2025年は多くの懸念材料があるにもかかわらず、S&P500は史上最高値を何度も更新しました。不確実性が高い状況が続いていますが、好調な企業決算、財政刺激策、利下げといった要素がアメリカ株の魅力をサポートする可能性があります。しかし、バリュエーションが高い中で投資機会を見極めるには、銘柄を選別するアクティブ運用が有効と考えます。
追い風か、向かい風か?
2025年、アメリカ株の強さが際立ちました。アメリカを代表する株価指数のS&P500は、関税、地政学的緊張、景気減速などの懸念を回避し、複数回にわたって最高値を更新しました。年初から7月までの7ヵ月間でS&P500は7.8%上昇し、トランプ政権が大規模な関税を発表した「解放の日」以前のピークを超えました1。同じ期間で同指数は15回、史上最高値を記録しました。これは約10日に1回の割合(全取引日の10.4%)で高値を更新したことになり、高値を更新した15回のうち10回は7月に集中しました1。
市場がピークを迎える中、傍観していた投資家はチャンスを逃したことを後悔しているかもしれません。一方で、他の投資家はこの上昇が持続可能なのか、それとも大きな調整が待っているのか疑問に思うかもしれません。
高値づかみの恐怖とうまく付き合う
そもそも、史上最高値や市場のピークは、投資の最適なタイミングに関して有意義な情報を提供しない場合があります。下図の通り、史上最高値で投資する場合と、株価の水準に関わらずあらゆる日に投資する場合とを比較すると大きな違いはありません。
実際、過去のデータは、アメリカ株が最高値を更新している時に投資を避けるべきだという従来の考え方に疑問を投げかけています。長期的に見れば、史上最高値で投資することと他のタイミングで投資することに明確な有利や不利はないかもしれません。
さらに、過去最高値は市場のピークではなく、必ずしもその後に大きな調整が起こることを意味しません。言い換えれば、株価は高値を更新した後も上昇する可能性があります。下図の通り、1950年から2025年6月までの間、S&P500は全取引日の6.7%で史上最高値を記録し、そのうち29.2%のピークが新たな「市場の下値」となり、指数のその後の上昇の足掛かりとなりました。
これらの観察結果を総合すると、高値であるかどうかは投資を開始する最適なタイミングを示唆する完全なシグナルや指標ではないことがわかります。より一般的な言い方をすると、指数の水準だけでは、投資や資産配分の理想的なタイミングに関する有益な情報はあまり得られない可能性があります。そのため、企業業績やバリュエーションなど、市場のパフォーマンスに大きな影響を与える要因を評価することがより重要だと考えます。
業績は堅調だが、バリュエーションには選別が必要
これまでのところ、アメリカの企業の業績は比較的堅調です。S&P500構成企業で2025年第2四半期決算を発表した企業のうち81%が利益予想を、79%が売上予想を上回りました2。これは「解放の日」の関税発表後にコンセンサス予想が引き下げられた後の結果ですが、利益と売上のポジティブサプライズ(予想を上回る結果)の規模は過去10年の平均を上回っています2。
この傾向は今後も続くと予想されています。下図の通り、2025年のS&P500の1株当たり利益(EPS)の前年比成長率に関するコンセンサス予想は9.0%で、過去20年平均の7.6%を上回っています3。アナリストは2026年と2027年にも二桁成長を見込んでおり、利益の拡大によって指数内の上位10社と残り490社の格差が縮小すると予想されています4。さらに年初来のセクター別のパフォーマンスを見ると、物色の対象が超大型テクノロジー企業以外にも広がり、製造業、公益、金融などのセクターが大きな上昇を記録しています5(2025年7月31日時点)。
それでも、S&P500の株価収益率(PER)が過去15年のピークに近い水準にあるため6、アメリカ株式市場で魅力的なバリュエーションや割安な投資機会を見極めるには、アクティブ運用による銘柄選択が重要になると考えます。
グラスは半分満たされている
今後を見据えると、マクロ環境は依然として不透明です。現時点では、関税が経済や企業の業績に実際にどの程度影響を及ぼすかはまだ明らかではありません。人工知能(AI)への期待と関税への懸念の間で市場心理が揺れ動く中、ボラティリティは避けられないでしょう。バリュエーションが高いことは、許容できる余白が狭いことを意味し、政策リスクが顕在化したり、業績が期待を下回った場合には短期的な調整が起こる可能性があります。
それでも、長期投資家にとっては、いくつかの追い風要因を念頭に置くことが重要です。
- 第一に、「解放の日」以降、主要な貿易相手国との貿易協定が成立したことで、アメリカの貿易政策の不確実性は大きく緩和されました。完全に安心できる状況ではありませんが、最悪のシナリオは概ね回避され、最終的な関税率もより穏やかで管理可能な水準に落ち着きつつあり、他の関税交渉も継続中です。
- 第二に、ミクロの観点では、議会で「One Big Beautiful Bill Act(一つの大きな美しい法案)」(以下、OBBBA)が可決されたことで、税制優遇や規制緩和、ビジネス支援政策が利益を押し上げ、業績の上方修正につながる可能性があります7。マクロの観点では、この法案の効果が2026年に本格化することで、経済活動が緩やかに押し上げられる可能性があります8。これらの影響は、関税によるマイナス効果を部分的に相殺し、アメリカ株などのリスク資産をサポートする要因となるでしょう。
- 第三に、アメリカ経済の成長鈍化や労働市場の弱さは懸念材料ですが、米連邦準備制度理事会(FRB)による金融緩和政策の再開が一部の圧力を和らげる可能性があります。OBBBAによる緩やかな成長効果と財政刺激策、金融緩和の組み合わせにより、アメリカ経済は本格的な景気後退を回避できるかもしれません。ソフトランディングとFRBの金融緩和サイクルの再開は、アメリカ株全体にとってプラスの要因となり得ます。
- 第四に、特に国外収益の比率が高いアメリカ企業にとって2、米ドル安は業績の追い風となる可能性があります。
アクティブ運用の時代
最終的に、これらの追い風要因はすべてのセクターや企業に均等に影響するわけではありません。ボトムアップ型の銘柄選択によって、これらの追い風を受けられる、あるいは政策やマクロ経済の動きに耐性のあるセクターや企業への投資が重要となります。
さらに、これまでみられた市場の集中度の高まりやバリュエーションの上昇を踏まえると、バリュー投資とグロース投資のスタイルやセクター間での投資配分を見直し、リスクを分散させる必要があるでしょう。
セクター間やセクター内の銘柄間でパフォーマンスのばらつきが大きくなっている中、アクティブかつ選択的な投資アプローチによって、需要が堅調で利益率が健全、関税交渉終了後の環境に適応できる、業績面が良好かつ魅力的なバリュエーションの企業への投資機会を見いだせる可能性があります。