議決権行使に関する基本的考え方
当社は2020年に改訂された日本版スチュワードシップ・コード受け入れ表明をしており、コードに対する取り組みを開示している。コーポレートガバナンスの重要性を認識し、責任ある機関投資家として、今後も企業との目的を持った対話(エンゲージメント)に取り組む。
また2015年6月に適用が開始されたコーポレートガバナンス・コードも、日本におけるガバナンスを推進する上で有意義な内容と考え、支持している。
なお、当社を含むJPモルガン・グループのアセット・マネジメント部門(以下「当社グループ」という。)は、国際連合による「責任投資原則」(United Nations Principles for Responsible Investment、以下、「PRI」という。)に賛同し、署名しており、投資プロセスにおいて、財務情報に加えて、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)(以下、「ESG」という)を考慮している。
議決権行使の目的
資産運用業者である機関投資家として株主の議決権を行使することは、「受益者の経済的利益に最も資する」という原則の下に、資産運用業務における受託者責任の一環として行う。議決権の行使にあたっては、投資対象の企業におけるコーポレートガバナンスを適切に評価し、中長期的な株主利益の最大化を目指すものとする。
各資産クラスの議決権行使について
議決権行使に関する具体的基準
基本的な考え方
顧客との投資一任契約により当社の裁量で議決権を行使できる日本株式、及び当社自身が運用する全ての投資信託で保有する日本株式を対象に、原則として全ての議決権を行使する。
議決権行使において、原則棄権は行わない。これは、株主総会が定足数を満たさないために成立しないという最悪の事態を回避するためである。
議決権行使は、当該企業の中長期的な収益見通しの向上と持続的な成長に資することを目指す。
当社は、企業とのエンゲージメントを重ね、企業価値向上を促す働きかけを継続的に行うことにより、顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を目指すことが重要であると考えている。従って、企業には、当社からの対話の提案に応じる姿勢を見せることを期待する。
どの議案においても説明が不充分、もしくはあいまいであり、解釈上株主が不利益を被る可能性があると判断した場合、原則として提案に反対票を投じる。
剰余金処分・配当・自社株買い |
当社は投資家として、企業の中長期にわたる持続的な利益成長と企業価値の増大を望んでおり、株主還元のみに注力するのは適切でないと考える。企業の様々な過程において、内部留保、設備・事業投資と株主還元のバランスは変化するものと理解している。 |
剰余金分配(配当)に関する取締役会決議を認める定款の変更 |
剰余金分配(配当)に関する取締役会決議を認める定款の変更については、反対票を投じる。但し、不測の事態においても適切な配当の支払いを可能とする目的で、取締役会決議への委譲も可能とする変更については、原則としては総会決議であることが確認できることを前提として、賛成票を投じる場合もある。企業が事前に四半期配当に移行する表明をしている場合は、株主還元の立場から望ましいと考え、賛成票を投じる。 |
取締役の選任 |
基本的に肯定的に判断する。社外取締役の独立性、取締役の数に関する別項の基準に抵触する場合は否認する。 |
取締役の数 |
取締役の数は、経営意思決定の迅速化のため15名以下が適切と考える。15名超を前提とする取締役選任の議案は、原則として承認しない。 |
取締役の任期 |
いずれの取締役も、定期的に再選任の過程を経るべきと考え、契約期間を1年以内とすることを望む。定款変更で取締役任期が1年に短縮されている場合には賛成し、任期が1年を超える提案は原則として反対とする。 |
取締役の在任期間 |
再任の取締役候補に関して、取締役に就任してからの在任期間を考慮する。特に在任期間が長い候補に関しては、その期間中の業績の推移等、再任の正当性を事例毎に検討し、総合的に判断する。取締役会構成においては、留任・新任のバランスに関する適切な配慮がなされることによる一定の経営刷新効果に期待する。 |
会長と最高経営責任者(CEO)の分離 |
会長と最高経営責任者(CEO)の役割は、通常分離しているのが望ましいと考える。 |
社外取締役の数 |
取締役会が実効性を発揮する上で、独立した社外取締役の存在は重要と考える。したがって、社外取締役の比率が総会後の取締役会で過半とならない場合、社長等、代表取締役の選任に原則反対する。 この項目の判断に際して、社外取締役、もしくは社外取締役候補が当社の独立性基準を満たしているか否かは問わない。ただし、個別の社外取締役の独立性に関する判断は、下記の「社外取締役の独立性基準」に沿って行う。 |
