要旨

  • マルチ・アセット・ソリューションズ(以下「当チーム」)のメインシナリオは潜在成長率を下回る経済成長と、徐々に鈍化するインフレ率であり、今後6-9ヵ月において景気後退へ至る確率は前回の35%から25%へ引き下げている。経済の先行きは、上振れ、下振れ、双方向のリスクが存在しており、投資家は両者に注意する必要がある。
  • 経済の主な下振れリスクとしては、信用収縮や、インフレ率の再加速が挙げられる一方、上振れリスクとしては、在庫循環の立ち直りや、実質所得の回復、企業及び家計の頑強なバランスシートを背景に景気サイクルが延びることが挙げられる。
  • 当チームは継続してデュレーションをオーバーウェイト、キャッシュを僅かなオーバーウェイトとしている。インフレ率が鈍化するにつれ、株式と債券の相関が低下する中で、株やクレジット、景気感応度が高いシクリカル通貨によって選択的にリスクポジションをとっていく方針である。株式はアンダーウェイトからニュートラルへ引き上げており、クレジットは引き続きニュートラルとしている。
  • キャッシュ利回りが高いことにより、多くの資産クラスにおいて強い方向感を持ってポジション構築することが困難となっている。しかし、レラティブ・バリューによるポジション、ボトムアップ分析によるアルファの両者において投資機会は存在している。

マーケットの状況や、金融政策の見通しにおいて、2023年第1四半期末と第2四半期末で比較すると、大きく異なっており、同じ年の出来事とは思えないほどである。第1四半期末においては、米国の地銀におけるストレスが、壊滅的な危機へと発展することが懸念されており、年後半には景気後退へ至る確率が上昇した。対照的に、第2四半期においては、底堅い経済成長が見られ、米国地銀への懸念は後退、S&P 500指数は人工知能への注目を背景に約7%上昇、米連邦準備制度理事会(FRB)による金融政策の見通しは急速に転換された。利上げ停止が目前に迫っているという期待は後退し、堅調な経済活動を背景として、より高いターミナル・レート(利上げの最終到着点)へ向けた金融引締めが見込まれている。

このような急転換は投資家を多少動揺させたかもしれないが、今年中に景気後退へ至る確率は低下したものと考えている。潜在成長率を僅かに下回る経済成長の中で、上振れ、下振れ、双方向のリスクが存在している。下振れリスクとしては、逆イールドや、信用収縮などにより、景気後退へ至る可能性は引き続き存在する。上振れリスクとしては、在庫循環の立ち直りや、実質所得の回復、企業及び家計の頑強なバランスシートを背景に景気サイクルが延びることが挙げられる。今後6-9ヵ月において景気後退へ至る確率は前回の35%から25%へ引き下げているが、インフレ率の再加速は、引き続き今年、来年における明確なリスクである。

グローバル全体で見ると、経済成長や金融政策に違いが見られ始めている。米国は想定より底堅い。欧州は定義上は緩やかな景気後退(2四半期連続でマイナス成長)となっているが、マーケットへの影響は軽微である。中国の経済成長は期待を大きく下回るものとなっている。日本は、経済再開による堅調な国内需要と、サプライチェーンの正常化から恩恵を受けている。一方、英国は、スタグフレーション懸念から、徐々に消費者の活動を鈍化させると理解しつつも、利上げを強いられている。

このような様相の変化によって、通貨や各資産クラスにおいて、投資機会がもたらされ始めているが、ポートフォリオ全体で考えると、上下双方向のリスクが存在することで、投資家は強い方向感を持ってポジション構築をすることが難しくなっている。加えて、足元ではキャッシュ利回りが魅力的であることも、ポジション構築におけるハードルの1つとなっている。結果として、当チームは、各資産毎に明確な方向感を持ってポジションを構築し、アルファ獲得を目指すことよりも、ボトムアップ分析による銘柄選択や各資産間のレラティブ・バリューによってアルファ獲得を目指すことへ高い確信度を持っている。今後数ヵ月間の中で、当チームの見方は変化する可能性があるため、足元でポートフォリオに柔軟性を持たせておくことが賢明と考えている。

