Guide to the Marketsで解説!2025年と2026年の日本株式の見通し 日本株式を巡る5つの疑問に答えます!
<要旨>
疑問➀:トランプ関税で企業業績はどうなる?
・TOPIXの予想1株利益(EPS)を見ると、トランプ関税の影響で4月以降に大きく切り下がった後、足元では持ち直し基調に転じています。なお、予想EPSの伸び率を見ると、2026年は2025年よりも加速する見込みになっています。
疑問②:日本株式は割高?
・足元の株価は「絶対評価」で見れば過去対比で割高感がありますが、「相対評価」で見れば依然割安感があります。世界の中心である米国株式の堅調さが崩れない限り、「絶対評価で見た日本株式の割高感」は日本株式を買わない理由にはなりにくいかもしれません。
疑問③:構造要因で長期株高が実現する?
・日本の株価が「冴えない実質GDP」ではなく「力強い名目GDP」と連動している結果、個人投資家の間では、「インフレは名目値である企業利益を押し上げるから株式に投資」という見方も根付きつつあります。
・「インフレで預金が目減りする」という問題意識は個人投資家だけでなく企業にも当てはまるため、インフレ定着は企業の現金活用などコーポレートガバナンス改革の加速にも繋がります。一方で、同改革による成長投資や高い競争力をもつ事業への集中はインフレ定着に寄与します。
・したがって、今後については、脱デフレとコーポレートガバナンス改革の「相乗効果」による長期株高が期待できるかもしれません。
疑問④:高市新政権の財政政策で日本株式はどうなる?
・高市新総裁・首相の誕生により、米独中に遅れてようやく日本株式市場にも「財政刺激期待による株高」が到来しました。「行き過ぎた財政規律の緩み」は債券・通貨・株式のトリプル安を招きますが、現時点では「適度な財政拡大」に止まるとの見方が優勢です。
疑問⑤:日銀の利上げと為替が日本株式へ与える影響は?
・足元は昨夏の「令和のブラックマンデー」が再来するような市場・政治環境ではないため、日銀の追加利上げでも大幅な円高と株安が生じるリスクは限定的と見ています。
<本文>
疑問➀:トランプ関税で企業業績はどうなる?
下記の図表の【左】は、TOPIXの予想1株利益(EPS)の推移を示しています。
【緑色】の2025年(暦年ベース)・【紫色】の2026年(暦年ベース)・【赤色】の12ヵ月先の全てが、トランプ関税の影響で2025年4月以降に大きく切り下がった後、足元では持ち直し基調に転じていることが分かります。回復の背景としては、①日米関税交渉の妥結や世界的な不透明感低下によって「国内も海外も景気は崩れない」との安心感が広がってきたことや、②「内需系・外需系ともに、多くの企業が価格転嫁による値上げやサプライチェーンの見直しなどに取り組むことで、利益を押し上げることが可能」との見方が強まってきたことなどが挙げられます。なお、【左】内の棒グラフで示している予想EPSの伸び(前年比)を見ると、【紫色】の2026年は【緑色】の2025年よりも加速する見込みであり、この点も、常に先読みをする株式投資家の強気姿勢に繋がっている可能性があります。
疑問②:日本株式は割高?
【右】は、TOPIXの予想株価収益率(PER)と米国株式との相対バリュエーションを示しています。
上記の通り、予想EPSが持ち直してきてはいるものの、株価はそれ以上に大きく上昇してきた結果、足元のTOPIXの予想PERは過去平均を上回る水準に達しています。ただし、海外の投資家からすると「日本株式の割高感が際立っている」という状況ではありません。実際に、右下で世界の中心である米国株式と日本株式の相対バリュエーションを見てみると、むしろ足元の日本株式は相対的な割安感が強いことが確認できます。こういった材料もあり、最近の海外投資家は過去平均を上回るTOPIXの予想PER(=絶対的な割高感)をあまり気にせず、日本株式を買っているのでしょう。
Guide to the Markets 2025年10-12月期版で解説『日本株式:企業業績見通しとバリュエーション』
疑問③:構造要因で長期株高が実現する?
