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Guide to the Marketsで解説!米関税が世界の経済・物価・金融政策に与える影響は?

<要旨>

  • 米国の実質GDP成長率について、米関税などの悪影響は今年の7-9月期に表れるものの、翌10-12月期からは回復する見込みです。現時点で2026年は世界的に底堅い成長率が見込まれており、米国の見通しも下方修正が終了し、上方修正に転じています。
  • 米国の消費者物価指数(CPI)の前年比のピークは今年の10-12月期に訪れる見込みです。米関税によるインフレ加速が一時的かどうかは中長期のインフレ期待次第だと考えていますが、現時点で、同インフレ期待は抑制されています。
  • 米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策については、市場では年内2回の利下げが見込まれているものの、年内0回を予想する米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者も少なくありません。今後の利下げの有無については、関税などが経済に与える影響次第でしょう。欧州中央銀行(ECB)は連続利下げを一旦ストップしたものの、秋以降の利下げ再開が予想されています。日銀は年内1回の追加利上げが行われるとの見方が現状優勢であり、米欧とは対照的に利上げ路線を継続する見込みです。

Guide to the Markets 2025年7-9月期版で解説『主要国・地域の実質GDP成長率見通しと景気後退確率』

上記の図表の【左上】は、米国の景気後退の予兆を感知する「炭鉱のカナリア」とされる米国ハイ・イールド債券の信用スプレッドを示しています。2025年4月の米相互関税発表直後はこの米国ハイ・イールド債券の信用スプレッドが上昇しました。また、【左下】が示すエコノミストが見込む米国の景気後退確率も今年の年初の20%から4月に40%まで上昇しました。しかし、その後は「トランプ・プット1」や「TACO2」などが意識され、景気後退懸念は長続きしませんでした。足元では米国ハイ・イールド債券の信用スプレッドが再び低位安定状態に戻り、景気後退確率も37.5%に若干低下しています。

1 株式市場の大幅下落などに直面した際に、トランプ政権が政策の軌道修正や市場支援策を講じること。
2 Trump Always Chickens Outの略。トランプ大統領は最終的にはいつも尻込みして強硬的な政策・姿勢を緩和するという意味。

【右上】は、日米欧中の実質GDP成長率(前年比)のエコノミストによる予測値を示しています。2025年の予測値をみると、いずれも力強いとまではいかずとも底堅いことが確認できます。なお、前期比年率でみた米国実質GDP成長率のエコノミストによる予測値は、関税の悪影響がハードデータ(GDPなど実績を集計して発表される経済指標)に表れることもあり今年の7-9月期が+0.8%と冴えませんが、翌10-12月期以降は加速していく見込みとなっています。
また、市場参加者は常に半年先や1年先を見据えるため、そろそろ来年の経済動向も気にし始める時期に入ってきたと言えるでしょう。そこで2026年の日米欧中の実質GDP成長率の予測値を確認してみると、2025年と同様にいずれも力強いとまではいかずとも底堅いことが確認できます。米国の2026年の成長率見通しは、【右下】が示している通り、年初の2.0%から米相互関税発表後の1.4%まで大きく下方修正されたものの、その後は関税懸念低下などが意識されてか上方修正が入り始めており、足元では1.6%まで回復しています。
今後は、減税期待やFRBのハト派化期待(→来年半ばにはトランプ大統領が指名する新FRB議長が就任)などを織り込むかたちで2026年の実質GDP成長率の予測値が更に上方修正されていくかどうかに注目です。

Guide to the Markets 2025年7-9月期版で解説『米国:インフレ率と長期の期待インフレ率』

上記の図表の【右上】は、2025年と2026年の米国CPI(前年比、年間ベース)のエコノミストの予測値を示しています。2025年の予測値をみると、関税によるコア財価格の上昇懸念が強く意識され、年初時点の2.5%から4月の3.2%まで上方修正されたものの、その後は下方修正に転じ、直近では2.9%まで低下しました。
なお、「将来のどの時点・どの水準でインフレ率がピークアウトするのか」という点については、【左】のCPIのエコノミスト予想集計値が示している通り、現時点では今年の10-12月期に3.3%まで上昇した後、来年10-12月期の2.5%まで鈍化していくことが見込まれています。「関税でインフレが来る」といっても、【左】で示されている2021年半ばから2023年初頭にかけて経験した5-9%の大インフレ期の水準とは随分距離がある点は改めておさえておきたいところです。

次に、関税が物価に与える影響が本当に一時的かどうかについて考えてみましょう。この点については、「中長期のインフレ期待をしっかり抑制し続けられるかどうかに左右される」というパウエルFRB議長の見方がポイントになります。そこで【右下】で示しているインフレ期待のデータを確認してみると、よくメディアで取り上げられる米ミシガン大学消費者調査における消費者の長期の期待インフレ率(5-10年先)は、トランプ関税前の3%から足元の4%まで跳ね上がっており、危険視されています。しかし、より信頼度の高い米ニューヨーク連銀の消費者のインフレ期待(5年先)は3%弱で変わらずしっかりアンカーされているほか、金融市場が織り込む将来のインフレ率も2%台半ばで安定的に推移しているため、少なくとも現時点では関税によるインフレ加速は一時的と考えられています。

Guide to the Markets 2025年7-9月期版で解説『日米欧の金融政策とその見通し』

上記の図表では、日米欧の金融政策とその見通しについてみています。
以下はいずれも執筆時点(7月23日午前時点)の見通しです。

FRBの金融政策

米相互関税の不安が高まっていた2025年4月前半には、6月から年内3-4回の利下げが市場で織り込まれていたものの、景気懸念が和らいだ結果、足元では早ければ9月から年内2回の利下げが見込まれています。なお、6月のFOMCで示されたドット・チャートでも中央値ベースで年内2回の利下げが予想されていましたが、年内0回と見ているFOMC参加者が前回の4人から7人(全体の3分の1以上)に増えている点には注意が必要でしょう。この「0と2の分断」は、①仮にこれから関税の悪影響が表面化し、景気や労働市場が冷え込む場合は、市場の織り込み通りFRBは年内の利下げに踏み切る一方、②関税の悪影響が限定的で、むしろ減税や規制緩和への期待などの方が強く、ソフトデータ3やリスク資産価格が堅調であれば、FRBは年内の利下げを見送る可能性があることを示唆しています。

3 消費者や企業の心理状態を判断するための調査を基にしたデータであり、景気の先行きを読む材料としても活用されることがある。

ECBの金融政策

2025年6月の理事会まで7会合連続の利下げを実施してきましたが、現在ラガルドECB総裁は利下げを一時停止する可能性を示唆しています。市場の織り込みを見ても、7月の連続利下げは織り込まれていません。しかし、投資家は景気および物価の見通しは下振れリスクの方が大きいと見ているため、「6月で利下げ終了」とまでは考えておらず、2025年9・10・12月のいずれかの会合で追加利下げがあると予想しています。

日銀の金融政策

市場は年内の追加利上げの可能性を9割程度と見ています。「利下げに向かう米欧」に対して「利上げに向かう日銀」というかたちで金融政策の方向性が逆の状態は変わっていません。

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