Guide to the Marketsで解説!2025年と2026年の世界経済と米国の物価見通しは?
<要旨>
世界経済の見通し
- 債券市場の声を聴いてもエコノミストの声を聴いても、「米国の景気後退が近づいている」という切迫感はほとんど感じられません。
- 米国の経済成長率見通しは2025年も2026年も上方修正の基調が続いており、日欧中の見通しも底堅いものになっています。
米国の物価見通し
- トランプ関税によるインフレ圧力は、現時点では恐れられていたほどではありませんが、想定よりも長引くリスクが意識されている点には注意が必要です。とはいえ、2021年~2023年のような米国の大インフレ期と比べれば「かわいいもの」との見方は変わりません。
- 米連邦準備制度理事会(FRB)が米関税によるインフレ加速を過度に懸念せず金融緩和を続けられるかどうかは、中長期のインフレ期待次第でしょう。現時点では、中長期のインフレ期待は引き続き抑制されています。
Guide to the Markets 2025年10-12月期版で解説『主要国・地域の実質GDP成長率見通しと景気後退確率』
世界経済の見通し
上記の図表の【左上】は、米国の景気後退の予兆を感知する「炭鉱のカナリア」とされる米国ハイ・イールド債券の信用スプレッドの推移を示しています。また、【左下】はエコノミストが予想する「向こう1年間で景気後退に陥る確率」を示しています。2025年4月の米相互関税発表直後は、信用スプレッドが幾分上昇したほか、米国の景気後退確率も年初の20%から40%まで上昇しました。しかしその後は、夏場の「ミニ米雇用統計ショック」などがあったにも関わらず、米国の景気後退懸念は低下しています。足元の信用スプレッドは2%台で(過去と比べた格付け分布の改善などを差し引いても)歴史的な低水準で推移しており、景気後退確率も40%から33%まで低下しています。
【右上】は、各国・地域の実質GDP成長率(前年比)のエコノミスト予想集計値(中央値)を示しています。2025年と2026年の値を確認すると、いずれもトランプ関税などの悪影響を感じさせないような底堅さが見込まれています。なお、【右下】で示している通り、2025年と2026年の米国の実質GDP成長率のエコノミスト予想集計値(中央値)は、どちらも2025年5月以降上方修正が続いています。2025年の予想値の上方修正に関しては、関税の悪影響が想定ほど出てきていない点や強い投資が継続している点(→AI関連など)、一時的に冴えなかった個人消費が持ち直している点(→特に高所得層)などが反映されており、2026年の予想値については米政権の財政政策や規制緩和、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げなどへの期待を反映して見通しが切り上がっている可能性があります。
Guide to the Markets 2025年10-12月期版で解説『米国:インフレ率と長期の期待インフレ率』
米国の物価見通し
上記の図表の【左】は、米国の消費者物価指数(CPI)の寄与度の内訳(前年比)と今後の見通しを示しています。足元のCPIの寄与度の内訳を見ると、【オレンジ色】のコア財価格は米関税などの影響を受けて上昇しており、CPIも加速基調ですが、事前に恐れられていたほどではありません。ただし、「企業の価格転嫁は遅れてじわじわ出てくる」との見方などが反映されてか、CPIのピークアウト時期が後ズレするとの見方が強まっている点には注意が必要でしょう(→3ヵ月前の6月時点では2025年の第4四半期がピークと考えられていましたが、直近の9月時点では2026年の第2四半期がピークとの見方に変わっています)。とはいえ、ピーク時のインフレ率の予想値は依然として3%強にとどまっており、2021年半ばから2023年初頭にかけて米国が経験した5~9%の大インフレ期とはずいぶん距離がある点は改めておさえておきたいところです。
足元では、米関税によるインフレが当面続くと考えられている中でもFRBの利下げは継続可能かどうかが注目されています。この点については、「中長期のインフレ期待がしっかり抑制されているかを注視」というFRBのスタンスが引き続きポイントになると考えています。そこで、【右下】で示したインフレ期待のデータを確認してみると、米ミシガン大学の消費者のインフレ期待(5-10年先)は鈍化基調にあり、米ニューヨーク連銀の消費者のインフレ期待(5年先)も3%弱で変わらずしっかりアンカーされています。これらのデータを考慮すると、少なくとも現時点では米関税によるインフレ加速は「一時的」と考えられるため、今後の米労働市場の動向次第で必要に応じてFRBは追加利下げを検討できる状況にあると言えるでしょう。