Asset Class Views

アセット・アロケーションの見方|2025年第1四半期

John Bilton, Jeff Geller, Gary Herbert, Jed Laskowitz, David Lebovitz, Yaz Romahi, Katy Thorneycroft
公開日: 2024/12/09

要旨

  • 当チームでは、前向きな成長見通しと米国資産を選好する姿勢をポートフォリオに反映している。
  • トランプ新政権下での経済政策は米国経済を下支えし、2025年における景気サイクルの延伸に繋がると見ている。関税による影響は対応可能な範囲に留まると見ており、FRB(連邦準備制度理事会)の利下げサイクルを妨げることはないと考える。
  • 米国経済の相対的な底堅さは続く見込みで、広範に良好な業績成長が見込まれる中、一部の超大型テクノロジー株以外にも収益機会が生まれると見ているほか、民間企業のバランスシートが健全であることから企業の財務面でのリスクは軽減されると考える。
  • 株式とクレジット資産を引き続きオーバーウェイトとし、デュレーションは概ね中立としている。
  • 欧州株式は引き続きアンダーウェイトとしているものの、緩やかなセンチメント(投資家心理)の改善が欧州圏の資産全般に追い風となる可能性はある。
  • クレジット・スプレッドはタイトである一方で、デフォルト率が低位であり、加えて最終利回りは依然として魅力的である。
  • 2025年にトランプ新政権による政策の規模や導入順序が徐々に明らかになる中で、市場では短期的に変動性(ボラティリティ)が高まる可能性があるものの、投資家は短期的な下落を買い場と捉えるだろう。

米国経済は底堅く、年初の想定を上回って2024年も米国株式は堅調に推移した。S&P500は年初来で時価総額ベースで11.4兆ドル増加し、この金額はユーロ圏、スイス、オーストラリアの時価総額の合計に相当する(2024年12月5日時点)。2024の上昇の半分はバリュエーションの拡大によるもので、残りの半分は強い企業業績の成長によるものだった。2025年も米国経済の相対的な底堅さは続く見込みで、広範に良好な業績成長を予想している。

経済と市場に対する楽観的な見方は、2年連続で堅調な経済成長やインフレの低下、株式市場の上昇に基づいており、主に4つの見通しによって支えられている。具体的には、1)トランプ新政権下での政策が経済成長を下支えし、景気サイクルの延伸や米国の相対的な底堅さ(米国1強)に繋がる、2)関税の影響は対応可能な範囲に留まり、FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げサイクルを妨げることはない、3)一部の超大型テクノロジー株式から中小型株式を含むより広範な銘柄で収益機会が見込まれる、4)民間企業のバランスシートが健全であることからリスクは軽減される、の4点が経済を下支えすると考えている。

2025年も米国の経済成長は依然として底堅く、GDP(国内総生産)成長率は2025年第4四半期までに緩やかに低下するものの、潜在成長率の2%付近を維持すると見ている。関税や政府債務の懸念を考慮しても、家賃やエネルギー価格が低下する中で、2025年末までにCPI(消費者物価指数)で約2.8%(PCEで2.5%)程度までインフレ減速を見込んでいる。この結果、インフレ減速に伴って、2025年半ばまでにフェデラル・ファンド金利(政策金利)を約4%に低下させることができるだろう。このポジティブな背景はリスク選好の傾向を示しているが、道のりにはまだ少し不透明感が残る。

トランプ次期大統領の経済政策は、米国経済にとって概ね支援材料となると予想している。しかし、具体的な政策が実施される順序が、今後2年間の成長の軌道を決定する可能性がある。規制緩和と減税の延長による財政刺激が企業心理を改善し、資本市場がより活発化し、経済成長や金融資産のリターンに繋がる可能性がある。しかし、移民や関税政策に重点が置かれると、労働供給や貿易に混乱をもたらし、経済成長を抑制し、市場に短期的なボラティリティ(変動性)をもたらす可能性がある。

この不確実性にもかかわらず、過去数年間続いた相対的に米国が底堅く推移する状況は今後も続くと見ている。底堅い米国経済はグローバル経済成長の追い風となるが、関税の影響は中国にとって深刻な問題だろう。さらに、欧州はフランスやドイツにおいて政治的混乱に直面しており、加えて欧州全体で複雑な規制が企業活動を抑制する可能性がある。

関税をはじめとした米国以外の経済が直面する問題は、市場では十分に織り込まれていると見ている。関税の影響を受けて中国の政策対応を強化したり、企業側からの圧力を受けて欧州で規制緩和が見られたりした場合には、これらの地域の資産が恩恵を受ける可能性がある。

当チームのポートフォリオは、前向きな成長見通しと米国資産を選好する姿勢を反映しているが、米国内外での分散投資の機会も同時に模索している。株式とクレジット資産をオーバーウェイトとし、デュレーションは概ね中立で、不動産における投資機会が増加していると見ている。また、ユーロをアンダーウェイトとしている。

