ヘルスケアNow(なう)~ヘルスケアに関するトピックをご紹介!~
vol. 33 約30年ぶりの国内承認が待たれる肥満症治療薬
肥満治療の選択肢の拡充
2023年2月17日、大正製薬の内臓脂肪減少薬「アライ」が、厚生労働省によって製造・販売を承認されました。購入の際には必ず薬剤師から対面での指導や情報提供が必要となる要指導医薬品と指定されており、生活習慣改善への取り組みを行なっている場合のみ服用可能となります。
同薬は、脂肪吸収阻害作用をもつ「オルリスタット」を有効成分としています。「オルリスタット」は欧米など70ヵ国以上で市販薬として承認されており、日本では医療用医薬品を経ずに最初から市販薬として取り扱われます。
また、デンマークの製薬会社のノボノルディスクによる肥満症治療のための注射薬「セマグルチド(販売名:ウゴービ)」についても、厚生労働省の専門部会が製造・販売を了承しました。同薬はもともと2型糖尿病の治療薬として開発されました。こちらも近く正式に承認されると見られており、順調に進めば日本では30年ぶりとなる肥満症治療薬の承認となります。
加えて、米国の製薬会社のイーライ・リリーも2型糖尿病の治療薬の「チルゼパチド」について、肥満症患者を対象にした最終治験を日本国内外で進めています。このように日本でも肥満治療の選択肢が一気に広がりそうです。
期待される効果と服薬時の注意点
今後、日本でも複数の肥満治療関連の薬の普及が広がる見込みですが、薬によって服薬方法や頻度、効果等は異なります。
例えば、ノボノルディスクの「ウゴービ」は、服薬によって食欲減退効果が期待されます。日本人をはじめとする東アジア人の肥満対象者に対して行った治験では、週1回2.4mgの皮下注射によって68週間後にはベースライン時より10%超の体重減少が認められました。
ただし、服薬だけですべてが解決するものではなく、十分な効果を得るためには食事療法や行動療法と組み合わせて治療に取り組む必要があります。また、食欲減退効果をもたらす薬を用いる際は、タンパク質やビタミンなど必要な栄養素が不足するリスクもあるため、適切な栄養指導が求められます。加えて、副作用にも十分な注意が必要です。
肥満は糖尿病や高血圧、脂肪肝につながるものであり、健康的な生活を送るためには正しい知識をもって対処する必要がある症状です。日本ではまだ肥満に対する理解が十分に進んでいないという見方もありますが、治療薬が拡充し選択肢が増えることで、より肥満治療に取り組みやすくなることが期待されています。
(2023年3月公開)
vol. 32 “第三のウイルス”のワクチン開発動向
“三重流行”も懸念される今冬
新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の感染拡大後、3回目の冬を迎えました。感染拡大の当初と比べると、ワクチン接種も進み、海外との往来も再開するなど、正常化に向けた動きが進んでいます。
一方で、今年の冬は新型コロナとインフルエンザにRSウイルス感染症(以下、RSウイルス)も加わった“三重流行”への懸念が台頭しています。
RSウイルスとは、乳幼児を中心に急性細気管支炎や肺炎を引き起こし重症化することもある急性呼吸器感染症です。厚生労働省によると、2歳までにほぼ100%の乳幼児が少なくとも一度はRSウイルスに感染するとされています。乳幼児に加え、高齢者や基礎疾患のある人が感染すると、重症化リスクが高い疾患となります。
米国でも、この“三重流行”への懸念が高まっています。新型コロナの流行によって、呼吸器系ウイルスの季節性が大きく狂ったとされており、今年米国では例年よりも早い時期から RSウイルスの感染拡大が見られています。米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長もインタビューで懸念を表明しており、ワクチン開発への取り組みの強化にも言及しています。
実用化が待ち望まれるRSウイルスのワクチン
長きにわたり開発が行われてきたものの、残念ながらいまだにRSウイルスのワクチンは実用化されていません。
しかし、そのような状況にようやく光明がさしてきています。例えば、米国の大手製薬企業のファイザーは、2022年11月の発表において、妊婦へのワクチン接種を通じて生後90日以内の乳児の重篤な下気道疾患による入院の割合が81.8%減ったという治験結果を示しています。
また、英国の大手製薬企業のグラクソ・スミスクラインは、高齢者向けのRSウイルスのワクチンの開発に取り組んでいます。2022年10月には、日本の厚生労働省に下気道疾患の予防を目的としたRSウイルスのワクチンの製造販売の承認申請を行ったと発表しました。その翌月には、米国食品医薬品局(FDA)に受理され、優先審査の指定を受けたとの発表を行いました。
以上のように、RSウイルスのワクチンの実用化に向け、各社が取り組みを加速しています。今年の冬の“三重流行”に備えるには、最新の情報を吟味しながら新型コロナやインフルエンザのワクチン接種やマスクの着用などさまざまな選択肢の中から、それぞれ状況に応じて適切と思われる対応を選んでいく必要がありそうです。
(2022年12月公開)
vol.31 くも膜下出血に関わる予防・治療の改善に向けて
くも膜下出血発症後の治療薬の登場
いまだに日本では、新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」)の感染拡大が続いています。感染の影響としてさまざまな症状がありますが、その一つとして血栓ができやすくなる可能性が指摘されており、基礎疾患のある方や脳卒中などを経験した方が新型コロナに感染すると、重症化するリスクが高くなると言われています。
このような中、脳卒中の一種であるくも膜下出血に関する治療薬が登場しました。スイスの製薬企業であるイドルシア ファーマシューティカルズは、くも膜下出血発症後の治療薬となる点適薬「ピヴラッツ(一般名:クラゾセンタンナトリウム)」の日本での発売開始を今年4月に発表しました。
脳動脈瘤が破裂し出血するくも膜下出血は、死亡率も高く、一命をとりとめたとしても半身まひや言語障害などの後遺症を残す可能性が高い大病です。発症早期に緊急手術が施されることが多くなっていますが、手術により一命をとりとめた後も油断はできません。発症後は血管の収縮が起こりやすくなり、血管が細くなるため血流低下によって脳梗塞に陥ることがあり、くも膜下出血の手術後の死亡や後遺症の主な原因となっています。
「ピヴラッツ」は、血管の収縮を阻害する効果が期待されており、副作用の可能性があるため投与後の適切な術後管理が必要であるものの、くも膜下出血発症後の脳梗塞の発症を大幅に抑える効果が最終段階の治験で確認されたとのことです。
予防も大切
発症後の治療薬が登場し、今後の治療の改善への期待が高まっていますが、より健康的な生活を送るという観点では予防も重要だと考えられます。
