暗号通貨:バブル、ブーム、それともブロックチェーン革命か
2021/11/09
Dr. David Kelly
Thushka Maharaj
Michael Albrecht
Sean Daly
Meera Pandit
Maria Paola Toschi
Daniel Wiesman
ポイント
- ビットコインに代表される現代の暗号通貨(仮想通貨)には、通貨として大きな欠点があると考えます。
- 暗号通貨は投資家の関心を大いに集めていますが、極めて投機的な資産に映るほか、ポートフォリオにおける役割がまだ明確には示されていません。
- 各国中央銀行は、今後数年のうちに独自のデジタル通貨を発行する可能性があります。しかしその結果、ブロックチェーン技術の導入当初に構想されていた、理想的な分散型の金融システムとはならない可能性があります。

暗号通貨の元祖とも呼べるビットコインと、競合するその他無数の暗号通貨は、金融業界で揺るぎない地位を確立しつつあります。暗号通貨を支えるブロックチェーン技術は革命的といえます。信頼できる第三者の介在を必要としない非中央集権的なピアツーピアの取引が可能となるうえ、同じ資産が二重に使用されるリスクにも対処しています。ビットコインは、ボラティリティの高さにもかかわらず、一部の投資家に富をもたらし、多くの人々の注目を集めました。 また、あらかじめ発行量が限定されており、その希少性から、安全資産と目されている金の地位に代わる可能性も秘めています。
しかし、そうした評価にもかかわらず、ビットコインのような暗号通貨は、通貨としても資産としても大きな限界に直面していると当社は考えています。暗号通貨が伝統的通貨の仲間入りをできるかどうかは定かではなく、ポートフォリオにおける役割も未だ明確になっていません。当社は、今後数年のうちに各国中央銀行が独自のデジタル通貨を発行する可能性が高いと考えています。たとえ暗号通貨が一過性のブームに終わったとしても、それは最も揺るぎない遺産の一つになるでしょう。
通貨としての暗号通貨の限界
暗号通貨は価格変動が非常に激しく、伝統的な通貨の機能(価値の保存、勘定単位、交換手段)には適していません。取引のスピードは、クレジットカードその他の決済プラットフォームに比べ大きく劣っています。また、暗号通貨システムは、その検証プロセスの基本設計のためにエネルギー集約的でもあります。さらに、暗号通貨は無記名であるため、本質的に盗難や紛失が発生しやすい資産です。
ポートフォリオにおける暗号通貨の役割
ポートフォリオにおける暗号通貨の3つの潜在的な役割について検討してみましょう。いずれの場合も、暗号通貨がポートフォリオのパフォーマンスに寄与する可能性について未だ説得力をもって示すことができないことが(ビットコインの分析を通じて)明らかになりました。暗号通貨は以下のような性質を有すると考えられます。
- 分散投資先や安全資産としての信頼性が低い:ビットコインと、株式や債券との相関は不安定で、ボラティリティは金よりもはるかに顕著となっています。
- インフレヘッジ手段としての限界:ビットコインとインフレ期待との間に強い相関は示されていません。
- テクノロジーセクターへのエクスポージャーを増やす手法としては不十分:ビットコインはテクノロジー株よりもボラティリティが高く、株式のような企業の所有や支配権を持つこともできません。ビットコインとテクノロジー株の相関性は見せかけのもので、「次なる大物」を見つけようとする投資家の関心を反映しているに過ぎないかもしれません。
おそらく、ポートフォリオ内における暗号通貨については、根底にあるブロックチェーン技術のコールオプションと捉えることが最も適切といえます。これらの資産はオプションと同様に価格が変動しやすく投機的で、投資家にとっての将来性は限定的です。
当社の分析において、株式と債券を60 : 40の比率で組み入れたポートフォリオにさまざまな形でビットコインを配分する場合、ポートフォリオのボラティリティ調整後のリターンを維持するには、どの程度の期待リターンが必要となるかを検討しました。その結果は「極めて高いリターンが必要になる」というもので、ビットコインの配分はいずれの形でも慎重に行う必要があります。
中央銀行発行のデジタル通貨
暗号通貨の存在は、各国中央銀行にデジタル通貨の発行を促す圧力をもたらしており、多くの中央銀行がその可能性を積極的に模索しています(中国人民銀行はすでに独自のデジタル通貨を発行)。一部の中央銀行のデジタル通貨ではブロックチェ-ン技術の要素を取り入れるでしょうが、その結果として、ブロックチェーン革命の初期段階で構想されていた、中央管理者の不要な分散型金融システムの理想とはほど遠いものとなる可能性が高いでしょう。
26回目となる2022年版では、パンデミックが残した「経済的損失は限定的だが財政・金融政策の影響は何年も続く」という課題が次の景気サイクルにどのような影響を与えるかを探ります。パブリック(上場)市場ではおおむね低いリターンが予想されていますが、伝統資産以外にも目を向ける準備ができていれば、投資家は十分なリスクプレミアムを得ることができると考えています。
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