
Guide to the Marketsで解説!トランプ政権下での今後の経済・物価・金融政策の見通しは?
今後の経済・物価・金融政策の見通し
<経済>
米政権の関税強化をはじめとする「負の政策」の悪影響を加味し、世界経済の成長率見通しは悪化しつつあるものの、現時点では今年のマイナス成長や景気後退入りが「メインシナリオ」にはなっていません。同様に、企業業績見通しの大幅修正もまだ起きていません。
ただし、米政権による関税強化等の不透明感解消や各国・地域の財政・金融政策のサポートが遅れれば遅れるほど、世界の成長率や業績見通しは下方修正されていくでしょう。
<米国の物価>
第2次トランプ政権発足前と比べて物価見通しは上振れており、今後も更なる上方修正のリスクがあります。とはいえ、2022年に経験したような大インフレの再来までは予想されていません。
<日米欧の金融政策>
米連邦準備制度理事会(FRB)は物価より景気を懸念するとの見方から利下げ見通しが強まりました。欧州中央銀行(ECB)は物価の鈍化基調と関税懸念で年内に追加利下げの見込み。日銀は米欧とは対照的に利上げ継続の見通しです。
Guide to the Markets 2025年4-6月期版を解説『主要国・地域の実質GDP成長率と企業業績の見通し』
上記の図表では、主要国・地域の実質GDP成長率と企業業績の見通しについてみています。
【左上】は、2025年の実質GDP成長率(前年比)のエコノミストの直近の予測値を示しています。予測値は、米相互関税の詳細発表後の2025年4月3日から2025年4月9日までの期間に発表されたエコノミストの予測値のみを対象にした集計値(中央値)です。これらの予測値をみると、主要国・地域の経済成長率見通しはプラス圏を維持していることが分かります。例えば米国の成長率は+1.7%です。これは、【左下】で示されている2025年2月下旬頃に付けた+2.3%の予測値と比べれば下方修正されているものの、景気後退入りが「メインシナリオ」という状況には至っていません。
【右上】は、米国ハイ・イールド債券の信用スプレッドを示しています。
米国ハイ・イールド債券の信用スプレッドは、金融市場の変調に敏感に反応する傾向があり、景気後退の予兆を感知する「炭鉱のカナリア」としても知られています。この米国ハイイールド債券の信用スプレッドの直近値をみても、未だ過去の長期平均にすら達しておらず、少なくとも現時点では景気後退が市場で本格的に懸念されているわけではないといえるでしょう。
【右下】は、国・地域別の予想1株利益(EPS)の伸び(前年比)を示しています。こちらも米相互関税発表後の4月9日時点で取得可能なアナリストによる最新の予想集計値を掲載しています。2025年の予想EPSの伸びをみると、米国が約+11%、日本が約+10%、欧州が約+5%、新興国が約+14%、アジア(除く日本)が約+11%といずれも堅調な業績期待が維持されています。しかし、これらの見通しはアナリストの修正が遅れているだけの可能性が高いでしょう。
これらのデータが示唆している依然底堅い景気や業績見通しの背景には、米国政権による関税引き下げや各国・地域の景気対策への期待があると考えられます。したがって、これらの好材料が物足りない場合や出てくるスピードが遅い場合は、成長率見通しや業績見通しの下方修正が続くリスクがある点には注意が必要です。
Guide to the Markets 2025年4-6月期版を解説『米国:インフレ率と先行指標』
上記の図表では、米国のインフレ率と先行指標についてみています。
【左】は、消費者物価指数(CPI)の寄与度の内訳(前年比)を示しています。
2025年年初の時点では、「寄与度が最も高い住居費の伸びが鈍化するとの期待 vs. 関税によるコア財価格の上昇懸念」の構図でした。今もこの構図自体は変わりませんが、インパクトとしては明らかに後者の押し上げ要因が強く意識されており、今年のインフレ率の見通しは切り上がっています。
ただし、【右上】で示されている通り、切り上がっていると言っても年初時点の2.5%から3.2%(※米相互関税発表後に更新されたエコノミストの予測値のみを対象にした集計値(中央値))への上方修正にとどまっています。
当然、今後も米政権の政策次第で上方修正が続くリスクはあるものの、それでも2021年半ばから2023年初頭にかけて経験した5-9%の大インフレ期とはずいぶん距離がある点はおさえておきたいところです。
Guide to the Markets 2025年4-6月期版を解説『日米欧の金融政策とその見通し』
上記の図表では、日米欧の金融政策とその見通しについてみています。
以下はいずれも執筆時点(4月21日時点)の見通しです。
FRBの金融政策
年内は約3.7回の利下げ(→開始時期は6月)が見込まれており、年初よりも積極的に利下げするとの観測が強まっています。年初の時点では、「関税→インフレ加速→利下げ遠のく」との見方が優勢でしたが、足元では「関税→景気・雇用への悪影響→利下げが必要」との見方が優勢になっています。
ただし、市場の利下げ織り込みは、これから明らかになっていく「最終的な」関税政策や減税政策等の落としどころ次第で、コロコロ変わり続ける展開を意識しておいたほうが良いでしょう。
ECBの金融政策
3月と4月の利下げに加えて、年内は追加で約2.6回の利下げ(→合計で今年は約4~5回)が見込まれています。このような金融市場の織り込みは年初から概ね変わっていません。米関税政策による景気悪化は金融緩和の強化を催促する要因となる一方、国防費支出をはじめとする財政出動等による景気の押し上げ効果が見込まれている事が過度な利下げ期待を抑える要因になっています。
日銀の金融政策
1月の利上げに加えて、年内は追加で約0.6回の利上げが見込まれています(利上げが行われる場合の時期は10月か12月との見方が優勢)。一時は日銀高官によるタカ派発言等が意識され、7月前後の追加利上げが織り込まれていたものの、米相互関税の発表後に一気に利上げ期待が剥落しました。とはいえ、中長期的な見通しとしては、「利下げに向かう米欧」に対して「利上げに向かう日銀」というかたちで金融政策の方向性が逆の状態は続いています。