DB年金の資産配分の変化
- オルタナティブ(代替資産)の増加幅が大きく、オルタナティブは引き続き魅力的な投資対象として見ていることが分かる
- オルタナティブ資産の内訳をみると、インフラや私募不動産投資信託(私募REIT)などといった低流動性のインカム系資産が今後の資産配分先として多く挙げられた。高いキャリーが期待できるプライベート・デットも増加し、引き続きインカムを重視した姿勢が鮮明となっている
- 日本銀行の金融政策の正常化の動きから国内債券の配分比率の減少が底打ちする兆し。前年比での増加は14年ぶり(同項目の調査を開始して以来初)
- 確定給付年金(DB年金)の約3割(21基金)が政策アセット・ミックスの見直しを行ったと回答し、これまでのリスク抑制だけでなく、ヘッジ外債への配分減も見られた。今般の金利環境の変化により新たな岐路に差し掛かっている可能性を示唆
図1:政策アセット・ミックスの推移
各年3月末時点。回答数は2010年:76、2011年:73、2012年:83、2013年:88、2014年:93、2015年:90、2016年:75、2017年:104、2018年:97、2019年:83、2020年:79、2021年:79、2022年:66、2023年:67、2024年:67
注:資産クラスの設定において、内外の区別がない「グローバル枠」を設定しているDB年金については、データの連続性の観点から「グローバル株式」は「外国株式」へ、「グローバル債券」は「外国債券」に割り振っている。ここ数年でグローバル枠を設定しているDB年金が増加しているため、過去データとの比較には十分な注意が必要。四捨五入の関係で合計が100%とならない場合がある。一般勘定とは、運用実績に関わらず、元本と一定利率が保証される保険商品の運用のことを指す。
今後の方向性
- DB年金は、日本で数十年ぶりの物価上昇が見られる中でも、まだ予定利率引き上げの議論の動きには至っていない
- 今後の資産配分の方向性については、全体の3割がオルタナティブを増やす方向と回答した。他の資産と比べ突出しており、ペースは落ちたものの引き続きオルタナティブへの選好は根強いようだ。また、外国債券については、為替ヘッジコストの高止まりと、日銀の金融政策の正常化を受け、配分を見直す動きが一部に出始めている。また円金利環境の好転により国内債券を増やすとの回答が急増、今後ポートフォリオにおける配分が増える可能性が高まった(図2参照)
- 日本が「金利のある世界」に17年ぶりに復帰する中、日本国債への投資が検討される転換点を迎えている。DB年金が配分増を検討するとした10年国債の利回りは1.25%、および1.5%以上を目線とした回答が増加。今後の利回りの上昇に伴いDB年金の検討はさらに進む可能性大。日本国債への投資検討が本格化したと捉えることができる
- オルタナティブ投資全体で見ると、幅広い戦略への配分増が続いており、特に実物不動産、インフラ投資など低流動性のインカム系資産がけん引役となっている。プライベート・エクイティについても増加させると回答する割合が高く、安定的な増加ペースが見られるプライベート・デットと並んで、オルタナティブ内での存在感が高まっている。伝統資産との分散効果が高いことがきっかけで始まるオルタナティブ投資も、その比率が上昇するにつれ、債券代替、そして株式代替としての役割が高くなっているようだ
図2:今後配分を増加/減少させると回答したDB年金の割合
注:オルタナティブの配分増加・新規投資は別軸で表示している点に注意。2022年はヒアリングを実施せず。
J.P.モルガンの企業年金運用動向調査について J.P.モルガン・アセット・マネジメントは、日本の確定給付型年金(DB年金)を中心に年金基金を対象として、過去2年間の運用状況の変化および方向性について継続的に聞き取り調査を行っています。2023年度の今回は16回目です。2023年度は合計80件の回答を得て、2024年7月にその結果を公表しました。
注意事項
|
用語説明
政策アセット・ミックス:年金基金等の機関投資家が決定し、定期的に見直される基本資産配分
低相関系資産:株式や債券などの伝統的資産との価格変動の相関性が低い、または低いことが期待される資産
インカム系資産:保有し続けることによって、利息や配当、賃料収入などのインカム収入が得られる資産
実物資産(リアル・アセット):不動産や船舶、航空機、インフラストラクチャー(社会的基盤施設)など
低流動性資産:日々売買可能な上場株や債券などとは異なり、購入や換金に一定の日数を要する資産
プライベート・アセット:プライベート・エクイティ(未公開株)やプライベート・デット(私募債やローン)、私募不動産投資信託(私募REIT)、実物資産など、公開市場で取引されない投資対象資産。一般的に流動性が低い