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        イラン戦争で日米欧の物価と金融政策はどうなる?

        前将
        前川 将吾

        グローバル・マーケット・ストラテジスト

        森文
        森岡 文彰

        グローバル・マーケット・ストラテジスト

        公開日: 2026/04/23
        Guide to the Marketsで解説!イラン戦争で日米欧の物価と金融政策はどうなる?

        本レポートのトピック

        • 米国の物価見通し
        • ユーロ圏の物価見通し
        • 日本の物価見通し
        • 米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策見通し:イラン戦争勃発後でも、年内利下げは可能?
        • 欧州中央銀行(ECB)の金融政策見通し:今年は様子見姿勢のはずだったが利上げに動く?
        • 日銀の金融政策見通し:利上げ見通しに変化はなし?

        米国の物価見通し

        以下の図表の【左】は、米国の消費者物価指数(CPI)の寄与度の内訳(前年比)とエコノミストによる今後の見通しについて示しています。エコノミストの予想集計値(中央値、四半期ベース)を見ると、【赤い点線】が示している昨年12月時点の予測値と比べて、【黒色のダイヤマーク】が示している直近の予測値が上方にシフトしていることが分かります。この変化はイラン戦争によるエネルギー価格上昇などが影響しており、当面は3%台で高止まりすることが見込まれています。

        とはいえ、(1)2022年のような6~9%の大インフレが起きるとの見通しにはなっておらず、(2)年末にかけては緩やかに伸びが鈍化していく見込みである点はおさえておきたいところです。現時点でロシア・ウクライナ戦争直後のような大インフレには至らないとみられている背景としては、2022年当時と比べて家賃や賃金の上昇率が落ち着いており、結果的にCPIへの寄与度が大きいサービス価格(→【オレンジ色】と【灰色】)が減速傾向にあることなどが挙げられます。

        ただし、今回のイラン戦争をきっかけに中長期のインフレ期待が引き上がり、物価上昇の2次的な影響も生じれば、想定以上の高インフレになるリスクがある点には注意する必要があります。この観点からは、【右下】で示している消費者の期待インフレ率の動向を注視することが重要です。直近ではエネルギー価格などの上昇を受けて【青色】の短期のインフレ期待は上昇しているものの、【灰色】の長期のインフレ期待は安定的に推移しています。

        Guide to the Markets 2026年4-6月期版で解説『米国:インフレ率と期待インフレ率』

        ユーロ圏の物価見通し

        以下の図表の【左】は、ユーロ圏の消費者物価指数(HICP)の寄与度の内訳(前年比)とエコノミストによる今後の見通しについて示しています。ユーロ圏の消費者物価指数の伸びは今年の2月までは2%程度で安定的に推移していましたが、3月になるとエネルギー価格高騰の影響を受けて2.5%まで急加速していることが分かります。

        あわせて今後のエコノミストの予想集計値(中央値、四半期ベース)を見ても、米国と同様に3ヵ月前対比で上方修正されている点は気がかりです。米国と比べた場合のユーロ圏のインフレ加速に関する注意点としては、(1)産油国の米国と比べてエネルギー価格上昇の影響が大きくなりやすい点や、(2)米国よりも労働市場が堅調なこともあり、サービス価格がこれから鈍化基調を辿るか不確実な点などが挙げられます(→ユーロ圏の失業率は安定的に推移しており、妥結賃金の先行指標である欧州中央銀行の賃金トラッカーも高止まりしています)。

        日本の物価見通し

        以下の図表の【右】は、日本のCPIの寄与度の内訳(前年比)とエコノミストによる今後の見通しについて示しています。日本のインフレ率は2022年の春から昨年末までは2%を上回って推移していたものの、今年入り後は電気・ガス代への政府補助金やコメをはじめとする食品価格の高騰一服などの影響で1%台まで低下していることが分かります。

        しかし、今後のエコノミストの予想集計値(中央値、四半期ベース)を見ると、このまま日銀の2%のインフレ目標から遠ざかっていくのではなく、年末にかけて2%前後で推移することが見込まれています。この背景としては、イラン戦争に直接起因する物価上昇だけではなく、「賃金と物価の好循環」の継続や円安・資源高を理由とする企業の「便乗値上げ」、一時的な物価押し下げ効果の減退など、様々な要因が影響している可能性があります。

        Guide to the Markets 2026年4-6月期版で解説『欧州・日本:インフレ率』

        FRBの金融政策見通し:イラン戦争勃発後でも、年内利下げは可能?

