今回の調査から、為替ヘッジコストの高まりに伴うヘッジ外債の取り扱いが大きな課題となっていることが明らかになりました。為替ヘッジなしの外債では政策アセットミックスの想定ボラティリティの上昇をもたらすため、国内の金利水準が上昇すれば、国内債の比率上昇を検討するものと思われます。また、株式についても、最近の円安水準から外国株投資に入りづらいことや、東京証券取引所によるPBR改善要請等から国内株式の魅力が増しています。こうした点を勘案すると、国内資産回帰の兆しが見えてくるものと思われます
資産配分の傾向
- 政策アセットミックスにおける割合は、国内債券14.9%、外国/グローバル債券30.5%、オルタナティブ23.4%、国内株式4.4%、外国/グローバル株式14.3%。前年対比で国内資産が減少し、オルタナティブが増加している(2023年3月末時点、図1参照)
- 伝統4資産1ベースでオルタナティブ投資を行っているDB年金では、今回、全資産に対するオルタナティブの配分比率が最も大きくなり、オルタナティブは必要不可欠な存在になっている。しかし、同割合が過去の急ペースで増加していくとは考えづらく、オルタナティブの増加ペースは巡航速度入りしている様子も見えてきたと考える
- オルタナティブ資産の内訳をみると、ヘッジファンド、プライベート・エクイティ、プライベート・デットおよび不動産やインフラといったインカム系リアルアセットが前年比実績ベースで増加した
1 国内債券、外国/グローバル債券、国内株式、外国/グローバル株式。
図1:政策アセットミックスの推移

各年3月末時点。回答数は2009年:77、2010年:76、2011年:73、2012年:83、2013年:88、2014年:93、2015年:90、2016年:75、2017年:104、2018年:97、2019年:83、2020年:79、2021年:79、2022年:66、2023年:69
注:資産クラスの設定において、内外の区別がない「グローバル枠」を設定しているDB年金については、データの連続性の観点から「グローバル株式」は「外国株式」へ、「グローバル債券」は「外国債券」に割り振っている。ここ数年でグローバル枠を設定しているDB年金が増加しているため、過去データとの比較には十分な注意が必要。四捨五入の関係で合計が100%とならない場合がある。
今後の課題・方向性
- 海外政策金利が引き上げられた一方、日本銀行は金融緩和を維持しているため、為替ヘッジコストが対米ドルで5~6%と高止まりしている。しかし為替ヘッジを行わずに為替リスクをとって外債投資を行うとボラティリティが高くなり、一方で円安がかなり進んだと考えられる現在、今後の円高リスクも想定される。こうした点を念頭に置いた為替ヘッジ外債の取り扱いが、喫緊の課題となっている
- 日銀の今後の金融政策修正への対応については、「様子見」、「ポートフォリオ変更は検討しない」との回答が多数を占めた一方で、調査対象の10%強が「国内債券の比率上昇」を検討すると回答している。また、国内債券増加を検討する10年物日本国債の利回り水準は「1.00%」、次に多かった回答が「1.5%」であった。DB年金の予定利率が2%前半で推移する中、利回り水準が1%以上であれば投資に魅力を感じているところも出てきている
- 景気後退が予想されるなか、株式ファクターをどう考えるかが外国株式の課題となっている。GAFAM5問題をどう考えるかがパフォーマンスに大きく影響する中で、スタイルリスクをとるのではなく、パフォーマンスの良いコア型への投資検討が進む可能性がある
- 回答者の29.6%が今後オルタナティブを増やす方向である(図2)。オルタナティブの中で今後増加させる資産ではプライベート・エクイティが最も高い得票率で、プライベート・デットも安定的な増加ペースが見られる。全体では、ヘッジファンドからインカム系資産やプライベート・エクイティへの入れ替えを検討している
図2:今後配分を増加/減少させると回答したDB年金の割合

注:オルタナティブの配分増加・新規投資は別軸で表示している点に注意。2022年はヒアリングを実施せず。
J.P.モルガンの企業年金運用動向調査について J.P.モルガン・アセット・マネジメントは、日本の確定給付型年金(DB年金)を中心に年金基金を対象として、過去2年間の運用状況の変化および方向性について継続的に聞き取り調査を行っています。2022年度の今回は15回目です。2022年度は合計81件の回答を得て、2023年9月にその結果を公表しました。
注意事項
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用語説明
政策アセットミックス:年金基金等の機関投資家が決定し、定期的に見直される基本資産配分
低相関系資産:株式や債券などの伝統的資産との価格変動の相関性が低い、または低いことが期待される資産
インカム系資産:保有し続けることによって、利息や配当、賃料収入などのインカム収入が得られる資産
実物資産(リアル・アセット):不動産や船舶、航空機、インフラストラクチャー(社会的基盤施設)など
低流動性資産:日々売買可能な上場株や債券などとは異なり、購入や換金に一定の日数を要する資産
プライベート・アセット:プライベート・エクイティ(未公開株)やプライベート・デット(私募債やローン)、私募不動産投資信託(私募REIT)、実物資産など、公開市場で取引されない投資対象資産。一般的に流動性が低い
上記は、年金運用動向調査の結果を説明したものです。一定の見解や数値の予想、さらに現在の金融市場における市場の動向等に関する記述が含まれていますが、これらは当社の判断の根拠となるものであり、また特に予告なく変更されることがあります。当社は、上記の情報を信頼に足るものと考えていますが、それが正確ないし完全であることについて保証するものではありません。上記は、特定の金融商品の購入または売却の勧誘を意図したものではありませんし、特定の有価証券やその発行体への言及がなされている場合にも、それは説明の便宜のためであり、当該有価証券の売買を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。