取締役会の構成 |
社外取締役の人数だけでなく、取締役会全体の構成も実効性確保の上で重要である。また、取締役会には、顧客、従業員、投資家等、全てのステークホルダーの意見を適切に代弁する責務がある。そのためにも、当社は、多様なバックグラウンドを持つ取締役が取締役会で過半を占めることが望ましい到達点であると考える。 したがって、個々の取締役の専門分野や性別、さらに在任期間や年齢層、国籍といった側面でのバランスなど、企業の持続的な成長にとって必要な多様性が十分に確保されるよう、創意工夫がなされることが望ましい。 特に、日本企業の取締役会においては性別の不均衡が目立ち、女性取締役の登用は最重要事項の一つであると考えている。以上の点をふまえ、当社では、継続的な企業との対話を通じて、取締役会のあり方等についての理解を深め、企業の中長期的な価値創造に資すると判断する場合には、選任案への賛否を通して企業に取組みを働きかける。原則として、女性取締役が不在の場合、社長等、代表取締役の再任に反対する。なお、2024年以降は、取締役会において女性取締役が複数名選任されていない場合、社長等、代表取締役の選任に反対する。2030年までに女性取締役の比率が少なくとも30%に達していることが望ましい。 |
社外取締役の独立性基準 |
制度上の基準を満たしている候補であっても、企業から適切な説明がない限り、以下の者は「独立性」があるとはせず、原則として選任案に反対する。また、以下の者以外で制度上の基準を満たしている候補であっても、利害関係があるように見受けられる候補においては、選任案に反対する。
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指名委員会等設置会社への移行 |
原則として、指名委員会等設置会社への移行は支持する。主要な監視機能、たとえば報酬、取締役の指名、監査を取締役会から独立した委員会に委託することに原則賛成する。 |
監査等委員会設置会社への移行 |
監査等委員会設置会社へ移行するにあたっての合理的な理由の説明が企業からあった場合、原則として、当該移行は支持する。 |
取締役解任決議要件の加重(厳格化) |
取締役解任決議の条件の厳格化(株主総会における普通決議から特別決議への変更)にかかる定款変更議案には反対票を投じる。 |
取締役会の実効性評価 |
取締役会の実効性は、ガバナンスシステムの健全な機能発揮および経営目標の達成を監視する上で不可欠である。取締役会の実効性については、毎年自己評価を行い、かつ適切な時期に第三者機関による評価を実施し、その結果を開示することが望ましい。 |
監査役の選任 |
基本的に肯定的に判断する。ただし、社外監査役の独立性に関する別項の基準に抵触する場合は否認する。再任の場合、反社会的行為・法令違反に関する別項の基準に抵触する場合は否認する。また社外監査役の再任に際し、取締役会の出席率が75%を下回る候補の場合、反対票を投じる。尚、補欠監査役候補にも通常の監査役候補の選任と同じ基準を適用する。 |
社外監査役独立性基準 |
制度上の基準を満たしている候補であっても、企業から適切な説明がない限り、以下の者は「独立性」があるとはせず、原則として選任案に反対する。
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役員等の報酬額等 |
会社の業績等を総合的に判断して認否を決定する。役員報酬には高い透明性を求め、個別の役員報酬の開示を支持する。役員報酬は独立性のある報酬委員会の諮問により決定されることが望ましいと考える。個別の役員報酬の決定を取締役会ではなく代表取締役に一任することは否定的に考える。個別の役員報酬または賞与の開示を要求する株主提案には、原則として賛成する。 |
退任役員等の退職慰労金額 |
会社の業績等を総合的に判断して認否を決定する。また、個別の退職慰労金額の開示を要求する株主提案には、原則として賛成する。以下の条件に該当する議案には、原則として反対票を投じる。
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ストック・オプション |
株主との利害共有の観点から、役員および従業員における株式保有は望ましいと考え、ストック・オプションや株式報酬の付与を奨励する。ただし、社外取締役・監査役は中長期的な企業価値向上に向けた経営の監督を担うため、付与条件が株価や業績と直接的に連動する場合には否定的に考える。
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会計監査人の選任 |
基本的に肯定的に判断する。ただし、利益相反の恐れがあると認められる場合には否認する。 |
取締役・監査役等(役員)、会計監査人の責任免除 |