株式の中では、米国が他市場をけん引する状況が続くと予想しているものの、市場では集中リスクに対する懸念は過度に織り込まれている可能性がある。というのも、当チームでは、2025年にはS&P500の上位6銘柄とその他の494銘柄の業績成長の差が縮小すると見ている。2024年においてはS&P500全体の業績成長の約40%を上位6社が占めていたが、その割合は2025年には22%に緩やかに低下し、2024年に3%程度であった残りの494銘柄の業績成長は13%程度まで跳ね上がると見ている。バリュエーションは若干割高な水準に見えるものの、引き続き米国株式をオーバーウェイトし、より広範なセクターや銘柄で企業利益の拡大を見込んでおり、中小型株式を選好している。

米国以外では、日本株式をオーバーウェイトとしており、当チームのクオンツモデルは魅力的な株式益利回り(株価に対する1株当たり利益(EPS: Earnings Per Share)の割合)やファンダメンタルズ面での収益性を魅力的と捉えている。中国の関税懸念にもかかわらず、香港株式も魅力的と見ている。一方で、政局不安や経済成長の弱さを踏まえて、欧州株式をアンダーウェイトしている。しかし、同株式については2025年2月のドイツ総選挙の結果によっては財政出動や規制緩和に繋がり2025年第2四半期以降の欧州株式にとって支援材料となる可能性がある。

米国のハイ・イールド資産のクレジット・スプレッドは9月以降50ベーシス(bps)以上縮小したが、最終利回りが約7%であり、最終利回りの観点でクレジットは魅力的と考えている。スプレッドのさらなる縮小の余地は限られているものの、企業のバランスシートの健全さや低位なデフォルト率、新規発行に対する強い需要が続いている状況などを踏まえ、クレジット資産を引き続き選好している。クレジット・スプレッドの縮小を受けて、クレジット資産以外への分散投資を検討している投資家にとっては、米国不動産が魅力的と見ている。

マルチ・アセット・ソリューションズ:主要な洞察と「ビッグ・アイディア」

今回のストラテジー・サミットにて詳細に議論された主要な洞察と「ビッグ・アイディア」は以下の通りとなっている。これらは、マルチ・アセット・ソリューションズのポートフォリオ・マネジャーとリサーチ・チームのコアの見方を反映したものであり、また、議論の土台となる共通認識となり当チームのアセット・アロケーションの議論において定期的に再検証されるものである。当チームでは、これらの「ビッグ・アイディア」を活用して、ポートフォリオのバイアスを確認し、また、全てのポートフォリオにこのアイディアが反映されていることを確認している。

  • 米国経済の景気サイクルは延伸され、潜在成長率並みか上回る水準を見込む一方、関税の影響が不透明で、グローバル経済はまだら模様を想定。
  • インフレは中銀目標を若干上回る水準で落ち着き、2025年上半期のFRBによる利下げペースは、データ次第。年央には利下げ停止見込み。
  • 米10年債利回りは取引レンジ内で推移し、デュレーションは中立。米国債対比で欧州国債を選好。
  • クレジット・スプレッドのタイト化余地は限定的だが、ハイ・イールド社債で7%程度の最終利回りや低位なデフォルト率は魅力的。
  • 広範に良好な業績成長が見込まれる中、米国大型・中小型株式や日本株式を選好する一方、欧州株式に対しては慎重。
  • リターンとインフレヘッジ双方の観点から米国不動産は魅力的。
  • 主なリスクとしては、割高なバリュエーションの調整やインフレ率の上昇、FRBのタカ派的な姿勢、関税を巡る貿易摩擦、労働市場の弱さ及び融資基準の急激な厳格化。

全体としてデュレーションには中立だが、米国や日本より相対的に欧州国債を選好している。米国と欧州の成長差は拡大し、2025年には欧州の金利が米国よりもさらに低下する可能性が高く、欧州のデュレーションの支援材料となるほか、ユーロの下押し圧力になると見ている。欧州では、経済成長の弱さが懸念される中、イタリア国債はキャリーの観点で魅力的と考えている。

全体として、当チームでは景気サイクルの延伸や米国の相対的な底堅さが継続することを念頭にポートフォリオを構築している。新政権の政策優先事項が2025年第1四半期に徐々に明らかになる中で、市場では短期的に変動性が高まる可能性があるものの、投資家は短期的な下落を買い場と捉えるだろう。2023年以降の2年間における潜在成長率を上回る米国の経済成長やS&P500の約60%の力強い上昇を経て、利益確定をしたい気持ちが生まれるかもしれない。しかし、当チームでは2025年も堅調に推移すると見ており、より広範なセクター、銘柄において収益機会があると考えている。

資産クラス見通し

資産クラス見通しは、6~12か月を目処に適用されるものである。上方修正()あるいは下方修正()は、前回のストラテジー・サミットからの見通しの変更を示している。当チームの各資産クラスについての見通しは、方向性と確信度を示しているものであり、実際のポートフォリオ構築とは独立している。

