グローバル債券市場の見方|2023年第2四半期
グローバル債券運用部門(GFICC)が四半期毎に開催する投資戦略会議で議論された投資テーマとシナリオをご紹介します
2023/03/13
Bob Michele
要旨
- J.P.モルガン・アセット・マネジメントのGFICC投資戦略チーム(以下「当チーム」)では、インフレ抑制のための中央銀行のタカ派的な姿勢を考慮した結果、景気後退をメインシナリオに据え置き、その発生確率を60%とした。その他のシナリオの発生確率は、トレンドをやや下回る成長を35%へと引き上げ、危機を5%に引き下げた。
- 1981年以来の急速な金融引き締めは経済に局所的な打撃を与えているが、健全な企業財務、経済活動の回復、中国の経済再開、そして何よりもパンデミック下の過度な経済刺激策で蓄積された過剰貯蓄によって、より広範にわたる影響は緩和されている。
- 当チームが考える最大のリスクは、賃金・物価スパイラルである。市場は金融環境の更なる引き締まりを織り込んでいるが、米連邦準備制度理事会(FRB)はどの程度の水準まで利上げを行うのだろうか。現時点では、当チームはフェデラル・ファンド・レート(FF金利)が5.5%に達するまで25bps単位の利上げが行われると見込んでいる。また、FF金利が6%以上になる可能性も否めず、実現した場合には、リスク資産の価格は急落すると考えている。
- 景気後退に向かう中、当チームが出したベスト・アイデアは、満期までの期間が短く高格付けの投資適格社債や証券化商品等への投資である。また、現地通貨建て新興国債券や政府系不動産担保証券(MBS)も投資対象として選好する。
シナリオの発生確率(%)
出所:J.P.モルガン・アセット・マネジメント、見通しは2023年3月8日現在
金利ショックはやってくるのか
当チームの2023年3月の四半期投資戦略会議はパウエルFRB議長の上院での議会証言後にニューヨークで開催された。中央銀行による積極的な金融市場の引き締めにもかかわらず、未だに堅調な労働市場と粘着性の高いインフレについてマーケットが理解しようとする中、パウエル氏はタカ派姿勢を鮮明にした。パウエル氏の証言の背景には、ひょっとすると我々のように金融引き締めの効果が想定よりも局所的だったことに対して苛立ちを感じていたことがあるのかもしれない。もしくは、金融引き締めの効果が出るまで待ちきれなかった可能性も考えられる。理由が何であれ、彼は50bpsの利上げの可能性を再浮上させマーケットに揺さぶりをかけた。
当チームは、経済や市場に関するデータを深く掘り下げることに多くの時間を費やし、最適なリスクの取り方を把握しようとした。1981年以来最も急速な金融引き締めによって、経済の一部分、特に金利変動に対して敏感な部分は影響を受けている。しかし、低い失業率、健全な欧米の企業財務、高いインフレ率、そして依然として潤沢な超過貯蓄という現実を直視すると、これまでの450bpsの利上げが経済成長を抑制し、インフレ率を引き下げるのに十分であったかどうか疑問視された。もし12ヶ月未満という短期間で450bpsという急速な利上げを断行しても不十分であれば、6%以上のFF金利誘導目標も現実味を帯びてくるかもしれない。
マクロ経済の動向
金融政策が住宅市場を減速させ、融資環境を厳しくし、特に債務依存度の高い国において事業投資を押し下げているのは明白である。しかし、引き締め効果の時間差を考慮しても労働市場はなお逼迫しているほか、過剰貯蓄と一部のセクターにおけるパンデミック以降の需要回復により、一時的ではあるものの金融引き締めの効果は弱まっている。さらに中国の経済再開と欧州の暖冬がグローバルの成長を加速させている。中国の経済再開により消費が増えている一方、欧州では異例の暖冬でエネルギーコストが削減でき可処分所得の増加が見込まれる。
結局のところ、中央銀行にとってはインフレ圧力との戦いが最優先事項である。2%のインフレターゲットに向けて前進し、金融政策を落ち着かせ、市場心理を回復させることは可能だろうか。当チームは労働市場の緩和が鍵を握ると考えている。FRBが賃金上昇率を3.5~4%に引き下げることができれば、コアインフレ率は最終的に約2.25%に低下すると考える。しかし、現在の低い失業率は、賃金上昇の鈍化が極めて難しい可能性を示唆している。もちろん、賃金を引き下げる最も簡単な方法は失業率を高めることであるが、景気後退とハードランディングのリスクを大幅に高めることになる。今のところ、当チームはFF金利が5.5%に達するまで、25bps単位でFRBが利上げを行うことを想定している。
40年ぶりのアグレッシブな金融引き締めサイクルが経済活動の抑制とインフレ圧力にほとんど影響を与えていないことは納得し難い。金融政策が実体経済に影響を与えるのに1年以上かかることがあるとの認識はチーム内でもあったものの、今頃には多くの市場シグナルは利上げ効果を示すだろうと想定していた。