取締役の法的責任の免除に関しては、法律により認められる所を除き、原則として反対票を投じる。 |
業績の悪化・不振 |
業績不振の企業からの議案については特に慎重に検討する。 |
資本効率改善への取組み |
利益率が資本コストを著しく下回っており、期待される水準まで改善する見込みが当面ないと当社が判断した場合については、代表取締役あるいは担当取締役に対して反対票を投じる。 |
反社会的行為・法令違反 |
反社会的行為とみなされる事例が認められた企業に対し、取締役、監査役選任再任案等に対して反対票を投じる。なお、過去の年度に反社会的行為と認識した事例の責任者がその後も取締役候補となっている場合、原則として再任には反対票を投じる。
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株式の保有・持ち合い |
当社では、議決権の形骸化や利益相反、資本効率の低下に鑑み、政策保有株式として上場株式を保有すべきではないと考える。従って、政策保有株式を新規に取得する企業、政策保有株式の完全売却への道筋が見えない企業等、政策保有株式の保有を是認する企業の取締役再任案には、反対票を投じる。 |
買収防衛策 |
買収防衛策は、プランの中味、及び株主価値の観点から事例毎に検討を行うが、一般的には反対票を投じることとし、既存の条項を無効とする目的の議案は支持する。また、長期的な観点から資本枠の拡大が株主価値を損なうと判断した場合も反対票を投じる。 |
その他買収防衛策 |
第三者に対する有利発行と当社が買収防衛策として認識するものとしては、以下のものが挙げられる。
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種類株式の発行 |
資金調達目的などについて合理的な説明がない限り、原則反対とする。 |
発行可能株式総数の増加 |
発行可能株式総数の拡大については、株主価値を大きく毀損することが明白であると判断される場合には反対する。 |
増資 |
増資は、その理由により判断する。買収に対する防衛のための増資には反対する。財務体質改善に資する増資には賛成する。 |
借入金 |
借入金の急速な拡大も、買収に対する防衛のためである場合は否認する。株主総会で賛否を表明する機会が無く反対意見を持つ時は、取締役の再任を否認する。 |
自社株買い |
自社株買いは、その会社の株式の価値を高めるものであれば承認する。株主総会で賛否を表明する機会が無く反対意見を持つ時は、取締役の再任を否認する。 |
買収・合併等 |
買収・合併等は、その価格が妥当でなければならない。株主総会で賛否を表明する機会が無く反対意見を持つ時は、取締役の再任を否認する。 |
バーチャルオンリー株主総会 |
株主総会は、企業の経営陣と株主との公平かつ建設的でオープンな対話の場であることに鑑み、当社は原則としてハイブリッド型バーチャル株主総会の開催を支持する。バーチャルオンリー株主総会は、参加できる株主が制限されることへの懸念が払しょくできないため、その開催はパンデミックなどの非常事態の場合に限定されるべきであり、その旨が説明されることが望ましいと考える。 |
環境・社会課題 |
当社は、企業の環境方針は企業業績に長期的な影響を与える可能性があると考える。優れたコーポレート・ガバナンス方針は、企業運営が環境に与える影響、環境関連法規制の遵守コスト、環境への物理的被害(原因の除去と原状回復費用を含む)、気候変動に関する消費者の選好や設備投資について考慮する必要があると考える。また、気候変動やその他の環境課題が企業運営や売上、設備投資にもたらす潜在的なリスクと機会について、株主が評価するための情報提供も必要であると考える。多くの企業が社会や環境課題への対応状況を開示しており、その内容も時間の経過とともに改善しつつあることを認識しているが、過度な費用や負担を伴わず、企業に競争上の不利益をもたらさないレベルで、環境方針と対応状況が企業業績に与える影響を株主が評価するに足る有意義な情報提供を企業に奨励する。 社会課題に関しては、労働慣行、サプライチェーン、それら課題に対する支援・監視体制、企業や競合他社における現在の開示状況、議案が企業の競争上の不利益をもたらさないかを考慮する。 環境関連議案の評価にあたっては、以下の事項を考慮するが、これらに限定されるものではない。
企業に関する考慮事項