くも膜下出血や脳梗塞、脳出血を主とする脳卒中は、バランスのいい食事や適度な運動といった基本的な対応に加え、早期発見も大切なポイントとして挙げられます。この一助として期待されているのが、次世代型コンピューター断層撮影装置(CT)として、今年6月に東海大学医学部附属病院に国内第一号機として導入されたシーメンス・ヘルシニアーズの「ネオトムアルファ」です。
従来のCTではカルシウムの蓄積と血流の見分けがつきにくかったものの、「ネオトムアルファ」ではその判別が容易になるとされており、くも膜下出血につながる脳動脈瘤も、早期の段階で診断や経過観察をしやすくなると期待されています。
新型コロナの感染状況を受け、どうしても新型コロナの動向に目を奪われがちになってしまいますが、より健康的な生活を送るため、その他の病気へも十分な注意・備えをもってお過ごしください。
(2022年9月公開)
vol.30 医療分野でのビッグデータの活用
医療ビッグデータを巡る世界の動向
新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」)は、いまだに油断ならない状態が続いています。新型コロナの収束に向け、既に複数のワクチンや治療薬が開発されましたが、従来と比べて劇的なスピードをもって開発が進められたと言われています。
その要因の一つとして挙げられているのが、ビッグデータの活用です。近年、ワクチンや治療薬などの開発に際して、EHR(Electronic Health Record、電子健康記録)と呼ばれる診断結果や検査情報、以前かかったことのある病気や血圧、体重といった患者の基礎情報などが含まれるビッグデータの活用が、欧米を中心に進められてきました。過去のデータを網羅的に取得・分析することで、創薬にかかる時間やコストの圧縮等が可能になります。
このような動きを受け、世界のEHRの市場規模は、2020年の約292億米ドルから2027年には約473億米ドル(約6.1兆円)へ急速に拡大すると予想されています。*
日本でも電子カルテ情報の活用が進む見込み
欧米に遅ればせながら、日本においてもEHRの活用が始まろうとしています。
今年2月には、NTTデータが年内にも100万人分の電子カルテなどのデータを分析し、医薬品企業の開発などに役立てるサービスを開始することを発表しました。日本国内の患者の情報を用いたサービスとしては、最大規模のものになると見られています。また、凸版印刷も、2025年度までに1,000万人以上の患者の電子カルテのデータから、医薬品企業が情報を分析できる環境の整備を目指すとしています。
EHRの活用が進めば、日本でもさまざまな新薬の開発が加速すると考えられます。医療分野でのビッグデータの動向に、これからも注目が集まりそうです。
(2022年6月公開)
vol.29 “全ゲノム解析”への高まる期待
コロナ禍におけるゲノム解析の活用
国内では、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染者数の拡大スピードが大分減速してきているようですが、年明けからの感染の急拡大の際には、感染力の高いオミクロン型が猛威を振るいました。
オミクロン型をはじめとして、新型コロナには過去さまざまな派生型が存在してきました。それらの「型」の確認には、生物の遺伝情報を解析する“ゲノム解析”が活用されてきました。
ゲノム解析の歴史
ゲノム解析には、長い歴史があります。大分以前の話になりますが、人のすべての遺伝情報を解読する「ヒトゲノム計画」が日米欧などで実施され、 2003年には人のゲノム解読は完了したとされていました。
その後、技術の進化により、「ヒトゲノム計画」ではまだ解読されていない情報があることが分かりました。人のゲノムをすべて解析しようとする“全ゲノム解析”は、日本でも官民の総力をあげて引き続き取り組まれている分野となります。
“全ゲノム解析”で期待されていること
従来の遺伝子検査では、病気との関連が分かっている代表的な分野に絞って情報の解析が行われてきました。しかし、そのやり方では、患者の数が少ない希少疾患を特定することは難しいとされています。
しかし、“全ゲノム解析”であれば、これまで診断が得られなかった希少疾患の診断につながる可能性が高まると考えられます。
厚生労働省は、2019年に「全ゲノム解析等実行計画」を策定しました。“全ゲノム解析”の成果をより早期に還元すべく、全国の医療機関や大学、製薬企業などと連携し、難病のゲノム医療の推進や個別化医療の改良などに向けた取り組みが行われています。
世界的に見ても、ゲノム解析に関連する研究・開発は活発に行われています。遺伝子解析の大手企業であるイルミナは、遺伝情報の解析・応用に向けて、自社の事業ポートフォリオを拡充するための企業買収などを実行しています。また、オンライン通販等で知られるアマゾン・ドット・コムも医療分野へ事業を拡げており、ゲノム解析関連企業への出資なども行ってきました。
ゲノム情報に関する個人情報を守るための仕組みなど課題もまだまだありますが、“全ゲノム解析”の進展による医療分野の拡充への期待は今後もさらに高まりそうです。
(2022年3月公開)
vol.28 新型コロナ 感染拡大の抑制に向けて
感染拡大が懸念される「オミクロン型」
新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)との闘いは、残念ながら三年目に突入してしまいました。
昨年末から今年の年初にかけて、欧米を中心に新型コロナの変異株「オミクロン型」によって感染の急拡大が引き起こされましたが、既に米国や英国などでは新規感染者数が減少に転じてきています。一方で、日本では足元「オミクロン型」の影響で新規感染者が急速に拡大しており、多くの都道府県で「まん延防止等重点措置」がとられ、日々緊張感が高まっています。
開発が進められるワクチンや治療薬
なかなか終わりが見えない新型コロナとの闘いですが、感染対策として世界的にワクチンのブースター接種が進められていることに加え、ワクチンの改良や治療薬の開発・普及が進められつつあります。
「オミクロン型」に対しては、既存ワクチンでも入院や死亡を減らす効果があるとの見方を世界保健機関(WHO)は示しています。このような中、より高い効果を目指し、新型コロナの既存ワクチンを供給しているファイザー社やモデルナ社から「オミクロン型」に特化したワクチンの臨床試験を開始したとの発表がありました。
新型コロナの飲み薬についても、同様に進展が見られます。昨年12月には、ファイザー社の「パクスロビド」、メルク社の「モルヌピラビル」について、米食品医薬品局(FDA)が緊急使用の承認を与えました。日本でも、これらの飲み薬に対して海外で承認された医薬品を迅速に審査する「特例承認」が適用されました。
また、日本企業も新型コロナのワクチンや治療薬の開発に取り組んでいます。塩野義製薬は研究中の新型コロナの治療薬候補について、実験室レベルで「オミクロン型」への有効性を示唆するデータが得られたと発表しました。こちらも早期の承認申請に向けて、開発が急がれています。
