Guide to the Marketsで解説!イラン戦争やAIで経済見通しはどう変化した?
本レポートのトピック
- イラン戦争で主要国・地域の経済見通しは変化した?
- 世界の企業の景況感と業績見通しに異変は?
- 米国ではAIの影響で解雇が急増中?
- 当面の米労働市場の見通しは?
イラン戦争で主要国・地域の経済見通しは変化した?
2026年はまだ3ヶ月強しか経っていませんが、既に多くの重要な出来事が起きました。米国の最高裁は国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税を無効とし、AIの進展がソフトウェア企業や雇用を脅かし、プライベートクレジット市場では不信感が募る中、2月末からは中東で戦争が勃発しました。
イラン戦争によるホルムズ海峡閉鎖の影響は原油にとどまらず、液化天然ガス(LNG)や石油化学製品、化学肥料、半導体製造に使われる原材料など広範な分野に混乱をもたらしており、仮に戦争が落ち着くとしても、当面は世界のサプライチェーンの混乱が続くリスクには注意が必要です。
それでは、これらの悪材料は年初と比べて世界の経済見通しを一体どれほど悪化させたのでしょうか。この点を確認するために、まずは以下の図表の【左上】で示しているエコノミストによる主要国の景気後退確率を見てみると、いずれも僅かに上昇しているものの低水準を維持しており、少なくとも現時点では世界的な景気後退が「メインシナリオ」とはなっていないことが分かります。
また、【左下】で示している2026年の主要国の実質GDP成長率予測(エコノミストの予想集計値)を見ても、年初時点とあまり変わらず、潜在成長率並みかそれをやや上回る底堅い見通しが維持されています。当然ながら、これから遅れて経済見通しが悪化するリスクには警戒が必要ですが、依然として活発なAI関連投資や積極的な財政政策(→中東情勢の影響で更に拡大する可能性があります)などが世界経済をしっかり支えている点はおさえておきたいところです。
世界の企業の景況感と業績見通しに異変は?
上記で触れた【左上】と【左下】が「エコノミスト視点」のデータであるのに対して、【右上】では「企業視点」の景況感、【右下】では「アナリスト視点」の企業業績見通しが確認できます。
まず【右上】の日米欧中の総合PMI(購買担当者景気指数)の動向を見ると、イラン戦争の影響もあり3月は悪化したものの、好不況の分かれ目である50はいずれも上回っています(→PMIは、50を超える場合、前月と比べて企業の景況感が改善していることを示し、反対に50を下回る場合には、前月と比べて企業の景況感が悪化していることを示します)。イラン戦争に伴う今後のコスト上昇や供給不足、需要鈍化には警戒が必要ですが、影響が一時的であれば、昨年のトランプ関税ショック後と同様に景況感の悪化は限定的かつ短期的なものにとどまるかもしれません。
続いて【右下】の企業業績見通しを見てみると、こちらは年初来の相次ぐ悪材料にもびくともせず、世界的に拡大基調が続いています。とはいえ、これから始まる1‐3月期決算シーズンで、アナリストの見通しに変化が生じないかは要チェックでしょう。
Guide to the Markets 2026年4-6月期版で解説『世界のファンダメンタルズ:経済見通しと企業業績見通し』
米国ではAIの影響で解雇が急増中?
以下の図表は米国の労働市場について見ています。
【左上】で示している非農業部門雇用者数の伸びや【左下】の新規失業保険申請件数を見る限り、米国の労働市場は強くないものの大規模な解雇は起きておらず、「低採用・低解雇」の状態が続いています。
なお、今年は「AIによる代替で人員削減が急増する」との見方がメディアで大きく取り上げられましたが、少なくとも現時点では大きな変化は確認されていません。実際に、【右上】で「AIを理由とした人員削減」と「AI以外を理由とした人員削減」のデータを見比べてみると、前者の比率はかなり限定的です。昨年来の解雇や採用抑制の背景としては、トランプ米政権による政府の予算削減や関税を含むマクロ的な要因、コロナ禍後の人員拡大の反動など、他の要因の方が明らかに大きいとされています。もっとも、「長期的」に見ればAIによって不要となる業務と新たに生まれる業務の両方が出てくる可能性があるため、その際に労働市場のミスマッチが大きくならないよう、事前に政府などが対策を打つ必要があるでしょう。
当面の米労働市場の見通しは?
仮にこれから解雇が急増し、雇用の伸びが過去の景気後退時のようにどんどんマイナス圏を深掘るようだと懸念が強まりますが、足元のコンセンサス予想はそのような見方に与していません。【左上】の点線で雇用の伸びのコンセンサス予想(→四半期ベース、3ヵ月間の平均値)を見ると、水準は低いものの徐々に改善していくことが見込まれています。
なお、このような見通しが妥当かどうかを判断する上では、【右下】の米企業の利益率と雇用と設備投資の関係を見るとよいでしょう。過去の歴史から学ぶと、企業の利益率が暫く悪化してから本格的なコスト削減の一環で雇用や設備投資がカットされる傾向がありましたが、足元の企業利益率は高水準を維持しているほか、上記で確認した通り、イラン戦争後も業績見通しは堅調であるため、解雇が急増する展開は現時点では「リスクシナリオ」という位置づけになるでしょう。