Guide to the Marketsで解説!2026年の世界経済と米国経済の見通し
<要旨>
今年の主要国・地域の経済と企業業績の見通しは?
・日米欧中の景気後退確率は低く、潜在成長率並みかそれをやや上回る堅調な経済成長率が見込まれています。この背景には、米関税による悪影響が低減することへの期待、積極的な財政政策への期待、AI関連ビジネスの盛り上がりなどがあると考えられます。
・主要国・地域の企業景況感は軒並み好況を維持しており、企業業績見通しも上昇基調が続いているため、リスク性資産のファンダメンタルズは良好と言えます。
米国の労働市場の弱さは大丈夫?「AIの影響で解雇が急増中」は本当?
・足元の弱い雇用の伸びは、需要要因のみならず供給要因(→移民減少など)も影響している点が特徴です。少なくとも現時点では大規模な解雇は起きておらず、「低採用・低解雇」の状態が続いています。冷静にデータをみると、「AIに雇用が奪われている」という見方は誇張され過ぎているかもしれません。
・過去の歴史を振り返ると、「企業業績(特に利益率)の悪化→雇用や設備投資のカット→景気後退」というのが典型的な景気の悪化パターンです。米国企業の業績や利益率の見通しは足元で堅調なため、近い将来の解雇急増や景気後退入りのリスクに対する過度な懸念は不要かもしれません。
富裕層やAI頼みの「K字型経済1」で、今年の米国は不安定?
・米国の「K字型経済」は、所得階層別のカードの使用金額や、産業別の鉱工業生産などのデータで如実に表れています。
・ただし、「K字型の弱い方」(→中低所得層や非AI関連産業)は既に最悪期を脱しており、今後も中間選挙を睨んだ米政権の経済政策や米連邦準備制度理事会(FRB)の緩和的な金融政策によって支えられる可能性があります。
1 富裕層と貧困層の経済格差などの二極化が進んでいる状態を指す。
<本文>
今年の主要国・地域の経済と企業業績の見通しは?
下記の図表の【左上】で日米欧中の景気後退確率をみると、最も高い米国(灰色)でも30%、日本(青色)とユーロ圏(緑色)が20%台、中国(赤色)は10%台と低水準であるため、少なくとも現時点では、2026年内にこれらの主要国・地域が景気後退入りすることはメインシナリオとは考えられていません。
次に、【左下】で2026年の実質GDP成長率のエコノミストの予測値を確認すると、米国が2.1%、日本が0.8%、ユーロ圏が1.2%、中国が4.5%と、いずれも堅調な見通しとなっていることに加えて、黄緑色のダイヤマークで示した2025年9月末時点の予測値よりも強気の見方に修正されている点も好材料です。共通の追い風要因としては、①米関税の悪影響低減、②積極的な財政政策、③AI関連ビジネスの盛り上がり、などが挙げられるでしょう。
【右上】の総合PMI(購買担当者景気指数)と【右下】の予想1株利益(EPS、12ヵ月先)をみると、いずれも2025年前半はトランプ関税の影響で一時的に悪化したものの、2025年後半以降は堅調に推移していることが読み取れます。日米欧中の総合PMIはいずれも好不況の分かれ目である50を上回る水準を維持しており、日米欧と新興国の予想EPSの基調は右肩上がりです。
これらの点を踏まえると、リスク性資産のファンダメンタルズは良好と言えるでしょう。
Guide to the Markets 2026年1-3月期版で解説『世界のファンダメンタルズ:経済見通しと企業業績見通し』
米国の労働市場の弱さは大丈夫?「AIの影響で解雇が急増中」は本当?