新型コロナの感染拡大を急速に解消するのはまだ難しい局面ではありますが、ワクチンや治療薬の開発は感染拡大の抑制に向けて欠かせない手段の一つだと考えられます。感染の収束への前向きな取り組みとして、開発動向は引き続き高い注目を集めそうです。
(2022年2月公開)
vol.27 デジタル時代の“耳の健康”
イヤホン利用の増加による弊害
新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染拡大に伴い、世界各地で外出制限がかけられたことにより、在宅勤務をはじめとするリモートワークが急速に浸透しました。足元は感染者が減少したことを受け、日本でも従来型のオフィス勤務に戻りつつあるものの、引き続きリモートワークも新しい働き方として想定されているようです。
一般的な会社員にとってリモートワークの柔軟な活用は働き方の選択肢となりうる一方で、オフィス勤務と比べるとイヤホンを長時間にわたって使用する機会が増えることになります。そのため、外耳炎や難聴など“耳の健康”に関するリスクが高まったとも言われています。深刻な症状になる前に、耳に違和感を感じたら、早めに耳鼻科に相談することが肝心です。
デジタル時代ならではの進化を続ける補聴器
リモートワークなど新しい生活様式への移行に伴い、“耳の健康”に対する意識が徐々に高まっているようです。それでも高齢化が進む中では、どうしても聴力の低下は避けられないため、補聴器に対する需要も拡大しており、近年は機能面で大きく進化を遂げています。
例えば、AI(人工知能)を活用した補聴器が既にいろいろと発売されています。具体的な機能として、AIがユーザーやその環境にあわせて微調整を行い、より明瞭な音質を届ける機能などが備えられています。また、単純な補聴器としての機能だけではなく、家電と連携する機能がついた製品なども出てきているようです。
また、今年8月には大手電機メーカーのシャープが補聴器市場への参入を発表しました。
これまで一般的に補聴器は機器代金のほか、利用者に合わせた調整のための料金などで30万円程度の費用がかかっていましたが、シャープは機器の調整サポートを遠隔にし、保証サービスなどをオプションにすることで補聴器の価格を10万円程度に抑えて提供しています。また、スマートフォンとの連携により自宅にいながら補聴器のフィッティングやアフターサービスを受けられるというサービス面での付加価値も提供しています。
AI等の活用によって、今後もさらに利便性の高い補聴器などの製品が開発されることで、私たちの生活をより快適なものにしてくれることでしょう。医療分野においても、デジタル時代ならではの製品の進化に今後も期待が集まりそうです。
(2021年11月公開)
vol.26 ドローンで一っ飛び!
薬の配送でも、ドローンが活躍!?
東京オリンピックの開会式で注目を集めたドローンですが、実用化に向けてさまざまな実験や検証が進められています。
日本では従来より過疎化が懸念されており、なかでも離島や山間部といった交通手段に制約がある場所における利便性の確保は、大きな課題になっています。その問題解決に向けて、ドローンが一役買いそうです。
例えば、ANAホールディングスや武田薬品工業、長崎大学などが固定翼型垂直離着陸(VTOL)ドローンを用いて、2021年3月に長崎県五島市における離島への配送の実証実験を行い、処方箋医薬品の配送を実施しました。
ドローンによる医薬品の配送が軌道に乗ると、遠隔地でのオンライン診療の普及に加え、緊急配送にも対応できるようになるため、医療サービスの観点から住民の利便性が向上すると大いに期待されています。
実用化に向けての課題
ドローンの実用化に向けては、現時点では多くの課題が指摘されています。前述の五島市における離島への配送は、まずは医薬品の配送として実施されましたが、頻度を高めたりコストを下げるためには、医薬品に限定せずに日常品などの配送も兼ねるという選択肢もあります。
また、実際に数多くのドローンが空を飛ぶようになると、空の安全を確保する運行管理も重要になりますので、ガイドラインの適切な運営や技術の確立に向けて政官民で取り組みが始まっています。加えて、ドローンが大型化するにつれ、騒音に対する懸念も高まっているようです。
ドローンによる運搬体制の実現にはまだ少し時間がかかりそうですが、医療をはじめとする各分野において、私たちの生活の利便性を高める取り組みにこれからも注目が集まりそうです。
vol.25 新型コロナ 治療薬の開発・普及に向けて
進むワクチン接種、
ただし感染拡大は収まらず
日本でも、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のワクチン接種が進められています。2021年8月24日時点で、国内の総接種回数は約1億2,000万回に達しており、二回接種完了者も人口の4割以上を占めるようになりました。
ワクチン接種が進む中、新型コロナの感染予防に大きな効果が期待されていますが、一方で感染拡大はなかなか収まる様子が見られません。2021年8月19日には、1日あたりの新型コロナの国内感染者数は2万5,000人を超えるなど、厳しい状況が続いています。
予防だけでなく、治療も重要
感染予防は重要ですが、感染後の治療も新型コロナ対策の重要な柱の一つになります。
国内外で新型コロナの治療薬の開発が進められており、日本でも「抗体カクテル療法」の活用が始まっています。「抗体カクテル療法」は点滴タイプの治療薬であり、軽症・中等症の患者に対して発症から一定期間内に投与すれば、重症化を防ぐ効果が期待されています。同薬は濃厚接触者への予防投与についても可能性を探っています。
また、服用が簡単な飲み薬タイプの治療薬の開発も進められています。塩野義製薬は、新薬候補の初期段階の臨床試験(治験)を既に始めており、「条件付き早期承認制度」を活用し、年内の承認申請を検討しているとしています。世界の製薬大手の一角を占めるメルクなどその他の製薬会社も飲み薬タイプの治験を進めています。
加えて、新型コロナの治療薬候補を既存薬の中から人工知能(AI)が見つけるという仕組みも稼働しています。AIを利用し膨大な論文や実験などのデータを分析して、既存薬の中から薬の候補やデザインを絞り込むことで、従来ならば候補の探索や動物での安全性試験などで数年かかるような工程の大幅な圧縮が可能になるとされています。
このように最新の技術や知見をもって、新型コロナへの対応が展開されています。新型コロナのワクチンや治療薬の進展により、1日でも早い事態の収束が望まれます。
(2021年9月公開)
vol.24 ゲームチェンジャーの登場!? 認知症治療における新たな展開
アルツハイマー型認知症の治療薬、条件付き承認を獲得
2021年6月7日、米食品医薬品局(FDA)が、日本のエーザイとアメリカの製薬大手バイオジェンが共同開発するアルツハイマー型認知症の治療薬「アデュカヌマブ」の承認申請を認めると発表しました。
「アデュカヌマブ」は、認知症を一時的に改善する従来の治療薬とは異なり、認知機能の低下を長期的に抑制する機能を持つ薬として世界で初めて承認されました。 世界で初めてということで、アルツハイマー型認知症の治療を大きく変える“ゲームチェンジャー”とも言える存在に躍り出たとも言えます。
