Guide to the Marketsで解説!今の日本で株主になることの重要性
<要旨>
- 足元では、賃金や預金が物価高で目減りし、労働者や預金者が不利な状況の中、当期純利益(=株主のもの)は底堅く推移しています。企業の粗付加価値に占める人件費(=労働分配率)と当期純利益(=株主の取り分)の割合を見ても、前者が低下傾向の一方、後者は上昇傾向です。
- 物価上昇が続き「株主になることの重要性」が増す中、日本株式の保有比率を見ると、外国人がトップに躍り出ている中、日本の家計は相変わらず現預金に偏重しています。
- 各種データは、「貯蓄から投資へ」の重要性を改めて痛感させるものになっています。
Guide to the Markets 2025年7-9月期版で解説『米国:景気後退期の債券のリターン』
【左】は、デフレ期とデフレ脱却期の人件費と預金と企業利益を示しています。【灰色】の2000年度から2012年度のデフレ期は、物価が下がる中で企業利益を回復させるために人件費が削られ、労働者にとって厳しい時代でした。とはいえ預金者という立場からすれば、「低水準だがプラスの預金金利>マイナスの物価上昇率」の状況が続いていたため、デフレ期は「働いて稼いだお金を預金に置いておく」という行動に一定の合理性がありました。
一方、【緑色】の2013年度から2023年度のデフレ脱却期は、労働者と預金者が不利な状況が鮮明です。当該期間では、消費者物価が13.8%上昇する中で人件費は12.6%上昇し、直近では実質賃金がマイナスで推移しているため、労働者は不利な状況に置かれています。また、2013年度に置いた預金は、2023年度時点でたった0.1%(普通預金の場合)~0.2%(定期預金の場合)しか増えていないため、同期間の13.8%の物価高を考慮すれば目減りしている(=預金者が損をしてきた)ことが示されています。上記の通り、デフレ脱却期に入ってからは労働者や預金者が報われてこなかった一方、当期純利益(=株主の取り分)でみた企業利益は同期間に237.5%も上昇していました。
この「株主に有利な構図の進行」は、【右上】が示している通り、日本企業が生みだした粗付加価値に占める人件費と当期純利益の割合の変遷をみてもよく分かります。過去20年超は、【青色】の人件費の割合(=労働分配率)が下落傾向である一方、【オレンジ色】の当期純利益の割合は上昇傾向となっていました。つまり、割合でみた場合の労働者の取り分が減少した一方で株主の取り分は増加しました。
以上の点を踏まえれば、足元の日本の経済環境下では労働者や預金者として生活しているだけでは不利になる可能性があり、株主になることの重要性が増していると考えられます。しかし、【右下】が示している日本企業の株式保有状況を見ると、主に上昇しているのは【緑色】の外国人の保有比率であり、【青色】などに含まれる日本の家計は日本企業の利益拡大の恩恵を十分に受けることができていません。
Guide to the Markets 2025年7-9月期版で解説『各国・地域の家計の資産配分』
上記図表の【左】は、各国・地域の家計の金融資産構成を示しています。米国やユーロ圏と比べて、日本では【灰色】の現金・預金の割合が51%と依然として高く、【緑色】の株式や【青色】の投資信託などの割合が低いことがわかります。
【右】は、日本の家計の資産構成について金額ベースで推移をみています。足元で家計の金融資産は2,200兆円弱に達しています。2000年度以降では、【青色】の投資信託や【緑色】の株式の伸びが相対的に大きく、家計のリスクを取る姿勢などが高まっているように見受けられますが、それでも足元の現金・預金の金額である1,120兆円には遠く及んでいません。
当レポートで確認してきた各種データは、「貯蓄から投資へ」の重要性を改めて痛感させるものになっています。