開示、商慣行、または目標において企業が同業他社に遅れをとっていると考えられる場合、環境課題およびリスクの監視の責任を負う委員会の委員長の選任に反対する。更に、その遅れが数年にわたり続いている場合には、委員会の委員や筆頭独立取締役および/または取締役会議長の選任に反対する。 熱意ある多様な従業員層は、企業のイノベーション、多様な顧客層や企業をとりまくコミュニティとの関係構築に不可欠であり、株主利益をもたらすと考える。当社は、企業の開示が不十分であると判断した場合、ダイバーシティを含む従業員に関するデータの開示を求める株主提案を支持する。 行動規範、従業員および臨時従業員の雇用、人件費、従業員のエンゲージメント、離職、人材育成、人材保持とトレーニング、コンプライアンスの状況、健康と安全などの人的資本管理の状況を取締役会が監視することを期待する。人的資本管理の開示を求める株主提案については、当社はケースバイケースで判断する。但し、機密情報または取締役会が機密情報とみなした人的資本関連の情報開示を求める場合は反対する。 |
利益相反 |
投資先企業との営業上の関係等に左右されることなく、恣意的な、又は第三者への利益を伴う議決権行使(利益相反)を防ぐ目的で、当社が採用する議決権行使助言機関の意見も参照し、客観的、かつ合理的な意見を基に判断を行う。なお、当社がその運用資産のために議決権を行使するに際し、当社が属するJPモルガン・グループ内において商業銀行業務や投資銀行業務を行う会社との間で利益が相反する可能性が考えられる。そのような会社は、議決権行使対象の企業(当社の運用資産による投資先企業)に対する融資や、当該企業が発行する証券の引受等の取引関係を持つことがあり、その立場(当該企業に対する債権者等の立場)における利益は、必ずしも当社の運用資産における利益と一致しないためである。この利益相反を防止し、当社の議決権行使判断の独立性・整合性を維持するために、当社が属するJPモルガン・グループにおいては、他部門(商業銀行、投資銀行等)と当社を含むアセット・マネジメント部門間での業務に関する情報が他方へ流れることを組織的に規制し、議決権行使に当たっての利益相反を防止している。それでもなお、重大な利益相反の可能性が認められた場合、行使をするにあたり、法令及び顧客との契約において許容される限りにおいて、第三者に行使判断を求めるか、顧客に事前に行使判断の同意を得るか、棄権をする。 |
株主提案 |
議決権を行使するにあたり、投資先企業の中長期的な企業価値向上に資するかを判断の軸とし、株主利益を考慮した上で、全ての議案について個別に精査して賛否を判断する。 |
議決権行使に関する判断決定・執行プロセス
発行会社からの議案書は、受託信託銀行(以下、「受託行」という。)を介し、業務部が受領する。
インスティテューショナル・シェアホールダーズ・サービシーズ(ISS)社は、同社システム(以下、「ISS社システム」という。)に、議案情報及び当社の議決権行使ガイドラインに基づいた行使判断案を入力する。
業務部は、ISS社システム等から議案精査に必要となる情報をまとめ、上述の行使判断案と併せインベストメント・スチュワードシップ部に通知する。
当社では議決権行使に関する事項を議論、決定する場として、議決権行使委員会を設けており、その下でインベストメント・スチュワードシップ部が議決権行使プロセスを統括している。インベストメント・スチュワードシップ部は、各議案を精査した上で、当社のガイドラインに照らして賛否が明確な議案については、指図内容を業務部に通知する。個別の審議が必要な議案については、同委員会において意思決定を行い、指図内容を業務部に通知する。利益相反が懸念される場合や、当社が設定した優先課題にかかわる議案、株主提案など重大な議案については、議決権行使委員会において審議し、最終的な意思決定を行う。
業務部はインベストメント・スチュワードシップ部からの指図に従い、ISS社システムに指図内容を最終入力する。
業務部は、ISS社により代行作成された行使指図書を受領し、受託行に行使内容を指図する。
受託行が、指図に基づき行使書を作成し発行会社へ送付する。
議決権行使指図データについては、最低5年間保存する。
国内株式の議決権行使結果について、開示する項目その他の必要事項については、スチュワードシップ方針 原則5を参照のこと。
議案別議決権行使指図結果/個別銘柄の行使判断の開示
対象資産、対象口座
顧客との投資一任契約により当社の裁量で議決権を行使できる日本株を除くアジアパシフィック株式、及び当社自身が運用する全ての投資信託で保有する日本株を除くアジアパシフィック株式を対象に、原則として全ての議決権を行使する。
行使判断基準
議決権を行使する際の判断は、原則「JPモルガン・アセット・マネジメント」グループが定めるグローバルの議決権行使ガイドラインに基づき行うものとする。
議決権行使に関する判断決定プロセス
議決権に係る行使判断は、行使判断基準に規定するガイドラインに原則従い、日本を除くアジアパシフィック株式の運用を担当するポートフォリオマネジャーが行う。
海外に運用再委託している投資信託および投資一任口座における議決権行使は再委託先において、当社が確認した運用再委託先のガイドラインに沿って行うものとする。