        以下の図表は、日米欧の政策金利とその見通しについて示しています。

        今年3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者のドットチャート(→FOMCの参加者が、米国の政策金利の指標であるフェデラルファンド金利で適切と考える水準を、それぞれ点で示して散布図にしたもの)を見ると、【オレンジ色のマーカー】で示している中央値ベースの見通しでは今年1回の利下げが示唆されています(→19人中7人は変更なし、残りは少なくとも1回の利下げを予想しています)。

        一方、金融市場では年初に約2回の利下げが予想されていましたが、足元では【灰色の点線】が示している通り「今年は利下げなしか、あっても1回の利下げ」との見方に変化しています。従来のトランプ関税の影響に加えて、イラン戦争によるインフレ圧力も意識された結果、市場参加者は「追加利下げにはインフレ率が2%に戻る道筋にあるとの確信が必要であるものの、それが早期に確認できる可能性は低い」と考えるようになったのでしょう。

        とはいえ、一部の投資家が懸念している「利上げへの転換」のハードルは高いと考えています。なぜなら、FRBは物価安定だけでなく最大雇用も含めた「デュアルマンデート」を達成する必要があるためです。後者の責務を考慮すれば、足元のような労働市場の弱さが続くうちは、大インフレ発生や長期のインフレ期待上昇などが生じない限り、現在の「中立金利をやや上回る水準」から更に利上げを進めていくことは難しいと考えています。

        ECBの金融政策見通し:今年は様子見姿勢のはずだったが利上げに動く?

        年初の時点では「今年は動かない」との見方が強まっていたECBですが、足元の市場では、【緑色の点線】が示している通り年内約2回の利上げが織り込まれています。実際の利上げの有無やタイミングは「データ次第」ですが、ラガルドECB総裁はイラン戦争後のエネルギーコストの高騰がより広範なインフレにつながる恐れがあれば、断固かつ迅速に行動する考えを示しているため、投資家の間では「ECBは必要であれば躊躇なく利上げに動く」との見方が強まっています。

        ちなみにECBのマンデートはFRBの「デュアルマンデート」とは異なり、物価安定が第一義的な使命であるため、「利上げによる雇用悪化のデメリットよりも、インフレ抑制のメリットの方が優先されやすい」と見られています。

        このような観点に加え、上記で確認した通り、そもそも現在は米国よりもユーロ圏の労働市場の方が安定しているため、ECBはFRBよりも利上げに踏み切りやすい状況にあると言えるでしょう。

        日銀の金融政策見通し:利上げ見通しに変化はなし?

        欧米中銀の金融政策の市場織り込みが明確にタカ派方向に変化した一方、日銀については、【青色の点線】が示している通り、年初も足元も変わらず年内約2回の利上げが見込まれています。イラン戦争後も日銀の利上げが加速しないとの見方が根強い背景としては、(1)高市政権が利上げを好ましく思っていないとの見方が広がっていることに加え、(2)植田総裁が「原油価格高騰は、景気の下振れリスクと物価の上振れリスクの両方に影響する」というバランスの取れた見方を示していることなどが挙げられます。

        なお、金融市場の織り込みでは、日銀による次回の利上げは6月あるいは7月頃との見方が現状優勢になっていますが、投資家にとって本質的に重要なのは、次回の利上げタイミングよりもターミナルレートの水準でしょう。この点については、約9ヵ月前の1%→約6ヵ月前の1%台前半→約3ヵ月前の1%台半ば→足元の2%弱と徐々に切り上がっているため、この上昇傾向が「いつ・どの水準で止まるのか」を注視しておきたいところです。

        Guide to the Markets 2026年4-6月期版で解説『日米欧の金融政策とその見通し』

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