ただし、「アデュカヌマブ」の開発は長年にわたるものであり、一筋縄に進んだわけではありません。また、今回のFDAの承認に際しても、「優先審査指定」という条件付きの承認であり、市場に導入された後に別途で検証試験を行う必要があります。効果が確認されなければ、承認が取り消される可能性もあります。
それでも、認知症の治療にとっては大きな一歩
条件付き承認、と聞くとがっかりされる方もいるかもしれませんが、決してそんなことはありません。なぜなら、アルツハイマー型認知症の治療薬はこれまでほとんど承認例がない分野だからです。
例えば、2017年までの20年間において、世界の製薬大手企業がアルツハイマー型認知症の治療薬の開発に取り組んできましたが、承認されたのはわずか4つの薬だけであり、その他の146の薬は却下されてしまいました*。
「アデュカヌマブ」は、アルツハイマー型認知症の初期段階の患者への投与で効果が見られたと報告されています。投与対象患者の見極めのためには、現時点では患者への負担が大きいとされる陽電子放射断層撮影装置(PET)などを使った検査が必要であり、普及に向けて簡便な検査手法が必要とされています。また、治療にかかるコストも高額であり、懸念材料の一つとされています。
さまざまな課題はあるものの、日本をはじめ高齢化が進む国では、認知症患者の増加は介護も含め社会に大きな影響があるため、治療薬への注目度は高まっています。
今後「アデュカヌマブ」は、アメリカだけでなく、日本や欧州などでも承認を目指すとされています。アルツハイマー型認知症の治療の確立を目指して、今後さらに取り組みが加速することが期待されています。
(2021年7月公開)
vol. 23 期待高まる“第5”の選択肢
がん治療 “第5”の選択肢
がんの治療においては、手術・放射線・化学(抗がん剤)の3つが長らく「三大治療法」と言われていました。
近年はノーベル生理学・医学賞受賞者である京都大学高等研究院の本庶佑特別教授らが見出した免疫チェックポイント阻害薬の登場により、免疫療法も “第4”の選択肢として加わるようになりました。
そして、がん治療の“第5”の選択肢として、脚光を浴びつつあるのが今号のテーマである光免疫療法です。関西医科大学は同分野では世界初となる研究所「関西医科大学附属光免疫医学研究所」を2022年4月に設立する予定を発表しました。
光免疫療法によって期待されるメリットとは?
光免疫療法では、まずがん細胞に結び付く特殊な薬剤を患者に投与します。投与した薬剤ががんの周辺に集まったら、近赤外線のレーザー光を当てます。そうすると、薬剤の色素が化学反応を起こし、がん細胞を破壊する仕組みになります。
光免疫療法は、何回実施しても他の治療法の効果を妨げないため、併用に適している点が大きな強みとされています。
加えて、免疫薬や化学療法などが全身に効果が出るのと異なり、光免疫療法はレーザー光を当てた部位だけに効くため副作用も限定的と見込まれています。
まだ普及の初期の段階であり、コストの低減 や治療対象のがんの種類を増やすなどの課題もありますが、選択肢が増えることでがんの症状の改善や根治につながると期待が高まっています。光免疫療法をはじめとするがんの各治療法に関して、今後の動向に引き続き注目が集まりそうです。
(2021年6月公開)
vol. 22 AIでがん発見!?
がん治療を取り巻く環境
新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の感染拡大への対処が引き続き大きな課題となっている昨今ですが、その他の病気がなくなったわけではありません。私たちは新型コロナの感染予防や治療を行うと同時に、その他の症状にも対処していく必要があります。
新型コロナの感染拡大前のデータですが、2019年の日本国内における最多の死因はがんであり、約38万人が亡くなりました。新型コロナの影響で受診控えが増えていると言われており、発見などの遅れでがん死亡数が今後増加するとの試算が海外でも発表されています。
最先端の研究による取り組み
がん治療では、早期発見が重要だと言われいます。そのためには、まず検査が必要ですが、せっかく検査をしても肝心の病変を見逃しては意味はありません。
飲み込んで小腸や大腸を検査できる小型の医療機器である「カプセル内視鏡」は、実はがんの検査でも用いられています。「カプセル内視鏡」に搭載された小型カメラで数万枚以上の写真を撮り、その画像が診断に利用されています。
これまでは、この大量の画像データを医師が時間をかけて読影していましたが、東京大学の研究チームによってカプセル内視鏡の画像から大腸のがんやポリープなどの病変を素早く見つける人工知能(AI)技術が開発されました。検査における人の負担や見落としを減らす効果が期待されており、実用化に向けて取り組みが進んでいます。
AIなどの最先端の技術が有効に活用されることで、今後も医療関連分野の成長が見込まれています。私たちの健康を支える企業や研究機関の取り組みに、これからも注目が集まりそうです。
(2021年4月公開)
vol. 21 手軽に始める健康管理
私たちの健康を支える小型の医療機器
世界各地で新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のワクチン接種が普及しつつありますが、残念ながら新型コロナの感染拡大の本格的な解消にはまだ時間がかかりそうです。
このような中、日本では自宅療養者に対して、新型コロナの症状判断の目安として「パルスオキシメーター」と呼ばれる血中の酸素量の測定を行う小型の医療機器の貸し出しが一部の自治体で実施されています。
さまざまなアプローチで健康管理がより身近な存在に
専用の医療機器というと少し身構えてしまいますが、私たちにとって身近なモノが家庭用の健康関連機器として活躍し始めています。
例えば、アップルのスマートウォッチ「Apple Watch」シリーズにおいて、日本でも心電図の計測機能の提供が2021年1月に始まりました。アップルは「心電図アプリはあくまで家庭用の機能」としていますが、日常的に体に身に着ける端末で手軽に計測できることから、健康管理に一役買うと考えられます。
また、変わり種としては、TOTOが打ち出した「ウェルネストイレ」があります。こちらは製品化まで進んでいない段階での発表ですが、便座をセンサーにして、血流や心拍数、排泄物などのデータを収集・分析し、結果を利用者のスマホアプリに通知するといったサービスが想定されています。
従来の医療関連企業のみならず、幅広い企業で健康に関する取り組みが加速することで、健康管理がより身近な存在になると考えられます。さまざまな企業や研究機関による今後の取り組みに期待できそうです。
(2021年3月公開)
vol. 20 新型コロナ 克服への第一歩
新型コロナ ワクチン接種の開始
新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の感染拡大は、残念ながらいまだに終息が見えていません。感染者数は全世界で8,000万人を超えて拡大しています。
