Guide to the Marketsで解説!2025年と2026年の日米欧の金融政策の見通しは?
<要旨>
- 米連邦準備制度理事会(FRB):年内はFRBも市場も2回の利下げ見通しで一致していますが、来年はFRBの1回に対して、市場は2~3回程度の利下げを見込んでいます。この差は、経済・物価見通しの違いから生じているというより、市場が「FRBのハト派化」を想定していることの表れかもしれません。
- 欧州中央銀行(ECB):追加利下げ派と利下げサイクル終了派が存在しますが、3ヵ月前と比べて足元では後者が優勢になっています。
- 日銀:高市新総裁/首相の誕生で、2025年10月の利上げ観測が後退しました。現在は、2025年12月や2026年1月の利上げが有力視されています。一方で、投資家は、次回の利上げタイミングよりも「ターミナルレート(金融引き締めサイクルにおける最終的な政策金利水準)=1%」との見方が崩れ始めている点に注目すべきかもしれません。
Guide to the Markets 2025年10-12月期版で解説『日米欧の金融政策とその見通し』
上記の図表は、日米欧の金融政策とその見通しについて示しています。
FRBの金融政策の見通し
【オレンジ色】のマーカーで示した、米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者の政策金利見通し(ドットチャート)を見ると、中央値ベースでは年内2回と来年1回の追加利下げが見込まれています。一方、金融市場の織り込みを見ると、執筆時点(2025年10月27日午後時点)では、年内約2回と来年約2~3回の追加利下げが予想されており、来年はFOMCメンバーよりも多くの利下げを見込んでいます。市場参加者が来年の経済及び労働市場の悪化をさほど懸念しておらず、来年のインフレ圧力を軽視しているわけでもないのにFRBより多くの利下げを見込んでいるのは、「トランプ政権の圧力で来年はFRBがハト派化する結果、必要以上の利下げが実施される可能性が高い」と考えているためかもしれません。
それでは、FRBは来年どこまでハト派化するかについて考えてみましょう。来年5月のパウエルFRB議長の退任を控え、トランプ政権が次期FRB議長の選定を進める中、市場では最終的に誰が新FRB議長になるとしても、大幅利下げを要求するトランプ大統領の指名を受けることから、パウエルFRB議長よりハト派化するとの見方が一般的です。しかし、来年のFRBの金融政策が「過度にハト派的」になるリスクはそこまで大きくないかもしれません。というのも、トランプ大統領が「合議制のFOMC」を強く支配して過激な金融緩和を実現するためにはハト派の新FRB議長を送り込むだけでは不十分で、来年2月の地区連銀総裁全員の任期更新時に、過半数のFRB理事がタカ派の地区連銀総裁を再任しないよう仕向けることも重要になりますが、現時点ではこの実現性がさほど高くないように思われるためです。
ただし、「過度ではなく適度なハト派化」の方が、結果的に金融市場にとって望ましいでしょう。仮にFRBが行き過ぎた金融緩和を実施すると、インフレ期待や長期金利の急上昇を招き、それが株式市場のショックに繋がるリスクを高めてしまうためです。
欧州中央銀行(ECB)の金融政策の見通し
ECB内は追加利下げ派(→ユーロ高や関税の悪影響を懸念)と利下げサイクル終了派(→企業景況感の回復、ドイツなどの財政拡大、将来の利下げ余地確保を重視)に分かれているようですが、執筆時点(2025年10月27日午後時点)では後者が優勢です。OIS(=Overnight Index Swap、翌日物金利スワップ)市場の織り込みを見ると、年内は0.1回未満の利下げ、来年半ばまでで見ても0.5回未満の利下げしか予想されていません。
日銀の金融政策の見通し
日銀の次回の利上げ時期については、 ➀底堅い国内経済や高止まりするインフレ、②日米通商交渉決着による「業績大幅悪化→賃上げ機運減退」のリスク低下、③2025年9月の日銀会合での2名の審議委員の利上げ提案などを背景に、一時は2025年10月が有力視されていました。しかし、緩和的な金融政策を望む高市氏が自民党総裁選と首相指名選挙に勝利したことをきっかけに、市場は12月や来年1月に利上げが後ズレするとの見方にシフトしました。ただし、投資家にとって本質的に重要なのは、次回の利上げタイミングではなくターミナルレートの織り込みが3ヵ月前から上昇して1%超になっている点かもしれません。これまでは、日銀が試算する名目中立金利(→実質中立金利の試算値+日銀が掲げるインフレ目標の2%)の下限とされてきた1%をターミナルレートと仮置きする予想が多かったですが、追加利上げを重ねていよいよその水準が近づいてくるにつれ、徐々にターミナルレートの見通しが切り上がる局面に移行した可能性があります。今後は、植田総裁や高市氏から市場のターミナルレート見通しに修正を迫るような発言が飛び出すかどうかが注目点の一つです。