Man with surfboard

要旨

  • 12月の米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げは予想通りであったが、事前の想定よりタカ派であり、2025年の利下げ見通しの後退と、高いインフレ見通しを受けて市場は動揺した。政策当局者らは、次期政権の政策を踏まえてどう舵をとるべきかもがいているように見える。
  • トランプ次期大統領が着任後、すぐに関税、規制緩和、移民の分野でバイデン現政権下の政策からの大きな方向転換を決行したとしても、政策の実現には最低でも1年程度はかかる可能性があり、主な景気刺激策として期待される大型減税も他の政策と同様に時間を要するだろう。
  • インフレ率はFRBが目標とする2%に向けて軌道に乗っている中、労働市場は緩やかに減速している。しかし、経済成長が依然として堅調であるため、FRBは失業率がさらに上昇しない限り、新政権の政策方針が明確化するのを辛抱強く待つと考える。 
  • 当チームでは、トレンドを上回る成長とトレンドを下回る成長の確率は同程度(現在40%)と見ている。この背景には失業率が比較的低いことや、企業収益が健全であること、そして米国GDPが2024年第4四半期までトレンドを大きく上回ると予想されることなどが挙げられる。 
  • このような環境下、当チームは投資適格社債(特に金融セクターおよびエネルギーセクターのうちミッドストリーム企業)、ハイ・イールド債券およびバンクローン、証券化商品のほか、新興国債券市場のソブリン債、社債および一部の現地通貨建て債券を選好する。

FRBの25bpsの利下げ発表に続いて、経済見通しの発表(ドットプロット)と歯切れの悪い記者会見により市場の動揺を招いた翌日、当チームの12月の四半期投資戦略会議(IQ)はニューヨークで開催された。25bpsの利下げは市場の予想通りであったものの、2025年の利下げ見通しの後退と高いインフレ見通しによりFRBが想像以上にタカ派的だったことが示された。

そしてFRBのパウエル議長は記者会見で、連邦公開市場委員会(FOMC)の一部のメンバーがトランプ次期政権(トランプ2.0)の政策による影響を先行き予測に織り込んでいることを認めたことでさらに状況を悪化させた。これは、パウエル議長が11月のFOMC会合で伝えた「我々は推測や仮定をしない」という発言と大きく矛盾していたからである。

前日のこうしたFRBの発表により、IQでの論点が明確化した。当チームとしては現在のマクロ経済データとその方向性に焦点を置くべきだろうか?もしくは不確定事項が多くとも新政権による財政政策とそれらが与える将来への影響を議論すべきだろうか?

もちろん関税と移民政策の分野において、世界の他の地域もトランプ2.0の影響を受けるだろう。当チームにおいてもFOMCメンバーと同様に、財政政策の影響と今後の経済の見通しを分けて議論を進めることは不可能であったため、2点を合わせて議論を進めざるを得なかった。その上で、大統領令により実施できる政策と、議会を通過する必要がある政策を選別することに焦点を当てた。

議論が進むにつれ、経済と市場、いずれにおいても問題を抱えていることが明らかになった。資産価格が高騰し、経済が減速している現状を考慮すると、今後は金融政策と財政政策の両方でバランスを取ることはより難しくなるだろう。中途半端な政策を遂行したところで、市場も経済もその施策を支えきれない可能性が高いと考える。

マクロ経済の動向

9月のFOMC会合後、フェデラルファンド(FF)金利は順調に3%へ向かうように思われた。しかし、大統領選挙と議会での共和党の勝利(トリプルレッド)によって市場はFF金利予想を4%に再調整した。現在、市場は4.25%~4.5%の現行水準からの追加利下げが無い可能性に備えている。トランプ2.0のレトリックは、景気刺激策(減税)、関税、移民、規制緩和という4つの大規模な政策に集中している。特にTax Cut & Jobs Act(2017年税制改革法)と規制緩和の延長は経済成長を支える材料になると見込まれる一方、関税と移民政策は価格を押し上げ、労働市場のバランスを崩し、インフレを加速させることが懸念されている。

これらの政策の順序と規模は不透明であり、その影響をモデル化するのは難しい。さらに、共和党は、上院と下院で民主党よりもわずかに多くの議席を持つにとどまっているため、財政を悪化させる政策が議会を通過するかどうかも不明である。それでも、これらの政策は債券市場にとっても、FRBにとっても、利回り水準の見通しを検討するうえで非常に重要だと考える。

当チームでは、2025年末までは、景気刺激策の要である減税政策の延長と拡大が上院で議論されることはないだろうと考えている。具体的には、この政策案には現行法の延長や、チップや残業に対する税金の免除が含まれる。他にも、米国内で製造する企業の法人税率の引き下げや州および地方税(SALT)控除の閾値の引き上げなどが検討要素に含まれている。

