる米国のマネー・マーケット・ファンド(MMF)の残高が、以下図表の【右上】で示している通り過去数年で急増しており、直近では約8兆米ドルまで積み上がっている点も安心材料でしょう。
また、こうした需給要因だけでAIブームが終わることはないと考えています。ブームが終焉を迎えるのは、AIによる生産性向上やAIの投資効率が期待に届かず、結果的にデータセンターなどの投資が過剰だったことを裏付ける明確な証拠が示される時だと見ていますが、現在の巨大AI企業のビジネス拡大の勢いを見る限り、このような心配は時期尚早かもしれません。実際に以下図表の【右下】でアンソロピックの年換算売上高の推移を確認すると、昨年末から半年も経たないうちに4倍超になっていることが分かります。
Guide to the Markets 2026年7-9月期版で解説『米国株式:情報技術セクター』
ファンダメンタルズとバリュエーションからみた半導体株式の上値余地は?
上記では、米国情報技術セクターのファンダメンタルズとバリュエーションに注目しましたが、以下では今年の株式市場の主役といっても過言ではない半導体株式により焦点を当ててデータを確認していきます。
まず、以下図表の【左】で示している【緑色】の世界半導体売上高を見ると、現在は歴史的に強い伸びとなっていることが分かります。また、【紫色】のフィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)の予想EPSも同様に急激な上昇を見せており、現時点では今年の年末にかけて更に上値を追う展開が予想されています。
これらのファンダメンタルズの力強さを踏まえれば、【青色】のSOX指数のうなぎ上りの上昇も異常とは言えず、【オレンジ色】の予想PERを見ても現在は20倍台で推移しており、ITバブル期の2000年につけた50倍と比べてまだまだ距離があることが分かります。
過去のバブルの歴史から学ぶ、半導体株式の上値余地は?
上記のデータを踏まえれば、足元の半導体株式が明らかにバブルであるとは言えませんが、仮にこれから「本格的なバブル相場」に突入することを想定した場合、いったいそれはいつまで、そしてどこまで続くのでしょうか。
この疑問を考えるにあたっては、以下図表の【右上】で示している過去30年超の間に発生した主なバブルの歴史を参考にするとよいでしょう。
ここから読み取れるのは、いずれのバブルも開始からピークまで、①期間は約5年かそれ以上、②株価は6倍から10倍超となっていたことが分かります。これに対して、仮に今回の半導体株バブルが2022年12月(→チャットGPTの公開直後)から始まっているとした場合、①期間はまだ約3年半、②リターンは約5倍であり、どちらの観点から見ても過去のバブルと比べてまだ継続する余地は残されていると言えるかもしれません。
バブル相場の終わり方は?
引き続きあくまで仮定の話ですが、これから半導体株式が「本格的なバブル相場」に入る場合は、その収束が「いつ、どんな条件で起こるのか」の手掛かりを予め知っておくことが重要になるでしょう。
この点に関しては、足元の相場との類似点が指摘されるITバブルの崩壊が1つの参考になると考えています。
以下図表の【右下】で当時の状況を振り返ると、主に①金融環境および投資家センチメントと②ファンダメンタルズの2つの悪化がカタリストとなり、ITバブルが崩壊したと解釈することが可能です。具体的には、①米連邦準備制度理事会(FRB)が1999年6月から利上げを開始し、2000年2月に「引き締め過ぎのサイン」である米国10年国債と米国2年国債の逆イールドが発生すると、その翌月に【青色】のSOX指数がピークを付けたことが分かります。②その後、FRBが利上げを停止すると半導体株式は再び上昇を試したものの、2000年後半に【緑色】の世界半導体売上高がピークを付けると、本格的な長期下落トレンドに入ってしまったことが見て取れます。
以上の歴史を踏まえた上で足元の状況を確認すると、①FRBの利上げに伴う逆イールド発生や②半導体売上高の拡大終了などのカタリストが差し迫っているようには感じられないため、現時点では半導体株相場の崩壊を懸念するのは時期尚早かもしれません。