下記の図表の【左上】で米国の非農業部門の雇用者数の伸びをみると、昨年は明確に悪化したことが分かります。通常は、ここまで雇用統計が弱いと景気後退を意識してしまいますが、現在の弱さは需要要因だけではなく移民減少などの供給要因も影響しています。【左下】は労働力の増減数を示していますが、緑色で示した米国外生まれの労働力は2025年に減少しています(→2025年1月末から2025年11月末までの増減数)。
また、【右上】の新規失業保険申請件数(4週移動平均値)をみても分かる通り、景気後退前に始まる解雇急増も生じていないため、過度な懸念には至っていません。
最近は一部の企業がAIを理由に人員削減を発表したことがメディアで大きく取り上げられていますが、データをきちんと確認すれば、その規模は限定的だということが分かります。 2025年の解雇や採用抑制の背景としては、トランプ米政権による政府の予算削減や関税、コロナ禍後の人員拡大の反動など、他の要因の方が明らかに大きいと考えられます。
仮にこれから解雇が急増し、雇用の伸びが過去の景気後退時のようにどんどんマイナス圏を深掘るようだと懸念は強まりますが、足元のコンセンサス予想はそのような見方に与していません。実際に【左上】の点線で雇用の伸びのエコノミストのコンセンサス予想(→四半期ベース、3ヵ月間の平均値)をみると、水準は低いものの年末にかけて改善していくことが見込まれています。
なお、このような見通しが妥当かどうかを判断する上では、【右下】の米国企業の利益率と雇用と設備投資の関係を見ると良いでしょう。過去の歴史から学ぶと、通常は企業の利益率が悪化してから暫くして、本格的なコスト削減の一環で雇用や設備投資がカットされる傾向にありましたが、足元の企業利益率は高水準を維持しているほか、今後の業績見通しも堅調であるため、解雇が急増する展開は現時点ではリスクシナリオという位置付けと言えるでしょう。
Guide to the Markets 2026年1-3月期版で解説『米国:労働市場』
富裕層やAI頼みの「K字型経済」で、今年の米国は不安定?
下記の図表の【左上】で示している所得階層別のChaseカードの使用金額をみると、「家計のK字型問題」が確認できます。具体的には、青色の「所得が25万米ドル超」の高所得層のカード使用額が順調に伸びている一方、緑色の「所得が7.5万ドル未満」の中低所得層の使用額は2023年1月時点を下回っていることが読み取れます。当該データは、高い賃金上昇率と株高などの資産効果の追い風がある高所得層と、賃金上昇率の明確な鈍化と住宅・食料・医療費の高騰に苦しんでいる中低所得層の格差を表していると言えるでしょう。
もっとも、【左下】で示している通り、米国では所得の上位20%が消費全体の約40%を占めるという構図があるため、米国の消費動向は、総合的にみれば底堅く推移していることは理解しておきたいところです。
次に、【右】のチャートで鉱工業生産の産業別の動向をみると、「企業のK字型問題」が分かります。AI・半導体ブームの恩恵を受ける半導体関連、通信機器関連、コンピュータ機器関連の生産は2023年以降に急拡大している一方、これら3つを除いたその他の生産は同期間でほとんど変化していないことが読み取れ、産業間でも明確な格差が生じていることが読み取れます。
足元では、富裕層やAI頼みの「K字型経済」を不安視する声が上がっているものの、次の2点などを考慮すれば、現時点では過度な懸念は不要かもしれません。
まず第1に、改めてデータをよくみれば、「K字型の弱い方」に改善の兆しが確認できます。というのも、【左上】の中低所得層(→灰色と緑色)の消費悪化傾向は実は2024年の夏で既に終わっており、それ以降は右肩上がりの基調になっているほか、右のAI・半導体関連以外の鉱工業生産(→黄緑色)も、2024年11月をボトムに最悪期を脱しつつあることが読み取れるからです。
第2に、中低所得層の消費動向やAI・半導体関連以外の生産活動の底打ち傾向は、今後のトランプ政権の経済政策やFRBの金融政策によって引き続き支えられる可能性がある点もおさえておきたいところです。
今後のトランプ政権の経済政策やFRBの金融政策が米国経済に与える影響については、次回のレポートで詳細に記載していますのでこちらも是非ご一読ください。