このような中において、米国や欧州などで医療従事者や高齢者を中心に新型コロナのワクチン接種が始まりつつあることは、明るいニュースとして取り上げられています。
より安全・安価なワクチンの普及に向けて
ワクチンとは、感染症の予防接種に用いる医薬品を指します。日本では、インフルエンザのワクチンが一般的に広く知られています。
新型コロナの克服のためには、治療薬とともにワクチンの開発・普及が欠かせません。通常は治験を含めて数年程度はかかるワクチンの開発ですが、今回は欧米の製薬大手を中心に短期間で接種まで進められています。
具体的には、2020年12月中旬から米国の製薬大手ファイザーのワクチンについて、米国での接種が始められています。日本でも、2020年度内の同ワクチンの接種開始を目指して治験が進められています。また、モデルナやアストラゼネカなどが開発したワクチンも同様に手続きが進行しています。
新型コロナの克服に向けて、ワクチンの接種開始は喜ばしいニュースです。一方で、ワクチンの副作用や接種コスト、ワクチン輸送における温度調整などまだ課題は多く残されています。政府・民間が一体となって、より安全・安価なワクチンの普及に向けた取り組みが期待されています。
(2021年1月公開)
vol. 19 コロナ禍におけるストレスへの対応
新型コロナの影響を受ける子供たち
新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の世界的な感染拡大は、私たちの日々の生活にも大きな影響を及ぼしています。
その具体例としてまず挙げられるのが、子供たちのストレスです。日本では2月下旬に突如行われた全国の小中高に対する一斉休校の要請や外出自粛などの新型コロナへの対応により、子供たちの多くに何らかのストレス反応・症状が出ているとの調査結果が発表されています。
実は大人も悩んでいるストレスへの対応
コロナ禍でストレスを抱えているのは、子供たちだけではありません。在宅勤務が急激に普及した結果、オフィスとは異なる環境での勤務やライフスタイルの変化、デジタルツールの使用時間の増加などにより、ストレスを感じる方が増えているようです。
近年は、企業側の対応としてストレスチェックによる従業員の状況の把握等が行われています。このような中、産業医選任の義務のない中小企業向けに産業医との面談を1件から紹介するサービスを製薬会社へのマーケティング支援を手掛けるエムスリーの子会社が始めるなど、従業員のストレスに関する新たなサービスも開始されています。
新型コロナの収束時期が不透明な環境下ではありますが、生活習慣を見直すなど、できることから少しずつ対応していくことで、ストレスとうまく付き合っていけるよう心掛けてみましょう。
(2020年9月公開)
vol. 18 アトピー性皮膚炎の新しい治療薬
近年、急増傾向にあるアトピー性皮膚炎
現代病の1つといわれるアトピー性皮膚炎。国内の患者数は2017年時点で約51万人と15年間で約1.8倍に増加しました*1。
一般に、アトピー性皮膚炎は乳幼児~小児期に発症し、大人になるにつれて症状は治まってくるとされています。しかし、最近では大人になっても治らなかったり、大人になってから発症する「成人型アトピー」の患者数が増えているといわれています。
手軽に自宅でできる注射薬の登場
これまでは、ステロイド外用薬などの塗り薬や、かゆみ止めの飲み薬で症状を緩和するのが一般的な治療でしたが、最近は新しいタイプの薬が登場しています。
フランスの医薬品企業サノフィが発売した「デュピクセント」*2は、注射することで体内から症状を抑える新薬です。これまでの治療では十分な効果が得られない中等症~重症の成人患者が対象とされ、基本は既存のステロイド外用薬や保湿外用剤などとの併用治療薬として処方されます。
同薬では処方された多くの患者に、これまでの治療のみよりも高い効果が認められているようです。また、自宅で自分で注射することが可能なため、患者の通院負担が軽減されるメリットも注目されています。
また2020年6月に、鳥居薬品から非ステロイド性の新しい外用薬*2が発売されたのをはじめとして、複数の企業で、より高い安全性と効果を目指した治療薬の開発が進行中です。アドピー性皮膚炎に悩む患者の皆さんが、より快適な生活を送れるよう治療効果の向上が望まれます。
(2020年7月公開)
vol. 17 感染症の予防に向けたワクチンの開発
新型肺炎の感染拡大への対応
新型コロナウイルスによる肺炎(以下、新型肺炎)の急激な感染拡大が、世界全体に大きな影響を及ぼしています。一刻も早い事態の収束が望まれるところであり、各国・地域で治療への取り組みや感染を食い止めるための施策が行われています。
足元の動きとしては、対象者を識別するための検査の拡充が求められており、治療薬やワクチンの開発が喫緊の課題となっています。
早期の実用化が望まれるワクチン
ワクチンとは、感染症の予防接種に用いる医薬品を指します。日本での身近な例では、インフルエンザの予防の一つとして年1回ないしは2回のワクチン接種が推奨されています。
今回の新型肺炎に関しても、短期的な視点だけでなく、長い目で見た今後の予防に向けて、さまざまな企業や研究機関がワクチン開発に着手しています。
米国の国立衛生研究所では、既にワクチンの実用化に向けた治験が開始されており、日本でも大阪大学発のバイオ企業であるアンジェスが関係各社と協力してワクチン開発に取り組んでいます。また、世界の製薬大手企業も同様にワクチン開発に乗り出しています。
臨床試験(治験)の後もさまざまな過程があるため、実用化にはさらに12~18ヵ月程度かかるとされていますが、新型肺炎への対処に向けて一刻も早いワクチンの開発が期待されます。
(2020年4月公開)
vol. 16 ストップ!子どもの近視
年々増加傾向にある子どもの近視
昨年発表された文部科学省の調査によると、裸眼での視力が1.0に満たない近視の子どもの割合は、小学生で約35%、中学生では約57%となっています。年々増加傾向にあり、過去約30年の間にそれぞれ15%前後も比率が高まりました。
低年齢層における視力低下の深刻化は日本だけの事象ではなく、世界的に懸念が高まっています。
近年、治療への取り組みが拡大
これまで近視は遺伝が原因と片付けられがちでしたが、このような状況を踏まえ、近年は治療への取り組みが広がりつつあります。例えば、就寝時に装用する視力矯正用コンタクトレンズ「オルソケラトロジーレンズ」などを使った治療が、日本国内でも自由診療で受けられたり、点眼薬の臨床試験などが進められています。
近視は若いうちに進行することが多い症状ですが、中高年以降になると、緑内障や網膜はく離などの合併症を引き起こすリスクも増すとされています。
早め早めの対応を行うことで、将来のリスクを抑える効果も期待できます。最新の治療状況を確認し、今後の対応を検討されてみてはいかがでしょうか?
(2020年3月公開)
vol. 15 人工皮膚のこれから
人工皮膚でより美しく!?
