インデックス内での銘柄の集中や、まちまちなバリュエーション、そして地政学的リスク、関税問題、人工知能によってグローバル資本の潮流に変化がもたらされています。そのような環境の中、アメリカ株の運用においてダウンサイドリスクを考慮しながら、投資機会を追求し、持続的な投資成果の獲得を目指すために、アクティブ運用、銘柄選択の重要性が高まっています。
全体をひとくくりで見るだけでは細部を見逃す – アメリカの銘柄すべてが割高なわけではない
アメリカ株のバリュエーションは、世界の投資家にとって依然として一般的な懸念事項です。下のチャートが示すように、S&P500指数のバリュエーションは過去と比べて、他の地域と比較して高水準のように見えます。
2025年7月31日時点で、アメリカ株を代表するS&P500は予想株価収益率(PER)で約22倍となっており、過去15年間のレンジのピークに近い水準です¹。このバリュエーション指標は、ヨーロッパ、アジア太平洋(日本を除く)、日本、新興国などの他の地域の市場を上回っています。これらの市場のPER倍率も15年平均を上回っていますが、それぞれの15年ピークより大幅に低く、平均により近い水準にとどまっています。
S&P500のバリュエーションが上昇している一方で、構成銘柄間には大きなばらつきがあります。下のチャートが示すように、指数の上位10銘柄とその他の銘柄のバリュエーションには大きな乖離があります¹。S&P500構成銘柄の上位20パーセントと下位20パーセントの予想PERの差は16.8倍で、長期平均の11.7倍²を上回っています。
今後、銘柄間のバリュエーションの違いが拡大する可能性があります。
ごく一部の銘柄がマーケットをけん引してきた
それでも、S&P500指数のバリュエーションが高水準であることは驚くべきことではありません。2025年7月31日時点で、時価総額上位10社が指数全体の約40%、利益でみると全体の32%を占めています²。これは、わずか5年前には時価総額で29%、利益で20%だったことと比べると大きな変化です²。上位銘柄の比重が非常に大きいため、これらの超大型企業で業績の鈍化や一時的な停滞があれば、指数全体の動きに大きな影響を及ぼす可能性があります。
長年にわたり、アメリカ株式市場はイノベーション分野へと傾斜し、テクノロジーなどの成長セクターがS&P500内で存在感を高めてきています。2014年には、情報技術と通信サービスを含む広義のテクノロジーセクターは指数のわずか22%を占めていました³。10年後、この割合は42%に上昇しています³。さらに、アメリカの時価総額上位10社のうち7社はメガキャップのテクノロジー企業です⁴。その結果、時価総額加重型のS&P500は、時間の経過とともに成長株の要素が増えてきました。
このような市場の集中とスタイルの偏りは、アメリカ株のパッシブ運用、インデックス投資にリスクをもたらします。これは、株式ポートフォリオを意図的かつ積極的に分散し、超大型企業への集中を減らし、他のさまざまなセクターで質が高く魅力的なバリュエーションの投資機会を選別して追求する、アクティブ運用が重要であることを示しています。
金利環境の変化により、勝ち組と負け組の差が大きくなる
最近の市場環境を考慮すると、アクティブ運用の重要性はますます高まると考えています。世界での金融危機後の10年以上にわたり、歴史的に稀な低金利と量的緩和により、企業にとって異常に低い金利環境が生まれ、バリュエーションの歪みが生じました⁵。コロナショック以降は、金利環境の正常化と資本コストの上昇により、財務体質の脆弱な企業には課題となる可能性があります。
さらに、継続的な地政学的リスク、変化する貿易政策、進化するサプライチェーン、人工知能などの新技術により、不確実性が高まる可能性があります。大きな変革がセクターや企業に与える影響はさまざまで、株価が好調に推移する銘柄と低迷する銘柄が生まれる可能性があります。このような状況下では、ファンダメンタルズ重視のボトムアップ型アクティブ銘柄選択が、持続的な投資機会の発見や、さまざまなセクターにおいて銘柄ごとの違いを上手くとらえる上で有効なアプローチとなるでしょう。
また、S&P500指数は2024年12月31日までの過去10年間で年率13.1%のリターンを記録していますが³、これからの投資を検討する上で、足元のバリュエーションが高いことから、今後10年間の株式市場リターンはやや抑制される可能性があります。銘柄ごとのパフォーマンスが大きくばらつく不確実な市場では、アクティブ運用のアプローチが市場リターン(≒パッシブ運用のリターン)を上回る収益をもたらす可能性があり、ポートフォリオ全体のパフォーマンスの向上に貢献できるのではないかと考えます。