資産クラスレベルにおいては、デュレーションを中程度の確信度でオーバーウェイトとしており、前四半期と比較し確信度は下がっている。株式はアンダーウェイトからニュートラルへと引き上げている。明確にしたい点としては、株式の購入を急かしているということではない。当チームは業績の下方修正サイクルは終了に近づきつつあると考えている。第2四半期において、株式市場は上昇したが、投資家ポジションは拡大しておらず、センチメントは引き続き警戒的であり、一桁台後半の収益増は当チームのメインシナリオである、潜在成長率を下回る経済成長及び徐々に減速するインフレ率と整合的である。

世界株式(MSCI ACWI)における15.5倍というバリュエーションは過去10年間の平均並みであり、メインシナリオにおいて、正当化されるであろう。デュレーションのオーバーウェイトは、ネガティブな景気シナリオに振れた場合にアウトパフォームすると考えている。他の地域よりも選好している日本株式や英国株式を増やす、もしくは株価下落時に株式全体のポジションを柔軟に復元する方針であり、ポジティブな景気シナリオに振れた場合、良好なリターンをもたらすと考えている。インフレ率が減速するにつれ、株式と債券の相関は低下していくとみており、株式と債券のバランスの取れたポートフォリオの支援材料となるであろう。とはいえ、高いキャッシュ利回りは、そのようなリスク資産のポートフォリオを構築する際に足かせとなり、特に市場における価格変動が方向感に欠けるときに顕著である。よって、キャッシュの中程度のオーバーウェイトを維持する。

今後数四半期は景気後退に至らないと想定すれば、クレジットは良好なパフォーマンスをもたらすと見ており、バランス型ポートフォリオのキャリーへの懸念も幾分か緩和するであろう。米国においてデフォルト率は歴史的に見て最低位であった0.23%から1.49%程度まで上昇している中で、スプレッド、そして特に最終利回りはリスク対比で良好な水準にある。クレジットに対するエクスポージャーがクオリティの高い銘柄中心に運用されている場合はより魅力的である。

総括すると、当チームの経済に対する見方は、前四半期よりも警戒的ではないが、ポートフォリオ構築に著しい変化をもたらすものではない。上下双方向のリスクを認識しており、デュレーションのロングポジションと、景気上振れに備えたポジションとして、株式やクレジット、ユーロのような景気感応度が高いシクリカル通貨などの組み合わせはマルチ・アセット・ポートフォリオとして良好な出発点であると考えている。高いインフレ率の継続、さらに悪いことにはインフレ率が再加速するということが、この見方における主なリスクである。しかし、徐々に物価が安定して落ち着きを取り戻すことや、引き続き底堅い消費活動、FRBの見通し通りの米国のターミナル・レートを背景に、資産市場におけるリターンは、僅かであっても、ポジティブとなり、当チームのポートフォリオの支援材料となると考える。

マルチ・アセット・ソリューションズ:主要な洞察と「ビッグ・アイディア」

今回のストラテジー・サミットにて詳細に議論された主要な洞察と「ビッグ・アイディア」は以下の通りとなっている。これらは、マルチ・アセット・ソリューションズのポートフォリオ・マネジャーとリサーチ・チームのコアの見方を反映したものであり、また、議論の土台となる共通認識となり当チームのアセット・アロケーションの議論において定期的に再検証されるものである。当チームでは、これらの「ビッグ・アイディア」を活用して、ポートフォリオのバイアスを確認し、また、全てのポートフォリオにこのアイディアが反映されていることを確認している。

  • 景気後退へ至る確率は低下、メインシナリオは上下双方向のリスクを伴う、潜在成長率を下回る経済成長。(米国で約1.5%)
  • インフレ率は、2023年を通じて目標水準よりも高位で推移し、金融引き締め政策が継続。
  • 魅力的なキャッシュ利回りは他の資産を検討する際のハードルとなる。
  • デュレーションのロングポジションは、メインシナリオにおいて、良好なインカムをもたらし、下振れ時にはプロテクションとなる。
  • クレジットにおけるキャリーは魅力的であるものの、クオリティの高い銘柄を選好する。
  • 業績の下方修正サイクルは大方過ぎたと考えているが、少数の銘柄が株式市場をリードしていることは懸念材料である。
  • 新興国株式の見通しは、中国の経済再開による企業収益増が見込まれないため、まちまちである。
  • 主なリスクとしては、高インフレ率の継続、もしくは再加速による更なる利上げ、企業の警戒姿勢、著しい信用収縮、地政学リスクが挙げられる。