アンダーウェイト

中立

オーバーウェイト

資産クラス種別中立変化確信度説明
主要資産クラス株式株式 — OverweightNeutral潜在成長率並みの世界の経済成長が継続的な業績成長を支える見込み。ただし、バリュエーション面は利下げサイクルが進む中でも重石。
デュレーションデュレーション — NeutralNeutralNot applicable利下げサイクルが利回りの上昇を抑制するも、市場は堅調な経済成長に対し、将来の利下げを過度に織り込んでいる可能性。
クレジットクレジット — OverweightNeutralスプレッドがタイトな水準にもかかわらず、潜在成長率並みの経済成長と魅力的な最終利回りがクレジット資産の需要を下支え。
資産クラス選好度株式米国大型米国大型 — OverweightNeutral高クオリティで力強い業績ではあるが、テクノロジーを中心に割高感。集中度の高まりは見られるが、キャッシュフロー創出に裏付けされた側面も。
米国小型米国小型 — OverweightNot applicable景気後退リスクが限定的、見通しは改善しているが、高い資金調達コストを考慮し、低レバレッジで収益性の高い企業を選好。
欧州欧州 — UnderweightNeutral世界的な財消費サイクルの軟調と主要産業における在庫過剰が株価の重石。
日本日本 — OverweightNeutral益利回りと業績の改善が株価の追い風に。足元までの投資家売買データによると、年央までの「買われ過ぎ」が解消された可能性を示唆。
英国英国 — NeutralNeutralNot applicable魅力的なバリュエーションと高いフリーキャッシュフローが株価を支えている一方、ディフェンシブ色の強い市場特性が短期的には重石に。
オーストラリアオーストラリア — UnderweightNeutral業績見通しは他国・地域に劣後し、バリュエーションも割高。ベースメタルの需要の低迷が鉱業セクターに逆風。
カナダカナダ — NeutralNeutralNot applicable高金利の中で経済は底堅さを示している一方、企業景況感は軟調で、バリュエーション面の魅力も欠ける。
香港香港 — Overweight中国の経済活動は依然軟調で業績の重石に。しかし、割安感と投資家ポジショニング(買い)が株価の下支えとなっており、追加経済対策が見られれば更に追い風に。
新興国新興国 — Underweight業績見通しの下方修正が懸念され、投資家のフローも軟調。
債券米国債米国債 — Underweight米国政府の景気刺激策と規制緩和が経済成長につながり、米国債利回りの均衡的な水準を引き上げる可能性。
ドイツ国債ドイツ国債 — NeutralNeutralNot applicableECBが利下げを進めていく中で潜在的な魅力はある一方、既に国債利回りは低下。25年2月に独総選挙も控えており、ボラティリティ上昇のリスクも。
日本国債日本国債 — UnderweightNeutral2025年にかけて日銀の追加利上げが見込まれ、日本国債の利回りには上昇リスクが残る。
英国債英国債 — NeutralNot applicable英経済が軟調な中、イングランド銀行が住宅ローン金利の更なる上昇抑制のため利下げを行う可能性。
オーストラリア国債オーストラリア国債 — OverweightNeutralNot applicable主要債券市場の中で市場の利下げ織り込みが最も進んでおらず、ポジティブ・キャリーも魅力的。
カナダ国債カナダ国債 — NeutralNot applicable米国債と共に大きく利回りが低下し、米国債とのスプレッドはタイト。キャリー面の重石も続いてきたものの、徐々に見通しは改善。
イタリア国債イタリア国債 — OverweightNeutralECBの利下げが周縁国債を下支えする見込みだが、政治動向等を巡って短期的にボラティリティが上昇するリスクがある。
投資適格社債投資適格社債 — NeutralNot applicable健全な企業ファンダメンタルズと高クオリティのキャリーが下支え。国債に対しては引き続き魅力的だが、スプレッドはタイト。
ハイ・イールド社債ハイ・イールド社債 — OverweightNeutral景気後退リスクが限定的で、米国ハイ・イールド社債指数全体のクオリティ改善も支援材料。スプレッドはタイトな一方、最終利回りは魅力的。
新興国債券新興国債券 — NeutralNeutralNot applicable米ハイ・イールド社債に対し、新興国債券は脆弱なテールリスクを含んでおり妙味が劣る。
通貨米ドル米ドル — OverweightNeutralその他世界全体に対する米経済成長の優位性(米国1強)が拡大。FRBの利下げサイクルが下落要因となる一方、経済成長の差が下支えに。
ユーロユーロ — UnderweightNeutralユーロは、欧州経済の軟調に加え、ECBがより積極的な利下げ方針を示す可能性から下落の見込み。
日本円日本円 — NeutralNot applicable日銀は主要中央銀行の中で唯一利上げを行っているものの、緩やかなペースに留まる。中期的には、堅調な国内経済と共に円を下支え。
スイスフランスイスフラン — UnderweightNeutral為替介入が減少し、スイス国立銀行は明確な緩和路線を示している。スイスフランは主要通貨の中で最も低い利回りになる可能性。

出所:J.P.モルガン・アセット・マネジメント マルチ・アセット・ソリューションズ、2024年12月現在。上記は例示目的です。