新政権の初日から関税、規制緩和、移民のいずれかの政策の組み合わせが検討される可能性がある。しかし、これらの政策が実際に現実となるまでには1年程度はかかるように思われる。なぜならば政策実現には委員会が組織され、リサーチが行われ、提案が出されなければならないからだ。ところが、市場では2025年第1四半期に政策が実現されることが価格に織り込まれているように見える。

FRBは今後の財政政策を検討したのち、経済全体におけるその影響を推測しなければならないが、その間にも彼らは既存のデータに基づいて現行の政策を維持する必要がある。当チームでは、現在の金利が落ち着いた水準にあると見ており、さらなる利下げについては労働市場の動向に左右されるだろうと考えている。すでにFRBの2%インフレ目標達成へ向かっている指標の裏付けは十分にあるものの、労働市場では困難な点も見える。もし失業率が4.5%を超えた場合、FRBはさらに利下げをする可能性が高いだろう。しかしそうでなければ、FRBは辛抱強く新政権の掲げる財政政策の方針が明らかになるのを待つと見られる。

シナリオ見通し

当チームでは、トレンドを上回る成長の確率を20%から40%に引き上げ、トレンドを下回る成長(ソフトランディング)を60%から40%へとこれらが同程度になるように引き下げた。経済がソフトランディング達成へと歩みを進めるなかで、広範なインフレ指標はFRBの2%の目標を上回って停滞しており、失業率は歴史的に見ても依然として低く、米国の2024年第4四半期のGDPはトレンドを大きく上回ると予想されている。加えて、トランプ2.0の政策の実現から生まれる人々の飽くなき欲望が企業や家計の信頼を高め、支出を持続させる可能性があると考える。

また、景気後退危機の発生確率を10%と同程度に置いた(景気後退から危機に5%シフト)。高い実質金利、経済の減速、そして幅広い政策の一つ一つが実行されるかどうかが判明していないことは、不透明性を高める要因となるだろう。特に懸念されるのは貿易戦争やその他の地政学的リスクだと考える。また、中国やヨーロッパ全体での成長減速も懸念点として挙げられる。

リスク

現在の堅調な経済状況を踏まえた最大のリスクは、追加の景気刺激策が実現しても、蓋を開けてみると結果的には不必要な政策で、むしろインフレの再加速を引き起こすことである。すでに多くの資金が経済に流れており、さらなる刺激策が成長とインフレのショックを引き起こす場合、FRBが利上げサイクルに転じることは避けられないだろう。おそらくその展開が市場にとって最も大きなサプライズとなるだろうと考える。

その他のリスクには、攻撃的な関税政策に対する報復措置や労働市場を大きく混乱させる移民政策、議会における両党の議席数の差がわずかであるため掲げる政策が通りにくい可能性、株式市場の暴落によるスプレッドの拡大など政策実現の失敗によるものが挙げられる。

債券投資戦略への示唆

当チームは、バンクローン、ハイ・イールド社債、新興国債券市場など、リスクオン環境で堅調と考えられるセクターと市場を選好する。一方で、デュレーションとFRBに関する見解は中立的であった。社債については闊達な議論がされ、スプレッドは歴史的にもタイトな水準だが、当チームでは収益とEBITDAの成長見通しが依然として堅調であることも同時に評価した。特に銀行やエネルギーのミッドストリーム企業は投資適格社債の中でも強気に見ている。非投資適格については、ハイイールド社債の7%の利回りやバンクローンの8%~10%の利回りは、投資家にとって魅力的であると考える。

証券化商品についても引き続き魅力的だと考えている。フルタイム労働者の実質賃金が着実に伸び、消費者として証券化商品市場の安定に寄与している。また、戸建てや集合住宅からの賃料収入に関連した商品は、構造的な住宅不足から引き続き堅調であると予測する。

新興国債券もある程度の確信度を持って考えてよいだろう。新興国債券市場は何年も放置されているだけでなく、昨今は関税の脅威も徐々に押し迫っている。当チームではキャリーが獲得できる社債や、低格付けのソブリン、そして中央銀行がFRBとは独立して金利を引き下げている現地通貨建て債券を選好している。

まとめ

現時点で見込まれている政策案がすべて実現するとは限らず、政策実現のための課題は山積みだろう。その間、FRBは新政権による財政政策の動向を注視しながら、ソフトランディングを達成しなければならない。過去にも、FRBによるずさんなコミュニケーションが市場に混乱をもたらしたケースを十分見てきた。先行きが不透明な環境ではあるが、これまでの議論の通りポートフォリオに組み入れるべき利回りの高い債券は多く市場に存在すると考えている。