Guide to the Marketsで解説!2025年後半の米株の見通しは?
<要旨>
- トランプ米政権は、来年の米中間選挙を見据え、減税に続いて規制緩和などの「正の政策」によって経済を支えようとするでしょう。ただし、関税などの「負の政策」が完全に無くなるわけではないとみています。
- 上記のトランプ政権の政策スタンスに加えて、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げという追い風も吹くとの見通しに基づけば、2025年後半は基調としては米国の株価の持ち直しが続くとみるものの、「一本調子の株高」というよりは「短期調整を挟みながらの株高」になる可能性があると考えています。
Guide to the Markets 2025年7-9月期版で解説『米国株式:大統領支持率と「トランプ・プット」と「FRBプット」』
上記図表の【左上】は、トランプ米大統領の支持率を示しています。2025年1月の政権発足後から4月上旬までは、トランプ米政権による関税強化を筆頭に強烈な「負の政策」が先行しましたが、その後の市場混乱をきっかけに同政権は関税引き下げという「負の政策の“緩和”」に転換しました。この転換をきっかけに米国株式市場は力強く持ち直し、トランプ大統領の支持率も底を打ちました。しかし後者の支持率に関しては、政権発足当初の52%→4月の45%→足元47%と持ち直しが弱い状況です。来年の米中間選挙を見据えれば、支持率のテコ入れが必要になるため、これからトランプ政権は減税に続けて規制緩和などの「正の政策」によって経済を支えようとするとみています。もっとも、トランプ大統領の岩盤支持層のMAGA1派が支持する関税強化・移民抑制などの「負の政策」が完全に無くなるわけではなく、「正の政策の効果>負の政策の効果」となるよう、上手くコントロールしながら政権運営を行うというイメージをもっておくべきでしょう。
1 Make America Great Again(=米国を再び偉大な国に)の略。トランプ大統領の選挙スローガンであり、現在ではトランプ大統領の熱心な支持者をMAGA派などと呼んだりする。
今後は上記のトランプ政権の米中間選挙対応に加えて、FRBの利下げという追い風も吹くとの見通しに基づけば、米国の株価の基調はしっかりとなる可能性があります。ただし、下記2点の注意点などを踏まえれば、「一本調子の株高」というよりは「短期調整を何度か挟みながらの株高」になるかもしれません。
①米国の経済政策不確実性指数とVIX指数の乖離
【左下】は、米国の経済政策不確実性指数とVIX指数を示しています。米国の経済政策不確実性指数(4週移動平均)をみると、2025年4月の米関税政策の転換を受けてピークアウトしつつあり、今後も低下していくとみてはいるものの、未だ歴史的な高水準である点には注意が必要です。一方、同指数と連動する傾向があるVIX指数2は先んじてかなり低下しており、両指数には大きな乖離があります。言い換えれば、株式市場は足元の依然不透明な政治経済情勢対比でやや楽観に傾きすぎている可能性があるため、何らかのネガティブイベントが発生した際にはある程度の株価調整が生じるリスクを警戒しておくべきでしょう。
2 米国金融市場のボラティリティを示す指標の一つ。株安が懸念される局面などで上昇する傾向があり、20を超えると不安心理が高まっていると解釈される。そのため、VIX指数は「恐怖指数」と呼ばれることもある。
②第1次トランプ政権時の「クリスマスショック3」後の株価の戻りの歴史
【右上】は2018年9月~2019年12月まで、【右下】は2025年1月~2025年6月30日までのS&P 500の推移をそれぞれ示しています。今年の4月にかけて発生した「米相互関税ショック」は、2018年の「クリスマスショック」と似ています。具体的には、(1)S&P 500が弱気相場入り寸前まで大幅に下落した点、(2)株安の一因がトランプ関税であった点、(3)「トランプ・プットやFRBプット4」への期待で急落後の戻りが非常に早かった点などが挙げられます。
以上を踏まえた上で、ここから先の相場を占うにあたって参考になる過去の歴史は、「クリスマスショックの株価下落分を回復した後の経済政策と市場の動向」でしょう。米中貿易摩擦が起きていた当時を振り返ると、株価が急落前の水準まで一本調子で回復した後は、「乱高下を繰り返しながらの株高基調」へと移行しました。このような相場付きになったのはなぜでしょうか。それは、最終的には米中貿易合意やFRBの利下げに向かっていったため基調としては株高を維持したものの、その過程では米政権が譲歩を迫る目的で対中関税第3弾や第4弾を発動したことにより一時的なリスクオフを複数回挟んだためです。今回も、米中間選挙対策やFRBの利下げ期待を背景に株高基調を保つ一方、トランプ米大統領は株価や支持率にある程度余裕ができたタイミングを見計らって追加の分野別関税の引き上げや貿易交渉における脅しなどを発動する可能性があります。これらは株安基調への転換を示唆するものではないものの、複数回の短期的な株価調整に繋がるリスクがあります。