最近の美容業界をにぎわせているニュースとして、人工皮膚を用いた花王の新商品の発売が挙げられます。こちらの商品は、専用の機器を用いて「ファインファイバー」と呼ばれる極細繊維を直接肌に吹き付け、人工皮膚としてまとわせます。そして、この人工皮膚と美容液を組み合わせることで、寝ている間に肌を整え、より美しい肌へと導くことができるとされています。
また、資生堂が2018年に米国のベンチャー企業が有する人工皮膚「セカンドスキン」関連事業を買収していることからも、人工皮膚は美容業界における注目の分野の一つであることが分かります。
医療分野への活用
足元では、美容効果に対する注目が集まる人工皮膚ですが、将来的には医療分野への活用も検討されています。例えば保湿を行うことで、傷跡をより早く治す効果や人工皮膚をまとうことで傷跡や痣(あざ)を隠す効果などが期待されています。
加えて、熱傷(やけど)の治療においては、シリコン膜やナイロン繊維などから作成した人工皮膚が治療で既に用いられています。広い範囲にわたる熱傷創に対して、自分の皮膚を移植する代わりに人工皮膚を移植することで、細菌が繁殖するのを防ぐ役割を担っています。
美容から医療まで幅広い分野での活用が見込まれる人工皮膚の開発や新商品の発売など動向から目が離せない状況が続きそうです。
(2020年1月公開)
vol. 14 わずか1滴、されど1滴
がん早期発見が期待される血液検査
近年のがん治療では、体に備わる免疫の力を利用する「オプジーボ」や「キイトルーダ」といった“がん免疫薬”が利用される機会が増えつつあります。しかし、このような新しい薬が出てきたとしても、症状を早期に発見しなければ意味が薄れてしまいます。
そこで、新たに期待されているのが、血液検査による症状の早期発見です。痛みや放射線被爆を伴う精密検査を受ける前に、ある程度のレベルでの見分けが可能になり、見落としや過剰な検査を避けることにつながります。具体的には、がん細胞が血液中に放出する「マイクロRNA(リボ核酸)」と呼ばれる物質を血液1滴程度で解析し、がんの症状を判別することが想定されています。
引き続き研究が必要ではあるものの、この新しい検査法は早ければ来年2020年にでも一部の人間ドックや健康診断で受診可能になると見込まれています。
薬の効果の判定にも一役
血液検査は症状の把握にとどまらず、その後の治療での活用も期待されています。がん免疫薬は高い効果が期待される一方で、実際に効く患者は2~3割程度にとどまると言われています。
現在は、服薬前の効果予測として遺伝子検査や手術で取り出されたがん細胞の解析などが行われているものの、血液検査の方が精度が高いと見られています。
加えて、高額のがん免疫薬の効果の予測精度を高めることで、医療財政の負担の削減が可能になると考えられます。さまざまな可能性を持つ血液検査の動向に、今後も注目が集まりそうです。
(2019年12月公開)
vol. 13 アプリで禁煙!?
禁煙アプリの登場
健康意識の高まりやラグビーのワールドカップ、東京オリンピック開催などを受け、禁煙の機運が高まっています。しかし、いざ禁煙に取り組もうとしても、実行に移すのはなかなか難しいようです。
このような中、禁煙のサポート役として注目を集めつつあるツールが、“禁煙アプリ”になります。こちらはただのアプリではなく、治療のために処方される有料のアプリとなります。禁煙アプリによって、喫煙者に対して助言を行うことで生活習慣の改善を促し、禁煙に導く効果が期待されています。既に日本でも、ニコチン依存症を治療するスマートフォン・アプリついて、薬事承認に向けた申請が行われており、来年春の保険適用が視野に入っています。
アプリがもたらす治療機会の拡充
禁煙用だけではなく、高脂血症や糖尿病といった生活習慣病、精神疾患など、さまざまな症状に対して治療アプリの開発が進められています。
これまでも生活習慣の改善を促すアプリはありましたが、治療目的に使われる治療アプリは、医薬品や医療機器と同じように安全性や有効性を確かめる臨床試験が必要になります。クリアすべき課題は残されているものの、医薬品など他の治療との併用が行いやすいため、治療アプリによって効果的な治療が可能になると見られています。
まだ黎明期にある治療アプリですが、老若男女・地域を問わず多くの人が利用するスマートフォンをプラットフォームとすることで、治療機会の拡充につながっていくのではないでしょうか。
(2019年11月公開)
vol. 12 薬局ロボット、出動!
調剤薬局におけるロボットの導入
「調剤薬局」というと、どのようなイメージが思い浮かぶでしょうか?
実は、薬剤師さんが処方箋に従って薬を棚から選んで処方というイメージは、旧来型のものとなりつつあります。最近では、処方箋データに基づきロボットが棚から必要な薬を取り出したり(下記の写真は棚から薬を選ぶ装置の内部になります)、薬を調合したりといった自動化の波が調剤薬局でも徐々に広がってきています。
業務の効率化により、手厚いケアを提供
ロボット導入による一番のメリットとして、業務の効率化が挙げられます。団塊の世代全員が75歳以上になる2025年以降、薬局の主要な顧客層となる高齢者の数は一段と増えると想定されています。
また、調剤業務を効率化することで、国から徹底を求められている服薬指導に時間や労力を振り分けることができると考えられています。ロボット導入には相応の費用負担が生じますが、患者さんの待ち時間の大幅な短縮などそれを上回るメリットがあると期待されています。
街の調剤薬局やドラッグストアで活躍するロボットが身近な存在になる日もそう遠くないのかもしれません。
(2019年9月公開)
vol. 11 お薬のいろいろなバリエーション
世界初となる統合失調症*の貼り薬の登場
「かかる頻度が比較的に高い精神疾患」と言われる統合失調症について、世界初となる貼るタイプの治療薬が国内で承認されました。これまで統合失調症では、飲むタイプの薬もしくは注射剤で治療が行われていましたが、“第三の治療薬”として貼り薬が登場したことにより、治療の選択肢が広がりました。
症状によっては薬を処方通りに正しくとることが難しいために治療が困難なケースがあり、錠剤や注射剤と比べて服薬しやすく、かつ第三者からも服薬の状況が分かりやすい貼り薬の登場は、統合失調症の治療の改善につながると期待されています。
症状や年齢にあわせ、より適切な服薬を
一般的に、薬は貼り薬にとどまらず、塗り薬や吸入剤などさまざまな形態があり、効果が出るまでの時間や食べ物との相性といった特徴が異なります。また、小さなお子さんや高齢の患者さんなどは錠剤タイプの服薬が難しい場合もあり、それぞれの状態にあった適切な処方が求められます。
医師や薬剤師に相談しながら、自分の症状などにあわせた種類・形態のお薬を利用できるよう心掛けてみましょう。
(2019年8月公開)
vol. 10 歯の健康を支えるテクノロジーの進化
“予防歯科”に対する意識の高まり
日本では毎日歯を磨く人が約95%にのぼるにも関わらず、歯周病の目安となる「4mm以上の歯周ポケットを持つ人」が特に高齢の方々の中で増加している、という残念な結果が厚生労働省の調査*で明らかになりました。
従来は、虫歯などが見つかった後に歯科医院で治療するという考え方が一般的でしたが、できるだけ歯を健康な状態で残すために、歯科医や歯科衛生士の指導に基づいたケアをきちんと行う“予防歯科”が重要だと考えられるようになってきています。
テクノロジーの活用
歯の健康を守るべく、予防歯科の分野でも最新のテクノロジーが活用されています。例えば、個人それぞれにあった歯磨き指導するために超小型位置センサを搭載した電動歯ブラシや、歯周病菌を検知するセンサ付の電動歯ブラシなど、近年さまざまな製品が発売されました。これらの製品は無線経由でデータを共有・蓄積できる点が大きな特徴となっています。
健康な歯を少しでも長く維持するため、歯科医や歯科衛生士の指導を仰ぎながら、最新のテクノロジーを適宜活用してみてはいかがでしょうか?
