投資におけるESGのトレードオフ:“よい行い”と“結果を出すこと”
2021/11/09
Caspar Siegert
Karen Ward
Nicolas Aguirre
Philippa Clough
Kerry Craig
Tim Lintern
Patrik Schöwitz
Shivani Sharma
ポイント
- 当社では、パブリック(上場)市場への投資において「よい行い」をすることと「結果を出す」ことは必ずしも矛盾しないと分析しています。
- 投資家がリターンを最適化するためには、ESGスコアの平均が高い資産クラスを選択するのではなく、各資産クラス内のESGリーダーや「ESGインプルーバー(ESGの取り組みが改善されている企業)」を活用する必要があります。
- 未公開市場も含め、できるだけ幅広い投資機会を検討すべきです。

最近ではESG(環境、社会、ガバナンス)は幅広く浸透したといえるでしょうか。はい、サステナブル投資に対する関心は確実に世界的に高まっており、リスク調整後のリターンを高める(「結果を出す」)と同時に、持続可能性に貢献しようとする(「よい行い」をする)投資家がこの動きを後押ししています。
しかし、その一方でESGを重視すると投資リターンが損なわれるのではないかと懸念する投資家もまだいます。当社の分析では、そのようなことはないと示されています。当社では、パブリック(上場)市場への投資において「よい行い」をすることと「結果を出す」ことは必ずしも矛盾しないと分析しています。ある地域の株式・債券市場へ投資をするうえで、ESG要素を組み入れることにより、トータルリターンやボラティリティの面で不利になることはありません。当社のデータ分析では、業種中立型の株式ポートフォリオは、ESGリーダー(J.P.モルガン・アセット・マネジメントのESGスコアリングで好成績の企業)に傾斜したからといってベンチマークを下回るパフォーマンスとなることはありません。
資産クラスの選別、ESG最適化
リサーチでは、ESG要素を組み入れること自体は必ずしも財務的コストを伴うものではない(収益の追求を阻害しない)ことが示されています。しかし、投資家がESG特性のスコア付けが容易でスコアが入手しやすい資産に投資対象を狭めてしまうと、結果としてコスト(機会損失)が発生する可能性があります。例えば、ポートフォリオに最低限のESGスコアを求める投資家は、新興国市場など特定の市場や地域を避けたいと思うかもしれません。より良いポートフォリオのソリューションは、まず地域別、そして次に地域内でのESGスコアに基づく最適化を行うことだと当社は考えています。
ポートフォリオ構築についてより幅広い視点から考えると、投資家はまず、望ましいリスク・リターンの結果に基づいて資産クラスを検討し、その次に各資産クラス内のESG特性の最適化を図るべきです。これは本質的には、ポートフォリオを各資産クラス内でのESGリーダーや「ESGインプルーバー」に傾斜させることを意味します。
未公開市場の可能性
投資機会は、パブリック(上場)市場のみならず未公開市場も含めた、できるだけ幅広い投資機会を検討すべきです。しかしながら、未公開市場におけるESGリーダーを特定するのは間違いなく困難な作業となるでしょうです。なぜならば、まだ多くのESG情報の透明性が著しく低く、より多くの調査や研究が必要だからです。
そうは言っても、この市場に背を向けることは大きな損失につながります。未公開市場は、インカム、分散、アルファの面でポートフォリオのソリューションとなりつつあるからです。未公開市場への投資はリターン目標の達成に有益なだけでなく、こうした市場の規模や重要性が拡大する中、持続可能な成果を得るためにも不可欠なものとなるでしょう。
26回目となる2022年版では、パンデミックが残した「経済的損失は限定的だが財政・金融政策の影響は何年も続く」という課題が次の景気サイクルにどのような影響を与えるかを探ります。パブリック(上場)市場ではおおむね低いリターンが予想されていますが、伝統資産以外にも目を向ける準備ができていれば、投資家は十分なリスクプレミアムを得ることができると考えています。
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