Guide to the Marketsで解説!“景気後退に備える投資戦略”と“株式と債券の同時安に備える投資戦略”
<要旨>
「景気後退に備える投資戦略」
- 近い将来の米国の景気後退入りは現時点のメインシナリオではないと考えていますが、貿易摩擦前よりもそのリスクが高まったのも確かです。
- 今後の米国の経済動向を悲観的に見ている投資家は、過去50年間における全ての景気後退期をプラスのリターンで乗り切った、信用力の高い米国債券への投資を検討するのが一案です。
「株式と債券の同時安に備える投資戦略」
- 2022年には米国の景気後退は訪れませんでしたが、「株安と債券安のダブルパンチ」が生じました。
- 2022年の再来は我々が考えるメインシナリオではありませんが、地政学イベントによるインフレや関税インフレによる「株安と債券安のダブルパンチ発生」に備えたい投資家は、「オルタナティブ資産を追加した味付け分散」を検討するのも一案です。
近い将来の米国の景気後退入りは現時点のメインシナリオではないと考えています。しかし、世界のエコノミストが見積もる「米国が今後12ヵ月で景気後退に陥る確率」は今年年初時点の20%から足元で37.5%まで上昇していることも確かです(→詳細は先日公表したレポートを参照)。また、足元では米国の労働市場の冷え込みもやや懸念されています。以上の点を踏まえれば、マジョリティーではないかもしれませんが、米国の景気後退に対応できる投資戦略を考えておきたいという投資家も一定程度いるでしょう。そのため、以下では過去の米国の景気後退期に堅調だった資産をみてみましょう。
Guide to the Markets 2025年7-9月期版で解説『米国:景気後退期の債券のリターン』
上記の図表は、米国の景気後退期の債券のトータルリターン(利息を含む、米ドル・ベース)とインフレ率と政策金利を示しています。
過去50年超の歴史の中で米国は7回の景気後退を経験しましたが、その全ての景気後退期においてプラスのリターンを確保したのは米国債券(投資適格)でした。ここで特筆すべき点は、1970年代の第1次オイルショックや第2次オイルショックによって生じた「10%超の大インフレを伴う景気後退期(=スタグフレーション期)」においても、【緑色】の米国債券(投資適格)のトータルリターンはプラスになっていたということでしょう。当時の米連邦準備制度理事会(FRB)は、「大インフレを抑制するために利上げが必要な一方、景気後退に対応するためには利下げが必要」というジレンマに悩まされていたと思われますが、結局は利下げを実施し、結果的に米国債券(投資適格)は堅調に推移していました。「結局FRBは、(たとえ大インフレが起きていても)景気後退期には利下げする」という過去の経験則を踏まえれば、米国国債などは今後の景気後退への備えとして有望な資産の1つと考えられます。
Guide to the Markets 2025年7-9月期版で解説『株式と債券の分散ポートフォリオとオルタナティブ資産』
上記図表の【左】は、1991年以降の米国のインフレ率と世界株式・世界投資適格債券のポートフォリオの年次リターンの内訳を示しています。
【紺色】の世界株式の寄与度と【黄緑色】の世界投資適格債券の寄与度をみると、両方が同時にマイナスとなった年は2022年しかありません。つまり、2022年を除いて、世界株式のリターンがマイナスになった年には世界投資適格債券のリターンがプラスになっており、債券が株安時のヘッジになっていた(逆も然りで株式が債券安のヘッジになっていた年もあり、株式と債券の分散効果が機能していた)と言えるでしょう。2022年は米国の大インフレと米連邦準備制度理事会(FRB)による急速な金融引き締めなどが原因で「株安と債券安のダブルパンチ」が発生しましたが、このような厳しい投資環境は滅多に生じないという点はおさえておきたいところでしょう。今後についても、地政学イベントがもたらす資源価格の高騰や関税強化によるインフレには注意が必要ではあるものの、現時点では2022年に経験したような8%台の大インフレが再来するとはみていません。
とはいえ、一部の投資家の間では2022年のトラウマが残っており、インフレに対応できる分散投資へのニーズが根強いのも事実でしょう。したがって、2022年のような「景気後退を伴わない大インフレ」下での「株安と債券安のダブルパンチ」に備える投資戦略について考えてみましょう。一案として考えられるのは、2022年の厳しい局面を乗り切った資産をポートフォリオに追加することでしょう。【右】はオルタナティブ資産の2022年のリターンと株式・債券との相関係数を示していますが、2022年当時は世界株式・世界投資適格債券のどちらとも相関が低い実物資産(→例:森林や輸送資産、グローバル・コア・インフラなど)やヘッジファンドのマクロ戦略などがプラスのリターンを確保していました。したがって、「トランプ米政権の関税政策等が、2022年のような景気減速(景気後退ではない)と“強烈な”物価高を再びもたらす」というリスクを本格的に警戒している場合は、これらのオルタナティブ資産への投資を検討するのが一つの選択肢です。