(2019年6月公開)
vol. 9 遺伝子を用いた治療薬の台頭
注目を集める遺伝子を用いた治療
近年、遺伝子を用いた治療に関する報道を目にする機会が増えてきています。従来の治療と比べて高額ではあるものの、高い効果が期待されているため、まだ治療法が確立されていない疾病に対する治療法として注目を集めています(下図ご参照)。
例えば、がん治療では、遺伝子を用いて特定の場所を狙い撃ちすることで、従来の放射線や抗がん剤に比べ、副作用が少なく高い治療効果が期待されます。また、個々の症状や体質にあったオーダーメイド治療が実現できるとされています。
新薬の承認で話題に
日本でも、白血病などのがん治療薬である「キムリア」や閉塞性動脈硬化症などの治療薬である「コラテジェン」といった遺伝子を用いた治療薬の製造・販売が承認され、話題になりました。遺伝子を用いた治療薬に関するニュースを目にする機会は、今後ますます増えていきそうです。
遺伝子を用いた治療の概要
(2019年5月公開)
vol. 8 これからの診療の形 ~在宅医療の拡充に向けた動き~
オンライン診療システムの導入
4Gや5G(第4・5世代移動通信システム)などの導入により、オンライン・ネットワークを駆使したサービスは近年目覚ましい進化を遂げており、オンライン診療システムはその一分野として注目を集めています。
同システムは、在宅医療の拡充を促進するものであり、医療や介護を受ける側の負担を減らして利便性を高めることで、高齢化社会の大きな支えになると期待されています。
日本では、オンライン診療の保険適用が2018年4月に始まり、間もなく1年が経過しようとしています。ただし、安全かつ効果的なオンライン診療が広く普及するには、オンライン診療開始にあたっての初期費用や運用費用といったコストの面や電子カルテとの連携など、まだ課題が山積みです。
在宅診療のさらなる拡充
また、現在のオンライン診療では、患者は紙の処方箋を医療機関から送付してもらい、薬局まで出向いて対面で薬の飲み方を教わり薬を受け取ることになります。厚生労働省は、将来的に薬剤師によるオンラインでの服薬指導を解禁する方向であり、最終的には診察から薬の受取りまで自宅で行えるようになる見込みです。
在宅診療の拡充が進むことで、より効率的な医療サービスの提供が可能になると言われています。日本の医療サービスの将来を占う前向きな動きとして、今後も注目を集めそうです。
(2019年3月公開)
vol. 7 ペットの健康を支える医療関連製品
徐々に高齢化が進む日本のペット
少子高齢化が進む日本の社会の中で、イヌやネコをはじめとするペットは家族の一員として存在感が増していると言われています。
ペットに対する支出は年々増加しており、2017年の平均年間支出額はイヌ:約45万円(前年比+32%)、ネコ:約21万円(前年比+28%)という調査結果が発表されています*1。
ペットに対する支出額の増加の背景として、ペットフードなど栄養面での質の向上や動物医療の発達などが挙げられます。その結果、飼育環境の改善によりペットとして飼育される犬・猫の高齢化が進み、高齢とされる7歳以上の割合は2018年現在でいずれも5割前後と高い比率になりました*2。
ペット業界における医療関連製品・技術の拡充
近年では、ペットが健康的な生活を送れるよう、白内障向けの眼内レンズや小型犬の目の角膜を保護するための使い捨てコンタクトレンズ、歯垢の付着を減らすサプリメントなどのさまざまな医療関連製品が販売されています。
また、最先端の動きとして、ペット向けについても再生医療技術の開発が進められています。幅広く利用されるまでには、安全性の確保を含め課題はまだ多く残されていますが、大切なペットの健康を支える医療関連製品・技術の拡充に今後も期待が寄せられそうです。
(2019年2月公開)
vol. 6 医療分野における3Dプリンターの活用
普及が進む3Dプリンター
近年、3D(三次元)プリンターの普及が拡大し、従来の加工技術では難しかった複雑な立体構造の造形を可能にしています。
3Dプリンターは、1980年に日本で開発された技術が原型となっており、世界各地で研究・開発が進められてきました。その後、関連特許の有効期限切れをきっかけとして急速に低コスト化が進んだことで、広く知られる存在となりました。
3Dプリンターは、製品の試作のみならず、造形スピードの向上等にも大きく貢献しています。加えて、3Dプリンターで加工する材料は特殊な樹脂素材だけでなく、プラスチックや金属など多様化が進んでいることから、さらに活用の可能性が広がっています。
医療分野における3Dプリンターの活用
3Dプリンターの大きな特徴として、個々のニーズにあわせた“カスタマイズ対応”が挙げられます。オーダーメイド医療のニーズが高まる状況下において、その特性がいかんなく発揮される分野だと考えられています。
例えば、手術の事前準備となる模擬手術で使用する臓器立体モデルを3Dプリンターで作成することは、既に保険診療の対象となっています。また、歯科分野では、3Dプリンターによる入れ歯の作成も行われています。医療分野における3Dプリンターの存在感は、今後もますます高まっていくと注目されています。
(2018年12月公開)
vol. 5 インフルエンザ・シーズンの到来の前に ~最近の治療事情~
インフルエンザ・シーズンの到来
日本国内では、例年11月下旬頃からインフルエンザの患者数は大きく増加し、2月頃がピークとなり、多くの感染者が出ることで、学校では休校や学級閉鎖といった事態が起きています。
このような中で、今年3月に発売された塩野義製薬のインフルエンザ治療薬「ゾフルーザ」が、“期待の治療薬”として取り上げられる機会が増えています。これまでの治療薬では複数回の投与もしくは吸入が必要でしたが、1回の錠剤服用のみと取り扱いが簡単であることに加え、従来の治療薬と比べて短期間での症状の改善が見られています。
日本国内の主なインフルエンザ治療薬
最新の情報を確認して、落ち着いて対応を
また、インフルエンザの診断についても診断を補助する新しい装置が発売となり、今まで目視では判断が難しかった感染初期の判定の精度の向上が期待されています。治療薬のみならず、関連する分野でも研究・開発が進められていることが分かります。
