Guide to the Marketsで解説!トランプ政権の政策を受けて、年初来の世界の経済と金融市場はどう反応した?

年初来の世界の経済と金融市場の動向

1-3月期は米政権の関税等の「負の政策」が影響し、米国の企業や家計の景況感と物価見通し(=ソフトデータ)が悪化した一方、ユーロ圏や中国の企業景況感は底堅く推移。4月以降は当面、米国と各国・地域の関税交渉次第でこれらのソフトデータが左右される展開となる可能性。

1-3月期の金融市場は、「トランプ砲」に振り回されつつも、 「総悲観」ではなく、景況感と同様に欧州や中国を含む新興国の株式は堅調だった。しかし、4月に入ると米相互関税発表後に「リスクオフ一色」となり、その後は同関税の一部猶予で「株価急騰」に変わる等、慌ただしい展開に。

Guide to the Markets 2025年4-6月期版を解説『世界の経済指標:ソフトデータ』

上記の図表では、4月に米国が相互関税の詳細を発表する前の3月までのソフトデータの動向についてみています。

【左下】は、主要国・地域の総合PMIを示しています。

3月のデータをみると、米国の総合PMIが依然として最も高水準である一方で、ユーロ圏や中国との格差はやや縮小しました。

年初の時点では「財政刺激策・金融緩和・規制緩和」の3点セットが米国の好材料として捉えられていたものの、これらがなかなか米国で実現しない中、むしろユーロ圏や中国でこの3点セットが出てきたこと等が「米国1強状態」の陰りに繋がりました。具体的には、ユーロ圏では「再軍備・欧州中央銀行(ECB)の利下げ・環境や人権、金融、AIに関する規制緩和」の3点セット、中国では「全人代で示された財政刺激策・預金準備率等の引き下げ示唆・習氏が民間テック企業等と再接近」の3点セットが好感されました。

しかし、これらの3月のPMIデータは、トランプ政権が4月以降に発表した各種関税政策の内容を織り込めていないデータです。したがって、今後のトランプ政権による関税政策やそれを受けた各国の反応・交渉状況次第で、企業景況感は大きく振られる可能性がある点には注意が必要です。

【右上】は、米国のミシガン大学消費者調査の消費者態度指数を示しています。

【右下】は同調査の1年先、5年先の予想インフレ率を示しています。

足元では、景気悪化と物価高が同時に進む「スタグフレーション」のような動きが見られています。まず消費者態度指数を見ると、関税等の「負の政策」が影響し、第2次トランプ政権発足後から急速に悪化しています。続いて3月に発表された予想インフレ率のデータを見ると、1年先は5.0%と2022年11月以来の高水準、5年先も4.1%と約32年ぶりの高さに達しています。(補足:4月に発表された予想インフレ率のデータでは、1年先は6.7%、5年先は4.4%と3月の数値からそれぞれ更に上昇しています。)

今後のこれらソフトデータの見通しについては、これから本格化する米国と各国・地域の関税交渉次第となるでしょう。少なくとも当面は交渉を巡る不透明感が消えず、「本格的な」景況感の回復や消費者マインドの改善、予想インフレ率の落ち着きは見込みづらいかもしれません。

Guide to the Markets 2025年4-6月期版を解説『金融市場の振り返り:グローバル金融市場の動向』

上記の図表では、年初来のグローバル金融市場の動向についてみています。

【左】は、2025年年初来の各資産のトータルリターン(利息・配当含む)を示しています。

【灰色】の棒グラフが示す通り、1-3月期はリターンがプラスの資産とマイナスの資産が混在しており、「総悲観」の状況ではなかったことが分かります。

まず国別で見ると、米国株式はトランプ政権の「負の政策」で苦戦し、日本株式は金融引き締め・円高・関税リスクが逆風となった一方、欧州株式や中国株式は、上記の「財政刺激策・金融緩和・規制緩和」の3点セット等を背景に上昇しました。

続いてセクター・スタイル別の株式で見ると、高バリュエーションや景気悪化懸念を背景にハイテク株式や景気敏感株式が冴えなかった一方、景気に左右されにくいディフェンシブ株式や下値抵抗力がある高配当株式などは堅調でした。

しかし、4月に入ると、市場の想定より厳しい米相互関税が発表されたことで一時は「リスクオフ一色」に変化し、その後同関税の一部猶予が発表されると今度は「株価急騰」に転じるなど慌ただしい相場展開となりました。

【右】は、米国の金利と株式、企業業績とバリュエーションを示しています。

S&P 500が最高値を付けた2025年2月19日以降、米国株式は軟調な値動きとなりましたが、「スタグフレーション」のリスクが過度には懸念されなかったことから米国での利下げ期待が強まり、米株安&米債券安のダブルパンチという最悪の事態は回避できました(注:4月の第2週は複数の短期的な要因で米金利に上昇圧力がかかる局面がみられました)。

続いて年初来の米国株式の動きについて予想1株利益(EPS)と予想株価収益率(PER)に分解して見ると、予想EPSは「相互関税ショック」後も右肩上がりが継続中の一方、予想PERは乱高下しています。これは、予想EPSの下振れリスク度合いが予想PERの乱高下に一部表れている格好だと考えらえれます。