当チームは、パンデミック下の過剰な金融・財政刺激策で市場へと流れた資金は依然として滞留していると結論付け、結果としてFRBによる金融引き締めの効果が薄れていると考えている。このことから、過剰貯蓄が問題の核心といえる。J.P.モルガン・アセット・マネジメントの独自のデータベースによると、預金残高は低所得層においてもコロナ前の水準を上回っている。米国の大手企業は、過去数年間にわたって緩和マネーの恩恵を受けて低コストで調達した資金を備蓄し、最終的な景気後退に備えてきた。また、州政府と地方自治体の財政状況を見ると、財政安定化基金(Rainy Day Funds)は過去最高に近い水準にあることが分かる。
過剰貯蓄は、インフレと資金調達コストの上昇を相殺し、企業や家計の継続的な支出を可能にしているようである。また、労働市場が逼迫しているため労働者は賃金の改善を求めることができ、結果的に市場全体の価格水準は上昇する。これはまさに、すべての中央銀行が回避しようとしている賃金・物価スパイラルの構図である。
シナリオ見通し
景気後退の確率は60%と前回から変更せず、今後3-6ヶ月間の市場センチメントに関するメインシナリオとした。中央銀行はインフレ退治モードの姿勢を優先しているため、FRBは目標を達成するまでFF金利を上げ続け、最終的に、誰もが回避を望んでいた痛みを伴う景気後退が待ち受けるだろう。
また、危機の確率を10%から5%に引き下げ、トレンドをやや下回る成長の確率を30%から35%に引き上げ、世界経済の回復力を認めた。野心的かもしれないが、1995年のようにソフトランディングを達成する可能性はあるのかもしれない。
トレンドを上回る成長は0%で前回から変更なしとした。世界各国の中央銀行は、インフレ目標の達成を最優先とし、景気悪化を犠牲にした徹底した金融引き締め策を言明している。
リスク
私たちの予測における主なリスクは、中央銀行がインフレ率を十分に下げることができず、時間差で現れる金融引き締めの累積的な影響を見過ごしてしまい、市場の想定を大きく上回る利上げを続けることである。その場合、利上げに歯止めをかけた頃には深刻な景気後退が発生するだろう。
市場は利上げを相当程度織り込んでいるものの、FRBの政策金利が6%、およびECBの政策金利が4%以上となった場合には、資産価格の急落を引き起こす程のショックとなるだろう。信じがたいかもしれないが、中国の経済活動が引き続き加速し、ロシアのウクライナへの軍事侵攻がエネルギーと農産物の価格上昇圧力を再燃させた場合、十分あり得るシナリオである。
債券投資戦略への示唆
今回の会議で出たベスト・アイデアは、満期が短く高格付けのコア型債券である。米2年債利回りは現在5%、先物が織り込むFF金利のピーク水準は5.625%と、市場はFRBの更なる引き締めを予想しており、年限の短い債券のキャリーは相当に高まっていると考えている。加えて短期の投資適格社債と証券化商品への投資によって利回りを6%~7%まで高めることができ、これらのセクターの2023年通年のリターンがマイナスに陥る可能性は低いと考える。
また、現地通貨建て新興国債券も大きな関心を集めている。2021年初頭に始まった新興国の中央銀行による積極的な引き締めは目覚ましく、現在、これらの市場では実質利回りが非常に高い水準にあると見る。また、米ドルはピークを迎えつつあり、現地通貨建て新興国債券はドル安の恩恵が期待できるだろう。
最後に、政府系MBSも割安であると考える。負のコンベクシティ、銀行の需要の減退、そしてFRBによる下支えの終了から1年が経ち、市場は一新されたように見える。また、利回りが魅力的な国債は、景気後退へと向かう中で理想的な投資といえる。
まとめ
歴史を辿っていくと、FRBの利上げから景気後退までの道のりでは、経済が一旦はソフトランディングが予見されるフェーズを迎えるものである。1981年以来、最後の利上げから景気後退までの平均期間は13ヶ月であった。これは、2023年第2四半期に利上げを停止した場合、2024年半ばまで景気後退に陥らない可能性もあり得るということだ。その待機期間中、ソフトランディング派、リセッション派、ハードランディング派、どの派閥も自分が正しいと主張できる。しかし、当チームはインフレ討伐が景気後退と深刻な金利ショックを近い将来もたらすと考える。そのため、ポートフォリオを万全にすることで、いかなる試練にも備えることが重要であると考える。
シナリオの発生確率と投資への影響:2023年4-6月期
四半期投資戦略会議では、J.P.モルガンのGFICC全体のリード・ポートフォリオ・マネジャーと各セクター担当者が集まり、債券市場に関して議論を尽くす。その中で、マクロ経済および各セクターを、ファンダメンタルズ、定量、テクニカル(FQT)の3つの主要な観点で分析し、目先3~6ヶ月の投資テーマの選定と、さまざまなシナリオごとのベスト・アイデアの立案を行う。以下の表は、各シナリオの見通し、それぞれの生起確率、および各シナリオがマクロ経済と金融市場に与える広範な影響をまとめたものである。
出所:J.P.モルガン・アセット・マネジメントGFICC投資戦略チーム。2023年3月8日時点。金融市場のトレンドに関する意見、推測、予測、記述は作成時点のものであり、投資判断に影響しています。またこれらは予告なく変更されることがあります。これらは将来を保証するものではありません。
GFICC: Global Fixed Income, Currency and Commodities