下記の図表の【左】は、名目・実質GDPと日本株式について示しています。
過去30年の日本の株価(TOPIX)とGDPの関係を見ると、日本株式にとって重要なのは、【オレンジ色】の実質GDPではなく【青色】の名目GDPであることがよく分かります。例えば、(1)1995年から2007年頃を見ると、実質GDPが右肩上がりでも、デフレ型・コストカット型経済に悩まされ、名目GDPと株価はどちらもレンジ推移となっていました。(2)一方、2023年以降を見ると、株価は「緩やかな伸びに止まる実質GDP」ではなく「インフレが定着する中で大きく伸びた名目GDP」に連動して力強く上昇しています。
以上の歴史を踏まえれば、今後の株価動向を占う上では、実質GDPではなく名目GDPの見通しに注目すべきでしょう。そこでマーカーで示しているIMFによる日本のGDP予測値を見てみると、今後もインフレが定着するとの見方が反映されている結果、実質GDPと比べて名目GDPの見通しのほうが線グラフの傾きが明らかに大きくなっています。上記の通り、TOPIXは後者の名目GDPに追随する傾向があると考えられるため、今後の株価の長期トレンド線は過去のデフレ期よりもはるかに魅力的な形状になることが期待できるかもしれません。
【右上】は、ネットキャッシュ(現預金 – 負債)がプラスの企業の割合を示していますが、これまでのデフレ時代の名残もあってか、日本企業は海外と比べてネットキャッシュがプラスの割合が高いことが分かります。
しかし、個人投資家向けに使われることが多い「インフレで預金が目減りする」というフレーズは、当然ながら企業にも当てはまるため、今後もインフレが定着するのであれば、企業はより一層自主的に現預金の有効活用(成長投資や自社株買いなど)を検討するかもしれません。つまり、脱デフレは日本企業の更なるコーポレートガバナンス改革の進展を促し、自己資本利益率(ROE)や株価純資産倍率(PBR)の向上にも繋がる可能性を秘めていると言えるでしょう。
コーポレートガバナンス・コードなどによる投資家からの圧力によって、これまで以上に企業が現預金の有効活用を迫られ、「成長投資」や「競争力が高く値上げもしやすい事業モデルの構築」などに注力すれば、より一層賃上げやインフレが定着しやすくなるでしょう。
以上の点を踏まえれば、脱デフレとコーポレートガバナンス改革には「相乗効果」があると言っても過言ではありません。
Guide to the Markets 2025年10-12月期版で解説『日本株式:脱デフレとコーポレートガバナンス改革』
疑問④:高市新政権の財政政策で日本株式はどうなる?
高市新総裁・首相の誕生により、株式市場参加者の間では積極財政への期待が高まりました。高市氏の主張を見ると、減税(→例:「年収の壁」の引き上げ)、産業政策(→例:経済安保関連への投資)、防衛強化など、財政拡張的なメニューが並んでおり、今後は以前よりも財政規律が緩むことが想定されます。
金融市場では、財政規律の緩和を好感する向きだけではなく、「財政悪化→金利上昇→株安」となる展開を警戒する向きもあります。たしかに、政府債務残高(及び高市氏が重視する「純」債務残高)のGDP比などでみた日本の財政状況は他国よりも深刻であり、今後は「金利ある世界」になる中で政府の利払い負担増なども警戒されるため、「過度な財政拡張」は避けるべきでしょう。とはいえ、(1)ここ数年間で日本の財政収支が際立って改善してきたことや、(2)今後の高市氏の財政拡張が「タガが外れたような中身」にはならない可能性を踏まえれば、国内及び海外の株式投資家は「日本売り」のリスクをさほど懸念しないと見ています。
まず(1)に関しては、下記の図表の【左】で示している日米独中の財政収支(対GDP比)を見ると、過去数年間は【青色】の日本の財政収支が明らかに他国と比べて改善してきたことが読み取れます(→裏を返せば、「財政刺激による株高」というカタリストが他国にはあって日本株式には欠けていました)。また(2)についても、自民党内の人事を見る限り、財政規律派が要職を一定程度占めていることなどを踏まえれば、格付けの悪化を招くような「過度な財政拡張」にはならない可能性があると見ています。
疑問⑤:日銀の利上げと為替が日本株式へ与える影響は?
足元では、「高市新総裁・首相誕生後でも日銀の追加利上げ凍結とはならない」との見方が大勢ですが、一部の海外投資家は「日銀の追加利上げ」と聞くと、未だに昨夏の利上げ後の円急騰と「令和のブラックマンデー1」を思い出し、日本株式への投資に慎重になるようです。
しかし、(1)【右上】で示している通り、実質政策金利は依然としてかなり低い、(2)【右下】で示している通り、足元の投機筋の円ポジションは昨夏のような大幅売り越し(=円高のマグマがたまっている状況)ではない、(3)「令和のブラックマンデー」がトラウマになっている日銀は株式市場への配慮姿勢を強めている(→今年の9月には100年超の時間をかけてETFを売却する方針を発表)、などの材料を踏まえれば、今後の利上げが「強烈な円高と日本株安の再来」を招くリスクは、現時点では低いように思われます。
1 日銀の追加利上げや米国の景気懸念、円相場の急伸などを背景として、2024年8月5日に日本株式市場が急落したことを指す。