本格的なインフルエンザ・シーズン到来の前に、このような治療に関する最新情報を確認することで、より落ち着いて対処することが可能になるかもしれません。最後に、インフルエンザでは予防が重要だとされています。外出後の手洗いをしっかり行うなどして、可能な限りインフルエンザの感染を防ぐよう気を付けていきましょう。
(2018年11月公開)
vol. 4 医療の世界を大きく変える最先端の人工知能(AI)技術
患者の命を救ったAIの診断
2016年にIBMの人工知能「ワトソン」が、診断が難しい60代の女性患者の白血病を10分ほどで見抜いたと東京医科学研究所が発表し、“AIが患者の命を救った国内初の事例”として注目されました。この女性は、数ヵ月で回復し退院しました。
当時のワトソンは、2,000万件以上のがんに関する論文を学習し判断したとされています。医師がすべての医療情報を把握するには限界があります。一方、大量の情報を記憶し適切に引き出すことはAIが得意とすることであり、今後さらに医療分野での治療方法や診断のアドバイスに活用されていくことが期待されます。
医療分野へさまざまな可能性をもたらすAI
医療へのAIの活用は、その他にも多岐にわたっています。例えば、AIに技術の高い手術の動画を大量に学習させて、手術の再現を目指すものが挙げられます。これが実現すれば、全国どこの病院でも高度なベテランの手技を生かした手術を受けられることが期待されます。
また、MRIや内視鏡で撮影した体内の画像(病理画像)と臨床情報や遺伝子などのデータを複数のAIに学習させ、それらを組み合わせて解析することで、病気の早期発見や治療の精度をあげることが可能となると見込まれます。さらに、これらが進化すると、患者ひとりひとりに合った治療(オーダーメイド治療)の実現も期待されています。
その他にも、AIがカルテを自動入力することで、医師が治療に専念できるなどの医師の負担軽減などにも役立つ可能性があります。
(2018年9月公開)
vol. 3 生活スタイルの変化が健康に及ぼす影響 ~糖尿病~
生活スタイルの変化により、糖尿病の患者数は増える見込み
経済の発展に伴い所得が向上する中で、新興国においても、近年生活スタイルの欧米化が進んでおり、世界的に見て生活習慣病の患者数の増加が懸念されています。
中でも、糖尿病の治療は重要なテーマとされています。糖尿病とは、血液中を流れるブドウ糖(血糖)が増える病気であり、ひとたび発症すると治すことは難しく、さまざまな合併症を引き起こし、生活にも支障をきたすこともあります。
生活習慣病の中でも特に取り上げられる機会が多い糖尿病ですが、新興国で患者数が急激に拡大しています。例えば、2017年から2045年にかけて糖尿病の患者数はインドでは6,140万人、メキシコで980万人増えるとそれぞれ予想されています。
世界の糖尿病の患者数の見込み
糖尿病の治療のこれから
現在の一般的な糖尿病の予防・改善では、食事療法と運動療法をはじめとする生活習慣の改善が欠かせません。また、治療には血糖を下げる飲み薬や注射薬が用いられています。
糖尿病の治療の負担をより軽減するため、薬だけでなく、さまざまな分野で研究・開発が進められています。例えば、インスリン注射は患者にとって負担の大きな作業となりますが、インスリンを持続的に患者の皮下に投与する“インスリンポンプ”と呼ばれる機器の小型化・自動化がさらに進めば、負担は大幅に削減すると注目を集めています。
さらに、完全に治すことを目指して、細胞移植の研究も進められています。糖尿病の治療のこれからに大いに期待が寄せられます。
(2018年8月公開)
vol. 2 IT(情報技術)を活用した新しい医療のかたち ~遠隔医療サービス~
遠隔医療サービスとは
ITの目覚しい進歩によって、新しい医療のかたちが広がりを見せ始めています。
そのひとつが遠隔医療サービスです。患者が自宅にいながら、パソコンやスマートフォンを使って病院との間で画像や音声をやり取りすることによって、医師が症状を診断したり、医薬品の処方を行います。この遠隔医療サービスは米国を中心に普及が進んでいます。
遠隔医療サービスのメリットとしては、医療費高騰が問題となっている米国において、対面での医療にくらべてコストが抑えられる点や、医師不足の地域、専門医が不在の地域においても、疾病の早期発見や重症化の予防が期待できる点などがあげられます。
また、患者や高齢者などにとっては、通院の負担、病院での待ち時間の負担を軽減できる点もあげられます。日本においても、遠隔医療サービスの普及に向けた取り組みが進んでいます。
手術支援ロボットを使った遠隔医療サービスの可能性
手術の現場に大きな変革をもたらしている手術支援ロボットも、遠隔医療サービスへの活用が考えられます。
医師は手術支援ロボットを使い、患者に触れずに患部の立体画像を見ながら、ロボットのアームを動かすことで、人間の手だけでは届きにくかった患部の治療などが可能になってきています。将来的には、手術支援ロボットを使い、その場に医師がいなくても、遠隔地からの操作で手術ができる世界も期待されています。
(2018年7月公開)
vol. 1 治療薬開発と株価上昇への期待 ~アルツハイマー型認知症~
アルツハイマー型認知症を取り巻く現状
アルツハイマー型認知症(以下、「アルツハイマー」)の撲滅は、21世紀最大の課題の1つと言われており、現時点では完全に治す治療薬はありません。
残念ながら、世界における認知症の患者数は長期にわたって増加していくと見られています。認知症患者の6~7割程度がアルツハイマーであり、患者の増加に伴って治療や介護にかかる費用も増加することが見込まれます。
世界における認知症の患者数(推計値)
治療薬や予防薬の開発が進む
アルツハイマーの治療や予防のため、世界の大手製薬会社による研究・開発が進んでおり、患者やその家族に加え、医療関係者から期待が寄せられています。
新薬の開発に成功すると、その開発にかかわる企業の収益が増加すると見込まれるため、その株価にもプラスに影響を及ぼすと考えられています。
アルツハイマーの治療薬・予防薬の主な開発計画
(2018年6月公開)