本レポートのトピック
- 予想以上の強さを見せる米国経済の牽引役は?
- 強いのはAI関連だけ?非AI関連の動向は?
- 消費者マインドと実際の個人消費のギャップに注目?
- 今後の消費動向の見通しは?
予想以上の強さを見せる米国経済の牽引役は?
以下図表の【左上】で米国のエコノミック・サプライズ指数1を見ると、最近はプラス圏かつ高水準で推移していることから、今年の米国経済は市場の想定以上に強かったことが確認できます。この強さの背景として最も注目度が高いのはAI関連投資であり、実際に【左下】の【灰色】でAIハイパースケーラー2の設備投資額を見ると、今年は急増する見込みであることが分かります。最近はこのような巨額投資は「過剰」との懸念が指摘されていますが、既に【緑色】の営業キャッシュフローの伸びが加速しており、今後もこの傾向が続くと予想されていることを踏まえれば、少なくとも現時点では「非常に強い需要見通しに沿った合理的な投資である」との見方も成り立つかもしれません。
強いのはAI関連だけ?非AI関連の動向は?
【右上】は2024年からの米国の鉱工業生産の動向を示しており、その増減の内訳を見ると、AI投資ブームの追い風を受けて【紫色】の半導体などのAI関連産業が生産増に大きく寄与していることが確認できます。ただし、2025年以降は【黄緑色】のその他の産業も底堅く推移しており、生産増の裾野が広がりつつあることが分かります(→この背景としては、在庫循環の改善、トランプ関税の悪影響一巡、防衛やエネルギー関連需要の増加など様々な要因が考えられます)。
なお、最近のAI投資ブームの構図が従来の典型的な米国の設備投資サイクルの特徴と大きく異なるわけではありません。というのも、【右下】で米国の企業利益と設備投資の関係性を見ると、足元の設備投資の増加は、過去と同様に企業利益の伸びと密接に連動しているからです。今後も企業利益の伸びは高水準で推移すると見込まれていることを踏まえれば、当面は設備投資が米国経済を支える可能性が高いと考えています。
Guide to the Markets 2026年7-9月期版で解説『米国:企業の生産活動と設備投資』
消費者マインドと実際の個人消費のギャップに注目?
以下図表の【左上】で示している【灰色】の米ミシガン大学消費者態度指数は、イラン戦争後の今年5月に過去最低を記録し、リーマンショックやコロナ禍の直後よりも消費者マインドが冷え込んでいたことを示しています。しかし、【青色】で実際の米国の実質消費支出の伸び(3ヵ月前比、年率換算)を確認すると、リーマンやコロナ直後のような悪化は見られず、底堅く推移していることが分かります。
この大きなギャップの背景を考えるにあたっては、【左下】で示しているガソリン価格と総所得に占めるエネルギー支出の割合が1つの参考になります。まず、【緑色】のガソリン価格をはじめとする物価高騰などが消費者マインドを冷やした一方、昨年成立した大型の減税・歳出法(OBBB法)による税還付や株高基調による資産効果などが、底堅い消費に繋がったと考えられます。加えて、資産効果の恩恵を受けやすい富裕層にとっては、エネルギー高の逆風は小さかった点も重要です。実際に【左下】の【一番右の棒グラフ】を見ると、所得上位20%の総所得に占めるエネルギー支出の割合は僅か2.7%に止まっていることが確認できます。米国ではこの上位20%が消費全体の約4割を占めるとされるため、低・中所得層を含む米国全体で見た消費者マインドが物価高で歴史的に悪化する中でも、痛みが限定的だった富裕層による堅調な支出が米国経済を支えた可能性があります。
今後の消費動向の見通しは?
①エネルギー価格の落ち着き、②労働市場の回復の兆し、③選挙前のトランプ政権の政策などを考慮すれば、米国の個人消費は今後も底堅く推移するとみています。
まず①については、改めて【左下】のガソリン価格の動向を見ると、中東情勢への懸念が一時期よりは低下したことなどを反映して低下傾向に転じており、これは低・中所得層の負担軽減に繋がることが期待されます(→イラン戦争の動向は依然として不透明であり、今後の展開には引き続き注意が必要ですが、少なくとも現時点ではここから過度に情勢が悪化する可能性は高くないとみています)。
次に②の労働市場については、【右上】の雇用の伸びに注目すると、昨年までは軟化傾向が続いていましたが、今年は一転して改善傾向にあることが分かります。今後もこの基調が続けば、雇用増→所得増→消費増という展開が予想されます。
最後に、③のトランプ政権の政策に関しては、【右下】の大統領支持率の動向が重要だと考えています。昨年の政権発足直後に50%を超えていた支持率が、足元では40%前後まで落ち込んでいる点がポイントです。第1次トランプ政権時の支持率と選挙結果の関係を振り返ると、当時の中間選挙や大統領選挙は45%前後の支持率で敗北した過去があることに加え、足元では今秋の中間選挙で苦戦を強いられるとの見方が強まっているため、トランプ大統領は支持率のテコ入れを図る必要があります。具体的には、これから秋にかけて物価や雇用、経済への取り組みを強化することで支持率アップを狙うことが予想されますが、このような経済・市場フレンドリーな政策は米国の消費者および経済全体にとってプラスとなる可能性があります。